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今年はプラチナ製ウォッチが相次いで発表された。重厚さが高級とされていた時代には、プラチナはまさにその代表格だった。いま改めてその価値を体現する新作に注目が集まっている。
昨今では腕時計においても軽さが求められるようになった。カーボンやセラミックといった素材の台頭は、“軽さ”そのものが価値になったことを示している。
一方で、重厚さと高級感が同義であった時代もある。その文脈において、今なお素材の頂点に位置するのがプラチナである。その次に続くのがゴールドだ。
しかし近年、金価格の高騰を受けて、地金市場ではプラチナとの価格差は2倍近い値がついてしまった。それでもプラチナは、ゴールドを上回る比重と高い希少性を備え、ロジウムメッキに頼らない無垢の白さで存在感を示している。さらに加工難度の高さも相まって、腕時計の世界ではプラチナは今も特別な位置にい続けている。
時計ブランドでは、プラチナケースは主に限定モデルや最上位モデルに用いられる。また同じ白系素材との区別から、固有の意匠を与えられることも多い。例えば、パテック フィリップでは主に6時位置に小粒のダイヤモンドを配し、ロレックスでは専用のアイスブルー文字盤に採用される。カルティエはリューズのカボションにルビーをあしらい、ショパールではケース側面にミツバチの手彫りを施すなど、各社が独自の手法でその存在を示している。
プラチナ製ウォッチの価値は外に誇示するものではない。腕に乗せて初めて伝わる重みの中に、その質の高さにある。その質感を体現する最新作を見ていこう。
ヴァシュロン・コンスタンタンを代表するラグジュアリースポーツウォッチが「オーヴァーシーズ」コレクション。そこに新たに加わったのが、新開発の超薄型ムーブメントを搭載した、プラチナ製ケースの限定モデルだ。
7年の歳月をかけて開発されたムーブメントのCal.2550は、厚さ2.4mmという驚異的な薄さを実現するための構造を備える。まず双方向巻き上げ式マイクロローターを地板に組み込み、さらに吊り上げ式の二重香箱という独特の構造を採用。2つ重ねた香箱はよく見かけるが、この吊り上げ式とは天地逆に重ねた新しい発想のこと。中間の蓋が省かれ、厚みを抑えることができる。もちろん上下に重ねた2つの香箱は連動しているため、トルクが安定し、2.4mmという薄さのムーブメントでありながら、80時間のロングパワーリザーブを実現した。またマイクロローターの採用に伴い、輪列の配置を見直し、コンパクトな水平配置で効率を高めている。

このCal.2550は薄型ムーブメントの名機として知られるCal.1120を発展させたもの。Cal.1120はフルローター式自動巻き、ムーブメント厚さが約2.45mm、約40時間パワーリザーブというスペックを持ち、現代でも通用する完成度を誇る。それに対し、新開発のCal.2550は薄さが2.4mm、持続時間は約80時間と、どちらとも上回る新世代のムーブメントとなっている。ケース厚もコレクション史上最薄の7.35mmを実現した。
またオーヴァーシーズコレクションではプラチナ950をケースに初採用。時計業界のプラチナは純度95%がプラチナで、残り5%としてイリジウム、ルテニウム、コバルト、銅を用いることが一般的だが、ヴァシュロン・コンスタンタンでは銅とガリウムを採用。さらに熱硬化処理によって従来よりも2.7倍の耐久性を向上させた。ケースはもちろんブレスレット(付け替え可能)までプラチナにすることで、薄型でありながら気品のある重厚感を備えている。

「カルティエ プリヴェ」は2016年から始動した、歴史的モデルを現代的に再解釈するコレクター向けコレクション。今年で10周年を迎え、メゾンを象徴する3モデルをプラチナ仕様で発表した。「クラッシュ スケルトン」、「トーチュモノプッシャー クロノグラフ」、「タンク ノルマル」だ。一番注目度の高いのは「クラッシュ スケルトン」だが、今回はプラチナの魅力をもっとも体現する「タンク ノルマル」に注目したい。

「タンク ノルマル」はカルティエの「タンク」コレクションの原点に位置づけられるモデル。「ブランカード(仏語で担架)」と呼ばれるケース両端の構造がそのままラグを兼ねる点に特徴だ。
ところで、「タンク ノルマル」は2023年にもプラチナモデルを発表している。リューズに配されたルビー製カボションはプラチナ製の共通仕様だが、この新作モデルではブランドロゴ、ローマインデックス、ミニッツトラックはブラックからバーガンディカラーに変更。よりプラチナケースの特別感を強めている。
ケースと一体化した7連ブレスレットは、サテン仕上げを基調にポリッシュ仕上げを随所に取り入れ、落ち着いた雰囲気に仕立てている。ずっしりとした重量感が長い歴史の重みと呼応する。

「スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌ」は、10時位置にマイクロローター式自動巻きが見える薄型ウォッチ。マイクロローターは裏側に配置されているのだが、大胆にスケルトナイズされているので、文字盤側からでも見えてしまうというのが特徴だ。6時位置には、北半球と南半球の月相を示すダブルムーンフェイズを備える。

このスケルトン仕様は、文字盤をくり抜いて内部機構を露出させているが、ブリッジ配置そのものをデザインとして意匠化させている。文字盤外周とムーンフェイズ部分にはサンレイ仕上げを施し、スケルトン部分にはマット、ポリッシュ、ペルラージュと仕上げを巧みに使い分けた。新作ではブルーアビスカラーを配し、夜空に浮かぶ月を想起させる。
スケルトンウォッチは視覚的に軽やかな印象を与える。しかし本作では比重の重いプラチナケースを採用することで、予想に反して確かな重量感を伴う。この意外性もエルメスらしい遊び心といえる。

クレドールから日本の伝統技術を用いた新作が登場。まず中央の深いブルーから、外周に向かってブラックに変容していく味わいのあるグラデーション文字盤に目を奪われる。このグラデーションには漆が用いられ、伝統的な漆作品としては珍しい手法だ。このカラーグラデーションは一般的なスプレーワークではなく、職人の手作業で漆を何層にも塗り重ね、研ぎあげることで完成させたものだ。さらにその盤面はわずかに膨らむカーブ文字盤のため、均一に研ぐことが難しく、職人の繊細な感覚を要する。

バーインデックスやブランドロゴ、ゴールドフェザーロゴには、漆で盛り上げた上にプラチナ粉を蒔く高蒔絵という手法を用いた。ケースにはプラチナを採用しており、高い工芸性と調和させている。ゴールドよりも抑制的で、クレドールの極薄ウォッチや工芸的ウォッチにはよく用いられてきた素材だ。日本的な美意識の象徴である漆と、静かな高級感を放つプラチナは美しく呼応している。

STAFF
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Kyoko Seko
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