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情熱を歌と体で解き放つ、ラテンミュージックの陽気な素晴らしさが凝縮されたかのようなシャキーラ。エキゾティックな魅力が感覚を刺激する唯一無二の迫力に引き込まれずにはいられない。ディズニーのアニメーション映画『ズートピア2』でも輝きを増している。シャキーラと『ズートピア2』、このふたつの根底に横たわる人類普遍のテーマとは?
昨年12月5日に(アメリカでは11月26日に)公開されたディズニーのアニメーション映画『ズートピア2』が、世界的な大ヒットを記録している。現在、3月5日までの全世界興行収入は18億6013万2890ドルに達し、歴代の世界興行収入ランキングでも第9位にランクイン! しかもアニメーション映画では第2位だ。:Box office mojo調べ)。日本国内でも興行収入が154億5,444万円、動員も約1134万人と、洋画アニメーションでは『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や『アナと雪の女王2』を抜いて歴代第2位まで上昇している大人気ぶりだ。同作は2016年公開の『ズートピア』の続編で、動物たちが人間のように暮らし、“誰でも何にでもなれる”楽園「ズートピア」を舞台にした物語である。なぜこれほどまでに大ヒットしているのだろうか。
実際に劇場に足を運んでみると、子ども連れの家族だけでなく、ディズニー映画のファンや前作をリアルタイムで観たと思われる世代を超えた層が目立った。前作『ズートピア』は人間社会を映す鏡であり、“違い”を描く寓話世界のズートピアとして、偏見や多様性といった問題を動物たちの社会に落とし込んだ作品だった。平等や正義について声を大にして問うのではなく、属性や立場、見た目などによって生まれるすれ違いや痛みを、軽やかさとユーモアを保ったまま描き、そして多くの観客に受け入れられた結果となった。
続編である『ズートピア2』もまた、その姿勢を引き継いでいる。登場するキャラクターたちによる土地の略奪による分断や対立、父親に認められたいという承認欲求といった問題に視点を置く一方で、ウサギのジュディ・ホップスとキツネのニック・ワイルドが互いをより深く理解し、相手を思う気持ちを言葉できちんと伝え合い、バディからよきパートナーへとなっていく。その根底にあるのは「異なる存在が共に生きる」世界だ。それは世界を変えるというより、違いがあるからこそ強くなれるという考え方で、人間社会において見逃すことのできない普遍的なテーマになっている。
そのメッセージが説教にならず、観客の身体感覚に届くのは、表情豊かな映像に加えて音楽の力が大きい。ディズニー映画からは必ずと言ってヒット曲が生まれているが、この『ズートピア2』で重要な役割を果たしているのが、前作に続いて主題歌を担当するレバノンとスペインの血を引くシャキーラだ。映画で彼女は、ジュディが憧れるポップ歌手ガゼル(の声優)を演じている。
『ズートピア』の監督であるバイロン・ハワードとリッチ・ムーアは、ズートピア随一の音楽的才能を持つガゼル役に、ラテン語圏を中心に世界的な人気を誇るシャキーラを早い段階からイメージしていたという。シャキーラは即座に出演を承諾し、その理由として、「ジュディが私と同じようにはっきりした意見を持っているように、私の性格と共通する面が多く、とても共感したから」と話している。さらにコロンビアで育った子供の頃のシャキーラは、ジュディのように警察官になりたかったため、ジュディが小さなウサギでありながら大きな夢を抱く姿に強く共感したという。

「この映画は忍耐強さについての物語よ。あらゆる困難に立ち向かい、人生における自分の理想のために戦うことについてなの。自分がどんな人間なのかを世間に決めさせないで。何になるのかは、自分で決められるはずよ」。さらに「いじめっ子が嫌いだったし、悪い人が善良な人に悪いことをするのが許せなかったから。だからこの物語は本当に私の心に響くの」とも語っている。

