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いまや京都を代表する高級宿のひとつ、『星のや京都』は誕生から16年。静かで落ち着く自然環境はそのままに、中身はますます進化を遂げている。この12月から進化したのは、革新的な日本料理のコース「真味自在」、そして稀有な体験ができる「薫香bar」もオープン。精神が研ぎ澄まされる冬の奥嵐山に足を運んでみたい。
観光客でごった返す嵐山の渡月橋。そこから専用の送迎船で大堰川(おおいがわ)沿いに遡ること約1キロ。喧騒からは離れた静謐な奥嵐山に『星のや京都』がある。古くから紅葉の名所として知られたこの地では、平安時代には貴族たちが舟の上から月見をしたそうで、渡月橋は鎌倉時代に亀山天皇が詠んだ歌に由来するといわれている。いまもこの地で聞こえるのは川のせせらぎと木々のざわめき、野鳥のさえずり、時折対岸を走るトロッコ列車の音くらい。京都でこれほど心落ち着く場所は、他にないのではなかろうか。
明治時代創業の老舗旅館跡に『星のや京都』が開業してから、はや16年。全室リバービューということもあり、海外からの富裕層客も多く、京都ではラグジュアリーな宿の定番として押しも押されもせぬ存在になっている。
まだ赤と黄色に染まった木々が残る12月上旬、この『星のや京都』でさらに進化した「真味自在」の料理を試食する機会に恵まれた。

「真味自在」は、伝統的な日本料理の本質と精神を大切にしながらも、海外の調理法や食材の組み合わせなど革新さを追求するという意味を込めていて、この場所でしか出合えない料理だという。

まず、先付は「すっぽん 聖護院かぶら 大和橘」。冬の定番、風呂吹きかぶらの仕立てだが、赤味噌にはすっぽんの血が加えられている。フランス料理のブーダンノワールに着想を得たという。大和橘は古事記にも登場する日本固有の柑橘で、ふわりと清涼感のある香りがまとわる。ペアリングのお酒も、いきなり岡山県のワイナリー、ドメーヌ・テッタの希少な赤ワインが供される。

酒肴として3品続くが、そのうちの一つは「羽太(ハタ)の生ハム締め 白わさび」。白身魚を昆布締めにするのはよく目にするが、なんと生ハムで締めるとは。

煮物椀は「牡蛎 猪とそのラルド 春菊のすり流し」。見た目に鮮やかなお椀だが、中には猪の真丈が隠れている。フランス料理で牛肉と牡蛎を組み合わせるクラシックな料理を想起したが、味わいは上品。山椒を使った猪のラルドが複雑な風味をまとわせ、春菊のすり流しがそれぞれの旨みを一体化してくれる。

焼物は「ふぐの東寺揚げ 焼き白子 大徳寺納豆」。東寺揚げとは湯葉を使った揚げ物のこと。大徳寺納豆は一般的な糸をひく納豆ではなく、塩味の強い発酵食品。淡白さと濃厚さ、食感の対比を大徳寺納豆の風味が盛り立てる。

そして圧巻だったのが、主菜の「鰻 熊 丹波ワイン 鴨 八ッ橋 九条葱 栗ピクルス」。最近めっきり出合う機会が少なくなった八幡巻きだが、まさかここで、しかも熊肉を使った八幡巻きが出てくるとは全く想像できなかった。地元京都の丹波ワインで仕上げられていて、素材が混然一体となった深い味わいは、まったりとして妖艶さが感じられるほど。隣席の紳士は思わず「うなくま」と唸った。この組み合わせ「うなくま」は、今後国内外から注目されるかもしれない。このユニークな料理にペアリングで提供されたのは南仏のワイン、シャトーヌフ・デュ・パプ2016。濃密な味わいの余韻を一層高めてくれた。
同じ皿の鴨は、京都の和菓子として有名な八ッ橋を細かくしたものを皮目に摺りこみ焼き上げたもの。これがまた独特の妙味で、ニッキの香りと甘みが京都らしさを感じさせる鴨料理に仕上がっている。添えられた栗も、甘露煮ではなくピクルスなのがいい。

ここまで多様な食材と調理法を自在に組み合わせた料理が次々と繰り出されてきた。ど直球はひとつもない。すべて斬新な変化球だったといえる。ようやくご飯はストレートかと思いきや、「鹿そぼろご飯 芹 林檎在所漬け」ときた。合わせるペアリングは、京都・伏見の酒蔵「月の桂」、しかも京都産の酒米「祝」を使った純米酒の熱燗だ。
鹿のそぼろご飯は、まったく臭みもなく軽やかな旨さ。熱燗がその旨さを持ち上げて増幅してくれる。またセリが清涼感を加えてくれるので、さらに食が進む。お代わりを頼んで、二杯目は留椀の「鹿出汁仕立て」をかけて出汁茶漬けにしてみた。出汁は紅茶のように透き通った美しい褐色で一瞬驚いたが、これはまさにフレンチで供される鹿のコンソメのよう。
この後、水物、甘味と続いたが、めくるめく満漢全席のごとく、いい意味で一瞬も気の抜けない晩餐だった。


心も体も満足した後は、常連にはおなじみのバーへ。こちらは約130年前に建てられた蔵を改装したスタイリッシュな空間で、奥嵐山の夜の時間をゆっくりと過ごすことができる。今回この蔵が新たに「薫香bar」としてオープンした。コンセプトは香を聞きながら、ジャパニーズウイスキーを味わうというもの。古来行なわれてきた香を聞くという文化。京都市内で香道を体験できる店はあるが、そういったものとは一線を画す。ここでは繊細かつ複雑な香りを持つジャパニーズウイスキーと、香木や香原料が持つ香りとの組み合わせの妙を楽しみ、好みの香りと味わいをみつけていくというもの。伽羅(きゃら)や沈香(じんこう)、龍脳(りゅうのう)など、古くから珍重されてきた香原料を一度に試せるのは稀有な体験だ。こうした香りを聞いてからジャニーズウイスキー口に含むと、まったく違う印象になり驚かされる。まさに大人のための優雅な夜遊びといえよう。平安貴族に思いを馳せながら、心地よい酔い加減で夜は更けてゆく。


翌朝、何事もなかったかのように、部屋の窓から望む大堰川の景色は朝日を浴びて輝いていた。ここに連泊する客が多いというのも納得できる。これからは雪景色となることもある奥嵐山。観光客が少なくなる冬の時季に、ゆっくりと『星のや京都』に滞在して、「真味自在」と「薫香bar」で心身ともにリフレッシュしていただきたい。

住所:京都市西京区嵐山元録山町11-2
電話:050-3134-8091(星のや総合予約)
客室数:25室
料金:1泊 193,000円〜(1室あたり、税・サービス料込、食事別)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyakyoto/
料金:1名24,200円(税・サービス料10%込)
時間:20:30~23:00(22:30ラストオーダー)
料金:2,420円~
※いずれも対象は宿泊者のみ、宿泊料別。
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