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188㎝という長身にすらりと伸びた手脚、色気のあるシルバーヘア。これほどまでに存在感のあるバイプレイヤー(名脇役)が、ほかにいるでしょうか?テレビドラマ『孤独のグルメ』シリーズをはじめ、『アンナチュラル』『きょうの猫村さん』ほか、多くの映画や舞台などに出演、実力派として高い人気を誇る松重豊さん。役者として、書き手として、マルチに活躍する松重さんの役者哲学からおしゃれ論、最近気になることまで、じっくりとうかがいました。
細身の黒スーツに黒いネクタイ、パリッと糊のきいた白シャツ。サングラスでバシッとキメた、いぶし銀のおじさまたちが登場する、映画『バイプレイヤーズ〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』圧巻のオープニングシーン。中でもすらりとした長身に、シルバーヘアがまぶしい松重豊さん。
「スーツを着るとやはり、スイッチが入りますね。男の戦闘服というか〝オン〟の日の定番なのかもしれません」
名脇役たちが実名で出演、本人役を演じて話題となったドラマの映画版『バイプレイヤーズ〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』には、元祖メンバーである松重さんも、もちろん出演しています。
「座長のような存在の大杉漣さんが第2シリーズ放映中に急逝されて、僕らはずっとその空洞を埋めることができなかったんです。でも、プロデューサーの熱意で、今回実現しました。コロナ禍でもあるし、まさかこのタイミングで、100人もの俳優が出演するスケールの映画ができるとは。奇跡が降ってきたとしか思えないんです」
映画では、スタイリッシュなスーツ姿も、ゆるめなオフの姿も拝見できますが、どちらが〝素〟の松重さんに近いですか?「『バイプレイヤーズ』は〝松重豊〟役として登場するので特殊かもしれませんが、それだって、松重豊を〝演じて〟いるわけです。よく、役作りについて聞かれますが、僕は役を作らないタイプ。監督の世界観のもと、オーダーに応えるのが俳優の仕事だとするなら、この役はこうだから、という自我や自意識はちょっと邪魔で、役者としては常に〝空っぽ〟にしておくことが、大切だと思っています。自分という器の中にいろいろな役を出し入れする感覚でしょうか。ただ、空っぽといっても、空洞ではあるけれど〝無〟、つまり何もないわけじゃないんです。今までの経験は血肉となって空洞の壁にちゃんと刻まれていますから」
そんな松重さん、2020年10月に発売した初の著書、小説&エッセイ集『空洞のなかみ』も好評です。「エッセイは2年前から雑誌で連載していたんですが、小説はコロナ禍で役者の仕事がなくなった4月、一気に書きあげました。普段は、原作者や脚本家、監督やプロデューサーがいて、いただいた役を演じるという作業をしていますが、著者となると自分が出発点。いかようにも料理していい〝自由〟が手に入ったわけで、読者の方にどう届けるのかを考えて、朗読してユーチューブで配信したり、ミュージシャンを呼んだり。非常に面白い経験でした」
最後に、この号のテーマでもある〝デニム〟についてうかがいました。
「オフの日の僕は、365日、ジーパン(昔はこう言っていましたよね?)です。丈夫で長持ちするし、物心ついたころから、はいていました。中高生でおしゃれに目覚めてくると、はき倒して味のあるジーパンを育ててみたりして。ただ…。嫌味に聞こえると申し訳ないんですが、僕はご覧の通りの大きさで、股下が85㎝あるんです。当時、日本に入ってくるジーパンは全部裾が短く切られていて、はきたくてもはけない時期が長かった。やっと最近、海外通販などでぴったりの長さのジーパンを買えるようになって、おしゃれが楽しくなってきました。基本的に、僕のジーパンスタイルは、お気に入りのジャケットに、夏ならTシャツ、冬はシャツにセーターやカーディガン。これを着回すだけで、困ることはありません。さらに最近は、天然の素材、たとえば「綿」「毛」「絹」「麻」――漢字ひと文字で書けるものに、惹かれています。この年になってくると、肌に直接触れるものや食べものなど、 ケミカルなものはできるだけ遠ざけ たい気持ちが働いてきて。年を重ね、だんだんと“土に還る”“自然に還る” 準備をしているのでしょうか(笑)。でも、これって素敵なことだと思いませんか?余計なものを削ぎ落として、変に着飾ることなく、どんどんシンプルに、自然体で生きるって、いいなぁとしみじみ思う。そう考えると、ジーパンってもともとは作業着なわけだから、土がついても違和感がない。よそゆきにもなるけれど、農作業にも使えるわけで、そのまま死んでもいいと思えるようなアイテムです。僕はきっと、死ぬ瞬間までジーパンをはいているんじゃないかな、と思います」
大学在学中より芝居を始め、1986 年蜷川スタジオに入団。
2007年の映画『しゃべれども しゃべれども』で毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。
2012年『孤独のグルメ』でドラマ初主演。2020年10月に初の著書『空洞のなかみ』(毎日新聞出版)を上梓。最新出演作の映画『バイプレイヤーズ〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』(4月9日より公開中)は日本の名だたる名脇役が本人役で出演し、話題となったドラマ『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系列)を映画化。
100人を超える役者でにぎわう撮影所を舞台に、濱田岳を中心とした若手俳優たちが犬を主役にした映画を撮影するべく奮闘。ところがベテラン俳優も巻き込むさまざまなトラブルが…。
元祖・バイプレイヤーズの田口トモロヲ、松重豊、光石研、遠藤憲一はじめ総勢100人の俳優が出演
(配給:東宝映像事業部 ©2021「映画 バイプレイヤーズ」製作委員会)。
●掲載商品の価格はすべて、税込み価格です。
初出:2021年4月10日発行『AdvancedTime』07号。掲載内容は原則的に初出時のものです。
STAFF
Photo: sai
Stylist: Yoshie Masui
Hair & Make-up: Yuko Hayashi
Text: Miho Tanaka
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