フランク・ロイド・ライトと帝国ホテル、受け継がれる精神と品格

帝国ホテルの歴史は、一流たる所以を証明するかのようだ。世界に冠たる日本のホテル、そのはじまりとは。

SPECIAL Mar 31,2023
フランク・ロイド・ライトと帝国ホテル、受け継がれる精神と品格
帝国ホテル2代目本館の画像

荘厳たる神殿のような。静かに羽を休めるオオワシのような。その建物を目にした人々は、どんな言葉で感動を誰かに伝えただろう? 大正末期の1923年に完成した「帝国ホテル2代目本館」。アメリカ人建築家フランク・ロイド・ライト(1867~1959年)が設計を手がけたその建築は、息を呑む迫力をたたえていたはずだ。

日比谷公園の真向かい、日比谷通り沿いの間口約100mの巨大な敷地。中央に庭池のある中庭があり、これを囲むようにH字に近いプランの建物が建つ。建物正面の池の向こうに建つのがロビーやメインダイニングルーム、劇場などのパブリックな空間が入る棟、その左右に客室の入る3階建て・全長150mの棟が延びる。

シンメトリーが美しい造形をさらに際立たせるのが、その素材だ。東京に頻発する地震を意識した建物は、大谷石とレンガで覆われた。幾何学模様の装飾を施したグレーの大谷石、ひっかき痕(スクラッチ)の入った黄色系のレンガ。幾何学的な模様の組み合わせが、重厚さとたおやかさが共存する外観をつくり出している。正面の池を回り込んでメイン棟へ入ると、驚きはさらに深まったことだろう。天井を低く抑えた入り口を抜け、数段の階段を上がった先に待つ3層吹き抜けの大空間からして圧巻なのだ。

外観と同じく、スクラッチレンガや透かし彫りのレンガ、精緻な彫刻を施した大谷石が彩り、どちらを見ても違う表情が表れる。空間構成もまた巧みだ。天井の高さや大きさの違うさまざまな空間が、この大ホールの四周をぐるりとまわり込みながら上っていくスキップフロア形式で配されていて、1階にいる人、上階を行き来する人々の視線が、吹き抜けを通じて交錯する。

“東洋の宝石”とも称された、この「ライト館」の往時を想像する―着飾った人々が集い、大空間のあちこちを行き交うさまを。残念なことに、ライトによるこの名作は、地盤沈下などを理由に完成から半世紀に満たない1968年には取り壊されてしまうのだが、正面玄関部分は愛知県犬山市の明治村に移築され、かつての壮麗な佇まいを知るよすがとなっている。

それまでに(そしてそれ以降も)見たことのない名建築。それでいてこの「ライト館」には、ライトらしい手法や、彼が日本の美に寄せた憧憬が詰め込まれていたことも、また一方の事実だ。熱心な浮世絵コレクターでもあったライトは、日本文化への理解も深く、「ライト館」のシンメトリーな造形は平等院鳳凰堂がモチーフともされる。低く抑えた建物は、“プレーリー(草原)スタイル”と呼ばれる、アメリカのライト建築に多い草原をはいつくばるような様式を確かに思わせる。また、それまであまり主要な建材として使われることのなかった大谷石をここまで大胆に建築の内外に使ったのも、土地の自然に敬意を抱き続けたライトらしい着眼だ。耐燃性があり柔らかく加工もしやすい大谷石は、この建築を機に、建材として広く使われるようになっていく。

ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエとともに“近代建築の三大巨匠”として建築史に名を刻むライト。「ライト館」は、西洋と日本の手法や美を精緻に織り上げた名作であった。

オールドインペリアルバー

オールドインペリアルバーの画像

現在の帝国ホテル 東京の本館にある「オールドインペリアルバー」は、フランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテル2代目本館(ライト館)の雰囲気が味わえる場所。店の奥には、かつてライト館の宝の間にあった暖炉上の、大谷石を使った設えが残る。また、その前に置かれたローテーブルは、ライト館当時の客室で使われていたものという。

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「ライト館」が導いた時代

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