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安易に「フェラーリ版SUV」などと呼ぶことを、決して許さない唯一無二の佇まい。フロントフードの下には6.5L、最高出力725馬力のV型12気筒DOHCエンジンが与えられ、フェラーリならではの、妙なる咆吼を発している。そして極上の調度に囲まれながらステアリングを握る者は、78年の歴史の時間によって培われた『新感覚フェラーリGT』の立ち居振る舞いを味わう。それは品行方正なるフェラリスタにのみに許される、至高の時間なのだ。
「品行はなおせても、品性はなおらない」。零戦の設計主任として知られる航空技術者、堀越二郎が残した言葉だ。「品行」は普段の行いや行動、そして道徳的な考えに支えられたものであり、修正できる。一方「品性」とは、生まれ持ったものであり、容易には変えることができない厳然たるもの。そして、あくまでも個人的な感覚だが『プレミアムカー』と呼ばれる、言わば高級車と呼ばれる存在を考えるとき、この言葉の意味を噛みしめることが多い。
ただ単に贅を尽くした素材を与え、最新の技術を投入し、高額なプライスタグを下げた上で『高級車』という形容詞によって飾り立てたところで、それをプレミアムカーと呼ぶことが出来るだろうか。たとえが適切かどうか不安だが、ムーブメントに最新のデジタルクオーツを与え、文字盤にはダイヤを散りばめ、値付けも高額にしたリストウオッチ。存在を否定はしないが、正直、本質的な特別感は感じない。やはり高級と呼ぶには、まさに「品性」とも言っていい由緒正しい出自と、それを正しく紡いできた歴史の「品行」の正しさが欲しくなる。一朝一夕ではプレミアム・高級とはならないのは、ここにあるのだと思う。
フェラーリ史上初の4ドア4シーターとして大きな話題となった「プロサングエ」のステアリングを握りながら、まさにそんなことを考えていた。走り出してからそれほどの時間が経っていない。全長5mに近く、全高は1.6mとフェラーリとすれば相当な高さだ。さらにホイールベースは3mを越え、乗員4人分のゆったりとした居住性確保に貢献し、荷室までたっぷり(フェラーリにしては)としている。そして車重は2.0t(乾燥重量)であり、これまた『軽さこそ正義』と考えてきたスポーツカーファンの期待を裏切ってくれている。カタログ段階で、これまでのフェラーリらしさを、すでに覆すようなスペックが並んでいる。
一方でフロントにエンジンを積むロングノーズ・ショートデッキのモデルはフェラーリにいくらでも存在してきたし、どのモデルもまごうことなくフェラーリだった。それを考えればプロサングエは、高さこそあるものの、フェラーリの佇まいである。なにより、高速の合流などでアクセルをクッと踏み込めば、あの心地いいサウンドがしっかりと、だが程よいボリュームを保ちつつ車内に侵入してくる。五感で感じるすべてがしっかりとフェラーリの血筋、そして品行方正なるフェラーリの趣がある。だからこそ安易に「フェラーリ製SUV」などとは呼びたくないのである。なによりプロサングエは、既存のフェラーリ顧客を優先的に販売する傾向があると言われていたのは、フェラーリ側にこうした思いがあったからかもしれない。
725馬力のV12にフルスロットルを与える機会など、日本の一般路ではほとんどないかもしれない。だが、ごくごく普通の走行であっても、このエンジンはジェントリーらしさを保ちながら、一瞬のすきにいつも備えている。当然ながら料金所や合流路線を抜けて本線に入ったところで、アクセルと踏み込んでやる。サラブレッドが鞭を当てられたように、歓喜の声と共に周囲の風景を置き去りにする。その時の幸福感はオーナーだけが享受できるもの。もちろん、ほんの一瞬でその時間は終了してしまうが、それでもいいのである。
高速道路からワインディングへと舞台を移せば、コーナリングでもフェラーリらしさをすぐに伝えてくれる。車高が少しばかり高く、ホイールベースが少々長いなどと、訳知り顔で語ったり、油断をしてはいけない。実に敏感にステアリング操作に反応し、コーナリングの心地よさを、実にダイレクトにドライバーへと伝えてくれるのだ。
もちろん高度な電子制御によってアクティブな動きを演出してくれているのは理解するものの、少しオーバーかもしれないがミッドシップ・フェラーリのごとくの心地よさを感じさせてくれるコーナリングなのだ。あの走り出す前に感じていた、車重や重心によるネガティブな推測は、ここで完全にリセットされることになる。これはもちろんナチュラルなフィールを活かした電子制御による走行性能でもあるが、実に心地よく姿勢が保たれているから、けっこう攻め込めるのである。
まぁ、唯一日本の狭めのワインディッグでは対向車への気づかいが必要になるだろう。とにかく路面をしっかりと捉えながら、舐めるようにしてワインイングを駆け抜ける心地よさは、フェラーリ伝統に味わいをしっかりとあたえてくれる。12気筒のフェラーリの経験は多くはないものの、ひょっとするとフェラーリのV12を心穏やかに味わいには最良かもしれない。そしていつの間にか、このボディでも『扱いやすい』などと思ってしまうから“慢心”には用心したい。そう思いながらも気が付くと走りにムチを与えたくなっている。「やっぱり、こいつも魔性の存在か」。
これまでのフェラーリが不得手だった“乗せる”、“積む”に掛けてはもちろん得手ではない。けっしてゆとりたっぷりなどとも言わないが、フェラーリの中で必要にして十分な“くつろぎと実用”を備えている。もうそれでいいし、他のスポーツSUVとも比較する必要が無い。プロサングエ、人が何人乗れるかとか、荷物が少しでも多く積めるとか、そんなこととは無関係な立ち位置にあることを、その日のドライブがすべて教えてくれる。そんな走りを楽しみながら心地いいドライブ感をとともに宿に乗りつける。ここからは、上質な調度でしつらえられた部屋と、程よい距離感でのもてなしを堪能できる品行方正なる宿へと入って行く。その日は朝から平和な気分でドライブを楽しめたことに気が付くはずだ。
主要諸元 | Ferrari Purosangue |
エンジン | 6,496cc V型12気筒DOHC |
最高出力 | 725PS(533kW)/7750rpm |
最大トルク | 716N・m(73.0kgf・m)/6250rpm |
全長×全幅×全高 | 4,973×2,028×1,589mm |
車両重量 | 2,033kg(乾燥重量) |
駆動方式 | 4WD |
車両本体価格 | 5,740万円(税込)~ |
AUTHOR
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
STAFF
Writer: Atsushi Sato
Photos: Yuichiro Ogura
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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