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北陸新幹線が福井県敦賀まで延伸して1年半以上が経過した。東京など都市圏から福井へ足を運ぶ人が急増したが、福井駅と敦賀駅の間にある越前たけふ駅は見落とされがちだ。この地に、地元越前に特化したワイナリーがある。併設されたレストランも唯一無二のスタイルで、極上の時間を生み出す空間としてグルマンから注目されている。
武生(たけふ)は難読地名かもしれないが、以前は武生市だった。2005年に今立町と合併して越前市となった。晩秋はつるし柿が名産で、その名を冠した越前和紙、越前焼、越前水仙、越前がに、越前おろしそばも有名だ。最近では、越前市は「ユネスコ創造都市ネットワーク」クラフト&フォークアート分野への加盟が認定された。いま、文化的にも注目すべき場所だといえる。
この秋、都会のグルマンたちが騒ぎだし、にわかに注目され始めたのが福井市内の美味処。本格的なフレンチからユニークな中華料理店や居酒屋、越前の魚介に特化した鮨店まで、遠方からやってくる客で活気づいている。
その流れで、北陸新幹線で福井駅の隣にあたる越前たけふ駅のそばに、ラグジュアリーなワイナリー併設のレストランがあると聞き及んだ。日本国内だけでなく、海外の美食も探求しているようなセレブな人たちが、この秋、こぞって足を運んでいたというのが、SIX THREE ESTATE WINERYに併設された『TSUKIHI』だ。
たまたま福井に行った帰りに予約がとれてランチへ。まずワイナリーを見学させてもらった。

SIX THREE ESTATE WINERYの栽培・醸造責任者でオーナーの西野恒樹さんが自ら案内してくれた。西野さんは、金属加工・電子部品の製造などを行なう「エイティーンスコーポレーション」の代表者でもある。
「私がワインにはまってしまったのは、カリフォルニア・ケンゾーエステイトの赤ワインを飲んで感銘を受けたのがきっかけです。あの体験が人生を変えたといってもいいかもしれません。以来、ワインを飲むだけでなくワイナリーも訪問するようになり、次第に自分でもワイン造りに携わってみたいと思うようになりました」
その後、専門的にワイン醸造について学び、2020年に12本の苗木を越前の圃場に植え付けた。それから5年を経て、今では3ヘクタールの畑に約6000本の葡萄の木を育て、赤ワイン用の品種がカベルネソーヴィニヨンをはじめ、ピノノワール、シラーなど全6種。白ワイン用の品種はシャルドネ、リースリングのほか、セミヨンやゲヴェルツトラミネールまで植えている。ワインの生産本数は約2万本。
「海に近い葡萄畑には、強い海風が吹きます。粘土質でしたが、土壌改良も行いました」
健全な葡萄が育つことで、ワインは自然派のスタイルで造られている。ワイナリー内にはステンレスのタンクや木樽もあるが、地元の人から譲られたという古い越前焼の甕を使うこともあり、いわゆる“オレンジワイン”も造っている。
いまや全国に500以上のワイナリーが林立しているが、福井県内にはまだ少なく、このSIX THREE ESTATE WINERYはレストランを併設していることも含め、稀有な存在といえる。


見学しながらレクチャーを受けた後は、いよいよレストラン『TSUKIHI』へ。ワイナリーとは一体の建物だが、一度外へ出て別の入口から入店する。レストランのオーナーでもある西野さんに案内されダイニングへ。廊下が長く、期待を高める。大きな窓を擁するダイニングは天井も高く、落ち着ける空間だ。窓の外には田園風景が広がる。

料理はランチ、ディナーともに2万2000円のコースとペアリング込みの3万3000円のコース。お酒は、もちろんSIX THREE ESTATE WINERYのワインのほか、福井の地酒などもある。
コース料理のメニューは、順に素材やテーマだけが記されている。昨今のラグジュアリーレストランではよくあるスタイルだが、内容は越前に特化していて、最初の一皿は「湧き水 葡萄の葉 お米」と非常にユニーク。まず、この米のお焦げと葡萄の新芽を使ったスープで胃腸を優しく温める。

アミューズの「昆布 塩雲丹」は、ツルムラサキとおぼろ昆布、イカを使った小さなタルト、炭で焼いたブリオッシュに天然の塩ウニをのせた2種類を手でいただく。これが風味豊かで味わいが奥深く、2つの食感と温度の対比が面白い。まさに越前のエッセンスを小さなフィンガーフードに凝縮して閉じ込めたかのよう。

続いて、挽きたての蕎麦がき、落花生の「おおまさり」と青大豆の豆乳の泡という一品。越前といえば蕎麦というイメージを、素材との組み合わせでより薫り高くインパクトある味わいに仕上げていて脱帽だ。

かつてTVドラマ「グランメゾン東京」ではキムタク扮するシェフが「まずアミューズでお客様の心を掴まなければダメだ」といっていたが、まさにこのレストランでも最初から鷲掴みにされた。

このあと、コース料理は「越前-海-」「越前-里山-」というテーマが続く。1つのテーマにいくつもの料理が組み込まれている。酒好きの人になら、どんどんワインが進んでしまうかもしれない。


さらに「豚」「紅蟹」「甘鯛 薪焼」「牛 薪焼」と続く。「豚」は福井ポークをつくね状にした料理で、地辛子を使用。「紅蟹」は紅ズワイガニのパスタ。自家製のタリオリーニだ。魚と肉のメイン2皿は、いずれも薪焼。こちらのオープンキッチンの厨房ではガスは一切使用せず、薪だけが熱源だという。
牛肉は「ふくい和牛ふくふく」で、調理される前に素材がプレゼンテーションされる。じっくりと時間をかけて焼かれた肉塊をゲストの人数分に切り分けて提供。シンプルながら旨みが強い牛肉は、SIX THREE ESTATE WINERYの赤ワインにもよく合い、余韻も長かった。




このコースはどれも凝った料理で品数も多く、今回すべてを紹介しきれないが、デザートの前にご飯が出てくるのは特筆に値する。福井県産の「いちほまれ」を昔ながらのかまどで炊き、ご飯に合わせて、おかずも5品用意される。これがまた美味しすぎて、ついご飯をお代わりする客も。しかし、このあとさらに鯖と水だけでとったスープ仕立てのご飯も供されるのだ。



まさに満漢全席のようだが、完食してもお腹にもたれない。最後のデザートの際にコーヒーを選ぶと、これも地元、池田町の焙煎所の豆だという。福井の食材に特化した料理と越前で造られたワインを提供するスタイルは、地元に根差したテロワールなレストランといえよう。
北陸新幹線の越前たけふ駅は停車する本数が少ないが、このワイナリーとレストランを目的にして旅のプランを立てる価値がある。予約至難になる前にぜひ、訪問していただきたい。


STAFF
Writer:Indy Fujita
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