ありえない料理の連続が目を奪う!『The World’s 50 Best Restaurants』世界1位、ペルー・リマの至宝『CENTRAL』の愉悦

日本に暮らす人々にとって、近くて遠い国、ペルー。スペイン征服以前のインカ帝国の首都、クスコを擁する、ラテンアメリカの主要国である。また、ペルーを含む南米大陸は、トマト、ジャガイモ、カカオ、ピーナッツなど、現在の食卓を彩る、欠くべからざる食材の原産地域でもある。さらには、多くの日系ペルー人が、社会の主要なメンバーとして存在感を放っていることも、ペルーと日本の、心理的な親近感を生じさせている。さて、このペルーが、近年、ガストロノミーの世界で注目されている。2022年に、東京・紀尾井町にオープンし、瞬く間に人気となった、『MAZ』は、今回、紹介する『CENTRAL』のコンセプトを日本で展開させた店で、すでに訪問した読者も多いだろう。近くて遠い国、と書いたが、物理的な距離があるリマまで食べに行くのはそれなりのハードルだ。今回は、訪問の機会を得た本紙記者が紹介したい。

TRAVEL May 12,2026
ありえない料理の連続が目を奪う!『The World’s 50 Best Restaurants』世界1位、ペルー・リマの至宝『CENTRAL』の愉悦

ペルー・リマの富裕層エリアに位置する『CENTRAL』は2008年にオープン。その後、年々評価を高め、前述した『The World’s 50 Best Restaurants』で、2022年に2位、2023年には世界1位を獲得している。

敷地内側の壁にサイン。公道からは、ここが世界最高のレストランだと示すものはない。

敷地内側の壁に店名が記されている画像

当地のセキュリティの問題もあり、目立たない灰色の壁で囲まれた敷地に一歩足を踏み入れると、そこには自家栽培の畑、自然農園といった趣の、緑なす庭園が広がる。

門扉から、母屋へのアプローチの画像
門扉から、母屋へのアプローチ。リマの市街地に位置することをひと時、忘れさせる。ペルー全域の植物が育てられている庭を抜けて母屋に入る。
開放的な内観の画像
開放的な内観。ほかにカウンター席や個室もあるが、通常の席の庭の緑が目に眩しいメインダイニングが良い。
若きスタッフたちの画像
若きスタッフたち。南北アメリカほか、各国の若者を積極的に受け入れていて、レストランは、教育機関の側面も持っている。
オーナーシェフのヴィルヒリオ・マルティネスの画像
オーナーシェフはヴィルヒリオ・マルティネス。リマ出身で、2008年の『CENTRAL』オープン以来、2017年に『The World’s 50 Best Restaurants』のシェフズチョイスアワードを授賞するなど数々の授賞歴を持つ。

瀟洒な平屋づくりの建屋に入ると、まずはプレゼンテーション。
ナチュラル・ハーブティーでのどを潤した後に目に入ったのは、『CENTRAL』で使われている食材や調味料などを少量ずつ盛った、プレパラート状の石板だ。
ここで、このレストランの食材の簡単な説明を受けるのだが、席に通されてからの驚きは、このプレゼンテーションをはるかに上回った。

ナチュラル・ハーブ・ティーの画像
プレゼンテーションで供される、ナチュラル・ハーブ・ティー。
食材や調味料などを少量ずつ盛った、プレパラート状の石板の画像
メーターズチョイスという入り口スペースで、ペルーの様々な食材の簡単なレクチャーが行われる。

看板のテイスティングメニューの名は『MUNDO EN DESNIVEL』(高低差のある世界)。レストランのメニューなので、確かに、皿ごとに名付けられた名前と、使用される食材が書かれているのだが、これが、標高別に分かれているのである。
縦軸に海面下15mから、地上高4200mまでの高低差が明示され、横軸に、供される料理に従って、左から右に皿名と使用食材が書かれる。

