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ラグジュアリースポーツウォッチの元祖として知られるロイヤル オークが今年で誕生50周年を迎えた。その最新作は早くも入手困難となっている。多くのユーザーを惹きつける、その魅力を見ていこう。
人類の夢であったアポロ計画が終了し、超音速旅客機のコンコルドが初めて日本に飛来した1972年。ミュンヘンオリンピックで盛り上がる欧州で、花柄シャツやパンタロンファッションが流行したのもこの頃だった。
そんな新しい時代を感じさせる世相の中で誕生したのが時計史にその名を刻むオーデマ ピゲの『ロイヤル オーク』だった。スポーティなスティール製ラグジュアリーウォッチの元祖であり、今なお多くのフォロワーを生み出している傑作時計だ。今年で50周年を迎えるロイヤル オークだが、その登場する前と後では当時の腕時計のスタイルは大きく異なる。それほどまでにエポックメイキングな存在だったのである。
伝説の始まりは、後に天才デザイナーとして一世を風靡するジェラルド・ジェンタへの依頼だった。当時のオーデマ ピゲのCEOによる革新的なスティールウォッチのデザイン依頼を、わずか1日でジェンタは見事にやり遂げてしまう。そのラフスケッチには、防水性能を備えた八角形のベゼルに8個のビスが留められ、ケースとブレスレットが一体型となった腕時計が描かれていた。さらにオーデマ ピゲは丈夫だが加工が困難なステンレススティール素材に、ゴールドと同じ価値を持たせるという野心も持っていた。そこでジェンタのアイデアで、硬いスティールケースを徹底的に磨き、ポリッシュとサテンの仕上げを使い分けて立体感を際立たせ、ゴールドウォッチの輝きに匹敵する時計を作りあげたのである。その磨きは職人がすべて手作業で行うため、生産数も増やせず、価格が高額になってしまうという結果ももたらした。しかし美しさが長く保持できるという点で、ゴールドウォッチより優れた時計を創り出したといえるのだ。
そして今年、最新モデルとなる、ロイヤル オークが発表された。50周年という節目もあって、新作はどのモデルもすでに入手困難。しかし卓越したデザインは見事に引き継がれ、時代に応じて気づかれぬように進化しているのも色あせない理由だ。この美しき時計の伝説はまだしばらく終わりそうにない。
ロイヤル オークの登場は、新時代を予感させる文化とジェラルド・ジェンタの卓越したデザインセンスが融合して誕生した、これまでにない価値を生み出した。しかし、優れたデザインだけでは誕生から50年を経た今もなお、愛される時計にはならなかっただろう。そこには、名門時計メーカーであるオーデマ ピゲがロイヤル オークに注ぎ込んだ、巧緻を極めた時計作りが欠かせなかった。
高級時計の世界では、時計の価値の80%は“仕上げ”と言われる。つまり、ケースやブレスレットを美しく磨き上げることだ。それを初めて実践し、ゴールド以上にステンレススティールの価値を高めたのがロイヤル オークだった。アイコンとなっている八角形のベゼルのパーツだけでも、専門の職人の手による70の磨き工程が存在し、仕上げの方法を磨き分けることで美しく立体的に仕立てている。一方で、八角ベゼルのビスをはじめ、針やインデックスにはゴールドが採用され、プレミアム感をさりげなく盛り込んだ。
ダイヤルは「タペストリー」と呼ばれるモチーフが施されている。単なる格子柄ではなく、よく見るとギヨシェ彫りという装飾技術で四角錐の形をした立体的な模様に仕上げた。これにより様々な方向へ光が反射し、ダイヤルの輝きが増す効果をもたらしている。文字盤にこの模様を施す作業は、一枚仕上げるのに19世紀製の専用機械を使い、1時間もかかるという。
ロイヤル オークは高いデザイン性、時計としての完成度、時代を反映したカルチャーアイテムとして、さらに評価が高まるだろう。一方で製造には手間と時間がかかるゆえ生産数に限りがあり、現在も入手困難が続く。しかし、そこで諦めていい時計ではないことは、その50年の歴史が如実に物語っている。
1972年前後には、現在も記憶に残る名作映画やスポーツの記録を打ち立てた。中でもマフィアの世界を描いた 「ゴッドファーザー」の第1作目はアカデミー賞とゴールデングローブ賞を獲得し、人気を博した。新しい時代を予感させるアバンギャルドなカルチャーが次々と登場し、ロイヤル オークが生まれる背景となったのだ。
STAFF
Photos: Audemars Piguet(Japan),gettyimages
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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