そのシャキーラとはというと、90年代から現在まで第一線で活動を続けてきたコロンビア出身のポップスターだ。13歳でソニーレコードと契約したという音楽的な才能に加え、6ヶ国語ほど話せるというマルチリンガルな才能も持つ。2005年には多言語を使い、音楽的にも縦横無尽に横断したアルバム『Fijacion Oral vol.1(フィハシオン・オラル Vol.1)』と、英語で歌った『Oral Fixation, Vol.2(オーラル・フィクゼイション Vol.2)』を発売。ラテン語圏での大ヒットは当然ながら、後者は米ビルボード誌のアルバムチャートで初登場第4位に輝いた。なかでも「Hips Don’t Lie(feat. ワイクリフ・ジョン)」(2006)が全米と全英で第1位を獲得した初の南米出身アーティストとなり、翌年のビヨンセと共演した「Beautiful Liar」(2007)も大ヒットし、世界的に名の知られる存在となった。
“Hips Don’t Lie(お尻は嘘をつかない)”と歌うことについて、シャキーラは当時のインタビューで次のように話している。
「レコーディングスタジオでもリハーサル中でも、自分の身体が音楽に反応しないときは音に自信がもてないの。いつも自分に“身体は動いているかしら?お尻は動いているかしら?”と自問自答しているのよ。私のお尻は嘘つかないから(笑)」。
シャキーラは『ズートピア』のシリーズで、ポップ歌手という、自分に極めて近い役柄を演じている。そのためそのガゼルを演じるにあたり、キャラクターのヘアスタイルやボディについて「もう少し女性らしい曲線にしたい」、「胸は小さくていいけど、お尻は大きくしてね」と、より自分に近づけることを望んだという。ガゼルが歌うシーンは、スクリーン内の動物たちも観客もつい身体が反応してしまうが、その踊らせる巧さは、シャキーラそのものだろう。
最近のシャキーラはというと、長年FCバルセロナ所属のジェラール・ピケとの関係で注目されてきた。2010年のFIFAワールドカップアフリカ大会のテーマソング「Waka Waka (This Time for Africa)」を担当し、キックオフコンサートで盛大なパフォーマンスを披露した彼女。これを機に2人は知り合い、交際に発展してからは、シャキーラはピケを支えるために家族や友人と離れ、さらに絶頂期のキャリアを捨ててスペインへ移住した。しかし22年6月に破局が発表され、現在は帰国し、シングルマザーとして2人の息子を育てている。当時は傷心が心配されたが、23年のインタビューでは、次のように答えている。
「音楽を書くことはカタルシスよ。最悪の状態の時にこそ、最も多くの曲を書くの。人生が私に一撃を食らわせても……、私はより強くなる。人生の特定の段階を乗り越えるだけのエネルギーが自分にあるとは思っていなかった。でも結局、自分が思っていたより私は脆くなかったの」
これは主人公ジュディに重なる部分だ。そもそもシャキーラは、子供の頃に「山羊のような声」と揶揄われたというが、その特徴ある声をその後は強味としてきたタフさがある。また、ダンスに根ざした身体表現、そしてラテン音楽を軸にしながらも国際色豊かにジャンルを越境してきた柔軟さなどから、自らを「違い」を排除せずに抱え込む表現として機能してきた。
シャキーラが『ズートピア2』に強い思い入れがあることは、エド・シーランと共作して主題歌「Zoo」を書いたうえに、プロデュースにも参加、加えてガゼルの登場シーンが増えていることからもわかる。前作では主題歌も書く予定だったものの、第2子を妊娠し、「2人の子供を育てながら曲を書くのは難しい」と、シーアに曲作りを託した無念さもあるのだろう。日本での吹き替え版『ズートピア2』でもシャキーラの歌が流れている。そこからも彼女がこの作品に没入し、影の主役になっていることを体感できるだろう。
シャキーラの歌声が流れた瞬間、ズートピアの世界には一気に光が差し込む。リズムと身体性を強く意識した楽曲は、作品が内包するテーマを言葉以上に直感的なものとして伝えてくる。シャキーラは社会的なテーマをスローガンとして掲げるタイプのアーティストではない。むしろ、歌い、踊る身体そのものによって、多様な背景や価値観が共存できることを示してきた存在だ。その在り方は、ズートピアが選んできた語り口とよく似ている。“理屈ではなく、感覚として理解させる”、そのための“歌声”として、シャキーラはこれ以上ない選択なのだろう。前作からの間にシャキーラ自身も別離を乗り越えて、自身の力で2人の子育てをしながらアーティストとしての活動に邁進し、パワフルに突き進んでいる。まさに『ズートピア2』と同じ現在進行形と言っていい。そしてその物語に寄り添う声として、シャキーラが再び響いている。スクリーンから流れるその声は、観客にこう語りかけているようにも聞こえる——違いを抱えたままでも、世界は踊り続けられるのだと。
『ズートピア2』は英国アカデミー賞(BAFTA)で長編アニメーション映画賞を受賞。今は3月15日(日本時間3月16日)に開催されるアカデミー賞授賞式で、ノミネートされている長編アニメーション賞の結果を待つばかりだ。シャキーラは2025年2月から「Las Mujeres Ya No Lloran World Tour」を行なっていて、2年目に入った現在はメキシコから中東へツアーを続けている。

シャキーラ/Shakira Isabel Mebarak Ripoll
シンガー・ソングライター、ダンサー、レコード・プロデューサー、俳優。1977
年2月2日、コロンビア生まれ。13歳でデビューし、初の英語アルバム『Laundry Service』(2001年)は日本でも20万枚のヒット。「Hips Don’t Lie」や「Beautiful Liar」の大ヒットにより、ラテン音楽を軸にポップ、ロック、中東音楽まで自在に横断する表現力で世界的成功を収める。 20年にはジェニファー・ロペスと共にスーパーボウルのハーフタイムショーに出演し、ラテン文化を世界に知らしめる歴史的なステージを飾った。また、ピケとの破局後、その思いを赤裸々にぶつけた楽曲「Bzrp Music Sessions, Vol. 53」(23年)が大ヒットするなど、タフな精神性からもカッコイイ生き様を体現している。
音楽ジャーナリスト・アメリカ文学研究
伊藤なつみ
デヴィッド・ボウイ、坂本龍一からマドンナ、ビョーク、宇多田ヒカル、ロバート・グラスパーなど、取材アーティスト数は数え切れないほど。『ユリイカ』2023年5月号に掲載の論考「ヒップホップ・フェミニズムの変遷」など、現在は黒人女性のエンパワーメントについても研究中。
STAFF
Music Journalist: Natsumi Itoh
Edit&Conposition: Kyoko Seko
© 2025 Getty Images/Getty Images for Disney
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