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今年強く印象に残ったのは、天体の運動を文字盤に閉じ込めた機構や、宇宙を身近に感じさせる時計だ。緻密に組み込まれた複雑な機構が、かえって広大な空間を想起させてくれるそんな時計をご紹介する。
時間の概念は、天体運動と地上生活の周期性を結びつけることで生まれたものだ。季節の変わり目や太陽の動き、星の運行は、われわれの生活と密接に関係してきた。
そのメカニズムを時計として再現したのが天文時計だ。太陽の位置、月の満ち欠け、恒星時(地球の自転基準の時間)、黄道十二宮(黄道上の12星座)といったいくつもの機能を文字盤上で表現する。
通常の時刻表示はもちろんのこと、「宇宙の状態」を表現する装置といえる。
天文時計の魅力は、なんといっても宇宙のスケールの大きさを見せてくれるところだ。天体図を描いた盤面にブランド初の日昇・日没時刻表示を追加したパテック フィリップや、デイ/ナイト表示とムーンフェイズを組み合わせて工芸的な装飾で仕立てたヴァン クリーフ&アーペルは、腕元から無限の空間を想像させてくれる。
一方で、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ直前の4月初旬、NASAから宇宙開発に関する大きなニュースが届いた。アポロ17号以来、約50年ぶりの有人月周回ミッションが実施され、クルーは無事に地球に帰還したのだ。この計画は単なる探査ではなく、月面基地建設や火星飛行へ向けた実証試験という意味合いが強い。そこではもちろんスペースウォッチの先駆者であるオメガの時計が携行された。W&WGでも世界初の商用宇宙ステーションでの使用を想定した時計も発表されている。

ケースの小型化、薄型化の新作が多く登場する中で、天文表示や宇宙用途というスケールの大きい時計は、ひときわ異彩を放った宇宙へと思いを馳せるロマンは、尽きることがない。

太陽系や星座など表現する天文表示を独創的な表現で発表してきたヴァン クリーフ&アーペル。今年は複雑機構を組み合わせて新しい天体時計を完成させた。「ジュール ニュイ」はデイ/ナイト表示、「ファーズ ドゥ リュンヌ」はムーンフェイズを意味する。つまりデイ/ナイト表示とムーンフェイズを組み合わせたのが本作だ。
文字盤の下半分は地平線に見立て、グラデーションペイントとギョーシェ彫りしたマザー オブ パールを配置。上部はムラーノ島製のアベンチュリンガラスの回転ディスクを備え、太陽と月で示す24時間周期のデイ/ナイト表示となっている。月の中には24時間16分27秒で回転する、もう一枚のディスクが備わっており、月の満ち欠けを再現した。2つのディスクは連動しており、29.5日の周期で月相の変化を確認することができる。
また8時位置に備えるプッシュボタンを押すと、回転ディスクが約10秒で1周するオンデマンド機能も備える。これによって昼間でも現在の月相を確認できる。作動させたときに進んだ10秒間も2枚の回転ディスクにきちんと補正され、現在の月相位置を示してくれる。
ケースバックには月面に見立てた彫刻が施され、月から見た宇宙が描かれた回転ローターを見ることができる。


パテック フィリップの天文時計の歴史は、ヘンリー・グレーブスjrのために製造された懐中時計やキャリバー89といった懐中時計までさかのぼる。その後、スカイムーン・トゥールビヨンによって、天文機構を腕時計サイズへと落とし込むことに成功。スカイムーン・トゥールビヨンは天文機構に加え、ミニットリピーターやトゥールビヨンの複雑機構も備えていたが、天文機構のみを備えるのが「セレスティアル」だ。
今年は日の出・日の入りの時刻表示の機構を新たに追加した新型セレスティアルが登場した。これまで素材違いや石入りのバリエーションはあったが、新たな機能を追加したセレスティアルは初となる。
文字盤には回転ディスクによって現在時刻の北半球の星空が配置され、月の軌道、月相、天の川が表現される。星空は単なる装飾ではない。文字盤ディスクは恒星時に基づく自転に基づく約23時間56分で回転し、地球公転との差分となる約4分を歯車比で補正することで、実際の天体運行と同期させている。文字盤上の楕円は、ジュネーブおよび北半球の同一の緯度から観測可能な星空の範囲を示している。

日の出・日の入り表示は文字盤外周の日付表示と共有しているところが、実に巧みだ。センターから伸びる白い針で、日の出は5時から11時まで、日の入りは17時から23時まで表示できる。さらに冬時間、夏時間に対応していて、ケースサイドのプッシャーで切り替えが可能だ。切り替え時には日の出・日の入り、日付表示が連動して補正が行われる。
これまで懐中時計でしか採用されてこなかった機構を腕時計で実現した、今年を象徴するする1本だ。

2026年4月に有人月周回ミッション「アルテミスⅡ」を成功させ、再び注目が集まるオメガのスピードマスター。NASAの公式クロノグラフウォッチであり、アポロ計画をはじめとして宇宙空間に持ち込まれた時計として厚い支持を集める。今回の「アルテミスⅡ」では、従来の機械式時計ではなく、クォーツムーブメントが採用され、宇宙空間でのマルチタスクに対応するアナログ&デジタル表示のスピードマスターを携えた。
スピードマスターにはさまざまな派生モデルが存在するが、最新作の「スピードマスター
ムーンウォッチ」は、NASAの公式装備品として、月面着陸にも使われた系譜を持つ手巻きコレクション。最新モデルでは、歴代モデルの意匠を引き継ぎながら、ダイヤルとインダイヤルが白黒のコントラストを効かせたデザインを採用。時計業界では、動物の“パンダ”とは反対の模様にちなんで、“逆パンダ”ダイヤルと呼ばれるデザインだ。段差構造を持つ2層ダイヤルによって、立体的な造形を演出。ダイヤル、インダイヤルともにラッカー仕上げが施されており、コントラストを強調している。
ブレスレットは丸みを帯びた3連コマを採用。サテン仕上げとポリッシュ仕上げのコンビネーションが高級感を演出する。ムーブメントには1万5000ガウスの耐磁性能を備えるマスター クロノメーター認定ムーブメントを搭載する。

STAFF
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Kyoko Seko
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