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直木賞&山本周五郎賞W受賞作、永井紗耶子の時代小説『木挽町のあだ討ち』が待望の映画化。日本映画人気を世界に押し上げた渡辺謙と柄本佑が初共演し、あだ討ち事件の裏に隠された真実を描く華やかな江戸ミステリーが誕生した。時代劇の未来を照らす映像美に吸い込まれずにはいられない。百戦錬磨の俳優・渡辺謙が今、時代劇に挑むその真意とは?
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アカデミー賞授賞式を控え、映画『国宝』ブームが再燃中。そんな最中、日本映画の人気を世界に押し上げた渡辺謙の新たな映画『木挽町のあだ討ち』が公開される。あだ討ち事件の裏に隠された真実を描く、華やかな江戸ミステリー。
直木賞・山本周五郎賞をダブル受賞した永井紗耶子の時代小説を実写映画化した『木挽町のあだ討ち』。江戸時代の木挽町の芝居小屋・森田座近くで起きた、あだ討ち事件。多くの人々が目撃し、美談として語られる事件の思いもよらない真相を田舎から訪れた侍が暴く。渡辺謙は個性豊かなキャラクターが集う森田座を束ねる立作者・篠田金治役で出演。昨年の『国宝』に次いで、今度は江戸の歌舞伎の世界へと誘う。原作に惚れ込んだ渡辺が「面白い作品が増えている」と太鼓判を押す、日本映画らしい魅力が詰まった意欲作だ。

――最初にこの作品の出演を決めた要因を教えてください。
「僕にとって、面白がられるものかどうかを毎回、大事にしています。面白がられる要素がある作品にはぜひ参加したい。今回も(監督の)源(孝志)さんと別作品の打ち合わせをしている際、“『木挽町のあだ討ち』って面白いね”って話をしたんです。そしたら、監督がニヤッと笑って、『実はやろうと思っているんだ』と言うじゃないですか。そうは言っても、監督との関係性やしがらみでやっても作品のためにも、自分のためにもなりません。やっぱり、『この作品、やりたいな』と自分の中から感じられるものではないと。面白いものになるかどうかは脚本につきます。『木挽町のあだ討ち』は原作とは全然違うアプローチになっています。『国宝』もあれだけの長い小説を映画にするのは至難の技だったはず。どちらの脚本にも原作の中にあるエッセンス、根底にある精神性みたいなものが確実に生きていると感じました。本作も出来上がったものを見て、ほぼ読後感に近いものを感じたので、きっとお客様にも面白がってもらえるんじゃないかなと思いましたね」

――時代劇でありながらミステリーとして楽しめ、軽快でスピーディー、新しいジャンルのエンターテインメントだと思いました。
「ことの発端は非常に凄惨なお話ではあるんですけど、最終的に誰も傷つけない。なかなか新しいなと思いました。なんとなく、やられたらやり返すみたいな精神性が強くなってきている今の世の中で、知恵とユーモアで誰も傷つけずに事を成就する。しかも、本作は芝居小屋の人間たちがやっているという設定です。僕にはそれが二重構造のように思えて、映画あるいは舞台という媒体を使って、エンターテインメントが、世の中のちょっとした角を取ったり、少しだけ人と人を融合させたりする橋渡しができるんじゃないかと言っているような気がしました。実はそれこそがこの映画で僕がすごく体現したかったことだったのかなと」

――今回、篠田金治役を演じるにあたり、現場ではどんなことを大切にしていたのでしょうか。
「当時の芝居小屋は、社会からあぶれたり逃げたりしてきた人間たちが肩を寄せ合って作っている社会だったりするわけです。金治自身も侍というルールやしがらみの世界からドロップアウトして、この世界に入っています。だから、元武士とはいえ、周りのみんなと精神世界を共有できる男のはず。周りをぐっと引っ張っていくのではなく、みんなを包み込んで、『こうしていこうぜ』みたいな男なんじゃないかなって気がしたんですよね。だから、僕もそうあろうとしたし、源さんも原作よりもそういう色を濃く、脚本に書いてくれています」