メニューの画像
メニューの読み方は一風変わっている。まず左から右に向かう横軸に、供される順番に料理名と使用食材が記載される。縦軸は産地の標高を示している。写真では見えにくいが、メニューの左袖には、横軸方向にスライドする仕組みのスケールがついており、MASL、MBSLと表記されている。MASLはMeters Above Sea Level(海抜・標高)の意で、海面からどれくらい高い場所(山や高地)の食材かを示し、MBSLはMeters Below Sea Level(水深)の意で、海面からどれくらい深い場所(海や水中)の食材かを示している。

高低差を示すスケールは左右にスライドするようになっており、例えば、メニューの最下段に見えるWARM SEA CURRENT「温かい海流」という代表的な料理の記載位置は水深15mと読み取れる。これはペルー沿岸の暖流で捕れるrazor clams(マテ貝)、lobster(ロブスター)、murike grouper(ムリケハタ)を使った料理だ。このように、一皿ごとに、同じ標高・深度で産する食材に限定して標高別に食材を整理し、同標高の食材を掛け合わせることによって、独創的な一皿一皿をクリエイトするという手法で、これには衝撃を受けた。
イノベーティブなレストランは、一皿一皿に、未知の世界が広がることを目指し、手練れの美食家たちは、今度はどのような、見たことのない(食べたことのない)一皿に出合えるだろうと、世界中を旅しているのだが、この食材の整理の仕方そのものが、イノベーティブというほかない。
そして、この方法は、食材王国、ペルーだからこその見せ方でもある。


前述のように、メニューには、海面下から地上高4200mに至る高低差が刻まれている。
日本もその地形的特性から、食材の宝庫と言えるだろうが、広大な経済水域を持つ太平洋、南米大陸の背骨であるアンデス山脈、さらにアマゾン源流域までをも版図に持つペルーの食の多様性は想像に難くない。
CENTRALには、既存の郷土料理を発展させた高級な皿、というものがない。例えば、セビーチェなどは、南米ペルーを代表する郷土料理なので、普通なら、それを洗練させた皿が供されるのでは、と考えるのが普通なのだが、それが一切ないのが潔い。

