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デニッシュデザインの家具や椅子の中でも、その独特な素材使いと、研ぎ澄まされたような美しさで一線を画しているデザイナー、ポール・ケアホルム。彼が手がけた主要作品を網羅した、日本の美術館としては初めての展覧会が、パナソニック汐留美術館で9月16日まで開催されている。
近年、また注目を集めつつある、20世紀の北欧インテリアデザイン。北欧デザインといえば、ハンス・J・ウェグナーやアルネ・ヤコブセンといった名前が、彼らの代表作である「Yチェア」や「アントチェア」等の名作椅子とともによく知られるところ。それらは木製部材が生み出すモダンかつオーガニックなラインが特徴で、それが北欧インテリアそのものの個性として捉えられているところもある。そんな北欧インテリアの流れを汲みつつも、独自の素材使いやミニマリズムで、デザインアディクトたちを今なお唸らせているデザイナーが、ポール・ケアホルムである。現在、日本の美術館ではほぼ初めてとなる展覧会『ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム』が、東京・汐留のパナソニック汐留美術館にて開催されている。
1929年、デンマーク・オスターヴロにて生を享けたポール・ケアホルム。10代で家具職人の徒弟として働き始め、19歳でマイスターの資格を取得。その後コペンハーゲン技術工芸学校に入学し、ハンス・J・ウェグナーやアイナー・ラーセンらのデザイナーから工業デザインを学んだ。さらに1950年から’52年にかけてはウェグナーの事務所に勤務。その間の1951年に家具デザイナーとして最初の作品である「PK25 エレメントチェア」のプロトタイプを手がけている。コペンハーゲン技術工芸学校卒業後はフリッツ・ハンセン社に入社し、後年製品化された合板を使った三本脚の椅子のプロトタイプ(PK0)を製作。その後ウェグナーの紹介によりアイヴァン・コル・クリステンセンと提携して、「PK22」ほか数々の名作を世に送り出し、国際的にも評価されるようになった。1960年には第12回ミラノ・トリエンナーレでデンマークパビリオンのデザインを担当。1976年から1980年にかけてはコペンハーゲン王立芸術アカデミー建築学部家具デザイン・空間芸術科の教授も務めた。1980年デンマークにて永眠。
展示された数々の名作椅子からは、まずその使用素材の幅広さと組み合わせの妙味が感じられる。ケアホルムが手がけた最初の椅子である「PK25」は、フラッグハリアード(ヨットの旗のための頑丈なロープ)とスチールの組み合わせ。他にも木材や革、籐といったナチュラル感ある素材と、ステンレスやスチールといったインダストリアルなマテリアルが併用されているものが多い。そして、例えばフラッグハリアードに関しては、ケアホルムが師事したウェグナーも「PP225 フラッグハリアードチェア」を手がけているが、ケアホルムの「PK25」の場合、ウェグナーの椅子よりも削ぎ落としたような美しさが際立っている。今回の展覧会のサブタイトルにもなっているこのミニマリズムこそが、ケアホルムが一貫して追求した価値観だったことは、展示されている椅子が雄弁に物語っている。
今回展示されている約50点の椅子の多くは、椅子研究家である織田憲嗣氏(東海大学名誉教授)が収集し、2017年に北海道東川町が公有化した「織田コレクション」のもの。会場では世界各地の椅子1400脚を収集した織田氏による、ケアホルムの各作品についての肉声コメントが流され、さらに要所要所にはケアホルム自身の言葉なども掲示されていて、展示されている椅子とともに楽しめるようになっている。そうした会場構成を担当したのは、エストニア国立博物館などで国際的に注目された気鋭の建築家、田根剛(ATTA)氏。作品群を俯瞰的に味わいながらも、個々の椅子を細部までしっかりと見ることができるような展示は、ケアホルムというデザイナーを理解する上で有効なものといえるだろう。
展示最終盤には、パナソニック汐留美術館のルオー・ギャラリーにケアホルムの椅子が配置され、実際に座ってルオー作品を見ることができるコーナーがある。この着座体験は、ケアホルムのデザインを理解する上で、重要に感じられた。視覚的にはミニマルであり、どこかクールな印象が強いケアホルムの椅子だが、その座り心地は意外なほど安心感があるものだったりする。デザインというものの奥深さを体感できる機会ともいえるだろう。
STAFF
Writer: Yukihiro Sugawara
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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