――森田座の面々と対峙する主人公の侍役である柄本佑さんはコロンボ、あるいは古畑任三郎を思わせる、名探偵ぶりです。それが成立する時代劇というのも実にユニークだと思いました。
「かなり難しいアプローチだと思います。小屋の人間たちと出会い、少しずつ謎が解けていく様が彼の目線で描かれていく。原作の読者の立場ですよね。ネタバレせず、それでいてお客さんを引っ張っていけるようなリードする力もあって、すごくいいアプローチだったと思いますね。雰囲気的にはそうくるだろうなっていうのはあったんですけど、佑は本当に底が知れないです。これまで親父さんと仕事する機会が多かったのですが、(柄本)明とはちょっと違うタイプの俳優だろうと思っていました。だけど、ある瞬間、結構、DNAが見えてくるんですよ。子どもの頃から知っているから、自分ではなんだか遠い親戚がほくそ笑んで見ているみたいな感覚でいましたね(笑)」
――『国宝』人気で、日本映画の人気も高まっています。この作品も大いに注目を集めそうですね。
「単純に面白い作品が増えたんだと思います。卵が先か、鶏が先かみたいな話になっちゃいますが、僕らが常に面白い作品を提供し続けないと、お客さんの目が育っていかない。僕らが面白い作品を作れば、お客さんも僕らも一緒に育っていける。それを積み重ねていかなければいけないんだろうなと思っています」

――映像美も素晴らしいですね。
「技術的なレベルがすごく上がってきている気がするんですよ。『国宝』の時にも感じたのですが、ライティングやアングルとか、総合力みたいなものが上がっている。セッティングも素晴らしいです。例えば、冒頭の(父の仇を討つ若侍役の)長尾(謙杜)くんの赤い振袖にしても、これまでなら、なかなか見られない色合いです。それを大胆に色味として使って、そこに雪と番傘が相まって、浮世絵みたいな色使いになっているんです。その辺の美意識はさすがだと思いますし、時代劇の可能性を感じさせます」
――配信のおかげで、世界中で日本映画が見られるようになりました。多くの俳優が世界で活躍していますが、その基盤を作ったのが渡辺さんという印象があります。
「現実的にコロナがあって、その後にストがあり、多分、ハリウッドもまだ立ち直れていないと思うんです。映画にはタイムラグがあるので、その時期にできなかった、ちょっと冒険的なものはなかなか企画にあがりにくい。つい確実に当たる続編みたいな映画が数多く作られるようになって、“ハリウッド、どうなってんだ?”みたいなことは感じますけどね(笑)。最近は配信の作品が増えて、予算も映画並みになっていることもあったりして、オリジナルでも面白いものが今後は続々、どんどん増えていくだろうと思います。映画でも、配信でも、1本でも、シリーズものでもいい。僕らはどこにいたって、いいんです」

――そこに面白がられる要素があるか、どうか、でしょうか。
「僕自身、あんまり切った張ったはもういいかなって気はしているんですよね。現代劇でも時代劇でもいいんですけど、やっぱり琴線、人間の深い機微みたいなものにちょっとでも触れるような作品に関わりたい。別にホロッとさせたいわけではないのですが、そういうものをやっている方が自分でも楽しい気がしています。こんなことを言っておいて、この後、めっちゃアクションやっていたりしてね(笑)。あんまり自分で規定したくないんです。自分の中に指針みたいなものはないですね。お日様が上がって、そこに影ができて、日時計みたいに必ずそっちを向くわけではない。いい加減です」
――金治の幼なじみの元許嫁役で出演している沢口靖子さんとは大河ドラマ『独眼竜政宗』以来、約40年ぶりの共演と話題になっています。ずっと第一線で活躍なさっていますね。
「はっと気がついたら、そういえば、みたいな感覚ですね。自分では意識していなかったです。あんまりそんなことを考えていると、息が詰まっちゃうから。すごく時間が経ったんだっていうのは言われて思いましたけど、撮影している時は何も思わないです」
――ご自身で感じる40年の変化は?
「それなりに年を取ったってことでしょう。昔の作品の再放送を見ると、“青臭いな”って思いますよ。僕らの仕事は年をとれば、それなりの役があるから、それは幸運なことだと思います。あまりそこに抗おうとか、若くいようなんて気持ちはこれっぽっちもないです。20歳の頃の瑞々しさを持ち合わせている66歳なんて、気持ち悪いですよ(笑)。そんなにピュアには物事を考えられません。その代わり、若い頃に持てなかった深さだったり、ある意味、清濁併せ呑むみたいな感覚は年齢とともに増えているでしょう。役もそういうものが来ます。だから、今の自分の感覚みたいなものを常に大事にしたい。年をとることが嫌なこと、悪いことだとは僕は全く思っていません」