左/EXTREME ALTITUDE(極限の標高)メニューの中で最も高い、標高4200mの料理 右/SEA BRAIN ALGAE(海の脳/藻)の画像
左/EXTREME ALTITUDE(極限の標高)メニューの中で最も高い、標高4200mの料理。主な使用食材はトウモロコシ、キウィチャ(アンデスの雑穀)、サツマイモの葉、高地ハーブ類で、雪山・鉱物・乾いた高地を表現した粉状/結晶状のテクスチャが特徴だ。 右/SEA BRAIN ALGAE(海の脳/藻)こちらは一転して、水深5mで捕れる食材で構成されている。タコ、各種海藻を使い、海中のイメージを器の中に作り上げている。
WARM SEA CURRENT(温かい海流)の画像
WARM SEA CURRENT(温かい海流)は、水深15mでまとめられた一皿。ペルー沿岸の暖流で捕れるrazor clams(マテ貝)、lobster(ロブスター)、murike grouper(ムリケハタ)を使い、鮮やかなオレンジ系ソースでまとめた。
SAVANNA(サバンナ)の画像
SAVANNA(サバンナ)は、標高380mのアマゾン低地サバンナをイメージした料理。主な食材は Aguaje(アグアヘ/アマゾン椰子の実) Doncella fish(ドンセージャ:アマゾンの淡水魚) Yacón(ヤーコン)。 Doncella fish を使用し、アマゾン河川流域の淡水生態系を表している。
BLUE GREEN OCEAN(青緑の海)の画像
BLUE GREEN OCEAN(青緑の海)は、MASL=0m、MBSL=0m、すなわち、標高&海抜0mをテーマにした、シグニチャーメニューの中でも代表的と言えるひと皿だ。食材は、scallops(ホタテ)、vongole(二枚貝)、sea urchin(ウニ)など。の食材を使い、青いプレートの上にちりばめた様子は、磯辺を思わせる。CENTRALでは、一般的な意味で美しく飾られた皿はなく、ひと皿ごとに、標高や水深に応じた風土からインスパイアされた、抽象画のような世界が創られている。
RAINFOREST CONNECTION(熱帯雨林の繋がり)の画像
RAINFOREST CONNECTION(熱帯雨林の繋がり)は、高度148mの料理となっていて、arapaim(パイチェ=淡水魚),yuca(キャッサバ芋)、pirana(ピラニア=淡水魚)を使っている。メニューでは、この皿だけ、具体的な高度が記されている。
これまで紹介してきたように、CENTRALはペルーの気候風土を標高で整理・再構成した料理を供する。また、単なるレストランではなく、実地調査や、教育機関としての側面も持つ。そのためこの数字には、この標高に、実際に存在している生態系から採取された食材ということを示している可能性がある。また、料理名も含めて類推するなら、環境の変化に敏感な熱帯雨林の土壌・動植物全ての繋がりをこの標高に込めているとも考えられる。
ARID NORTH(北部の乾燥)の画像
ARID NORTH(北部の乾燥)は、標高900mの料理。スライスされた赤い食材はshrimp(エビ)、皮が薄くて黄色く、中身も薄いオレンジ色の、ペルーの伝統的なloche squash(ロチェかぼちゃ)と、avocado(アボガド)のペーストで仕上げられている。ロチェかぼちゃは、ペール―北部の乾燥地帯の食材だ。
SACRED VALLEY(聖なる谷)の画像
SACRED VALLEY(聖なる谷)は標高2800mのひと皿。食材は、マンゴー、マンゴスチンと並んで世界三大フルーツと呼ぶ向きもあるchirimoya(チェリモヤ)、アンデス原産のハーブ、andean verbena(レモンバーベナ)、black maca rootsは、同じくアンデス産の根菜として有名なマカのうち、3%ほどしか収穫できないとされる希少なブラックマカを使っている。カニの甲羅が皿として使われているので、カニの料理かなと思いきや、まったく違うテイストに驚く。山の食材を海由来の器に盛るなど、ここまで進んできた食事の、番狂わせのような驚きまでもが、CENTRAL MAGICそのものだ。
100%CACAOの画像
100%CACAOはデザートではあるのだが、世界最高のレストラン、CENTRALは一筋縄ではいかない。標高1800mから生まれたこの一品は、名前の通り全てカカオで作られているのだが、当然というべきか、まったくもって、チョコレート的なフレーバーは皆無なのだから。メニューの食材一覧には、mucilage(カカオの果肉)、nibs(カカオの胚乳),seed husk(カカオの種皮)と記されている。ドーナツ状の外側の部分はカカオの種皮を主な材料としていて、チョコレートでは使われない果肉を使ったデザートだ。それゆえ、とりたてて甘いわけではなく、カカオだと思って口にすると拍子抜けするほど。

このように、実際に記者の眼前に現れた料理は、使用しているすべての食材が標高ごとに再構築され、ここにしかない一皿として提供された。唯一無二という表現は、まさにこのレストランのためにあるといっても過言ではない。


ただし、急いでつけ加えておきたいのは、このレストランは、まったく新しい体験をするために、世界中から名うての食べ手が集まってくるレストランではあるが、ただ単に、おいしいものを食べたい、美食を極めたいといった向きにはそぐわないということだ。そもそも、おいしさとはきわめて保守的なもので、多くの人は自分が馴染んだものを基準に旨い・不味いを判断するよりなく、例えば、好き嫌いや、偏食のきらいがあるタイプは、CENTRALの本領を体験しきれない。客のリクエストを訊いて料理を調製することは基本的にないし、ペルーの豊かな生態系を皿の上で昇華・表現することがCENTRALの意義なのである。
世界一位の価値を五感で味わうためには、にわか勉強であったとしても、ペルー及び南米の食文化への一定の理解がないと、CENTRALの価値は感じ取れないだろう。


食欲を満たすだけでなく、知的欲求を満たすために存在するレストランというものが、ある。


ラグジュアリーなテーブルを求めるフーディならずとも、いつか実現したいバケットリストには、ぜひともこの『CENTRAL』を加えておきたい。

お問い合わせ先
CENTRAL
https://centralrestaurante.com.pe/en/

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