――今の渡辺さんが幸福を感じる時はどんな時ですか。
「面白い仕事している時にも当然、僕の中に幸福感はあるんですけど、ある意味、どこか縛られているような感覚があるんです。撮影期間はどうしても、基本的に作品や役のことを考えなければいけないし、そのことを中心に生活をしなければなりません。だから、そこから解放された時はものすごく幸せですね。作品をやり終えた時の何にも束縛されない時間。明日から何もしなくていい、明日から決まったものに向かわなくていい。その瞬間は自由業の特権、俳優の醍醐味かなって気がします。仕事って楽しいだけじゃないですよね。ある種のハードルを越えるための苦しさ、辛さは付きもの。もちろん、そういうものもひっくるめて面白がっているんですけど」
――年齢を経て、幸福の主軸は変化しましたか。
「歳を重ねることで、幸福度がより深くなっているような気がしますね。本当に何気なく、家で飯を食っている時に感じる幸福とか。“うまいな” “この時間、いいな”って思う時間が若い時より多分、ずっと深くなってきている。若い時は生きているビートが違うから、幸せだと思っても、すぐ次のタームに行っちゃうみたいなところがあったと思うんです。今はぬるま湯に浸かっているみたいな感じです。どっぷりじっくり、“ああ、いいな〜”って、幸福の長風呂に浸かっています(笑)」
2月27日(金)全国公開
■監督・脚本:源孝志
■出演:柄本佑、⻑尾謙杜、瀬戸康史、滝藤賢一、山口馬木也、愛希れいか、イモトアヤコ、冨家ノリマサ、野村周平、高橋和也、正名僕蔵、本田博太郎、石橋蓮司、沢口靖子、北村一輝、渡辺謙
■原作:永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮文庫刊)
Ⓒ2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 Ⓒ2023永井紗耶子/新潮社
■配給:東映
■映画公式ホームページ:https://kobikicho-movie.jp
■映画公式X:https://x.com/kobikicho_movie
■映画公式Instagram:https://www.instagram.com/kobikicho_movie
わたなべけん/渡辺謙 俳優。1959年10月21日新潟県生まれ。1981年、演劇集団円の研究生時代に唐十郎作、蜷川幸雄演出『下谷万年町物語』で注目される。1987年、大河ドラマ「独眼竜政宗」主演。2003年、映画『ラストサムライ』でアカデミー賞助演男優賞ノミネート。『明日の記憶』(06)『沈まぬ太陽』(09)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞。2015〜16年、舞台『王様と私』のシャム王役でトニー賞ノミネート。テレビシリーズ『TOKYO VICE』(22、24)ではエグゼクティブ・プロデューサーも務める。出演ドラマ「京都人の密かな愉しみ Rouge-継承-」(源孝志監督が作・演出)が放送中。
MOVIE WRITER
髙山亜紀
フリーライター。現在は、ELLE digital、花人日和、JBPPRESSにて映画レビュー、映画コラムを連載中。単館からシネコン系まで幅広いジャンルの映画、日本、アジアのドラマをカバー。別名「日本橋の母」。
STAFF
Movie Writer: Aki Takayama
Editor: Kyoko Seko
Ⓒ2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 Ⓒ2023永井紗耶子/新潮社
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