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毎春にスイス・ジュネーブで開催される、世界最大の高級時計のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(W&WG)。今年は海外取材初というフレッシュなメンバーを取材班に加え、さまざまな視点から高級時計の新作とそのトレンドに迫った。W&WGレポート第4回は、取材班が感じた会場のリアルな雰囲気や、新作時計の傾向などを語った座談会からお届けする。
座談会メンバー/
ジュネーブ出張に行って、その年に買う時計を決める時計好き編集:A
海外取材が初めてで時計に興味津々な若手企画編集:K
ほぼ毎年スイスの時計見本市に行き、帰国後も夢で時計にうなされるライター:T
T:高級時計の祭典、ウォッチズ&ワンダーズに行ってきました。今年は男3人、一軒家のコンドミニアムを借りて、合宿気分で時計漬けになろうと思っていたところ、オーナーが1週間前に一方的にキャンセルしてきて、仕方なくシャワー・トイレ共同の安宿に泊まることになりました。
K:夜にトイレの前でガラの悪そうな人たちが座り込んでいて、本当に怖かったです。
A:レンタカーを借りていたから、いろいろ選択肢はあったけれど、学生時代のバックパック旅行のようで、いい思い出になったね。
T:あまりに居心地が悪いから、ホテルのレビューをみたら、軒並み低評価で「地獄だ。早く逃げろ!」というコメントが書き込まれていてびっくりしました。それとは真逆といえるラグジュアリーの最高峰のW&WGの会場に通っていて、そのギャップに毎日眩暈をおこしていました(笑)。
A:今年は5日間で会場内外も含めて合計38ブランド回りましたね。会場のエントランスを抜けるとすぐそばにブルガリの巨大なブースが新設され、ブランドも増えて会場がさらに拡張されていた。時計ビジネスの勢いを感じさせる存在感だった。
K:私はW&WGには初めて来たんですが、大規模な時計の祭典ということは聞いていましたが、これほどまでとは思いませんでした。日本でやっている展示会とはわけが違うなと。各ブランドの展示がまるで美術館のようでした。会場に来ていた人たちも、品の良さそうな紳士淑女が多くて、気を引き締めて取材に臨みました。
T:会場が少し広くなった分だけ、人が少なくなった気がしましたが、結果的に来場者数は5万5000人と過去最高を記録しました。期間中、トランプ関税のおかげで日経平均株価が1000円以上も暴落する日が2日間もありしたね。だけど、そんなこと関係なく、会場は盛り上がっていて、みんな時計が本当に好きなんだなと思いましたよ。
A:ビジネスへの影響はこれからでしょう。週末の一般客向けの開放日には、いくつものブランドのブースで行列ができていたし、メディアとしては新作時計の魅力どんどん発信して少しで多くの人に興味を持ってもらうことで、経済を回していきたいですね。
K:38ブランドを回って、けっこう大変でした。その中から見えてきたトレンドのようなものは見つかりましたか?
T:まさに専門誌並みの活動でしたね。今年は創業、モデル誕生などいくつものブランドでアニバーサリーイヤーが見られました。創業年でいうと、創業270周年のヴァシュロン・コンスタンタンを筆頭に、160周年のゼニス、30周年のロジェ・デュブイが盛大にアニバーサリーを祝っていました。
A:モデルでいうと、A.ランゲ&ゾーネの「1815」の30周年、シャネルの「J12」の25周年、ウブロの「ビッグ・バン」の20周年、ベル&ロスのBRシリーズの20周年、W&WG会場外の独立ブランドでいうとフランク ミュラーの「ロングアイランド」の25周年が話題になっていた。
T:アニバーサリーモデルは、ひとつのジャンルとして確立していますね。とりわけコレクションのアニバーサリーモデルは、長年売れ続けているロングセラーを特別仕様にすることが多いから注目に値しますよ。
K:アニバーサリーが多かったせいか、ブランドのブースも新作のディスプレイだけでなく、これまでのアーカイブが展示されるのが印象的でした。単に時刻を見るだけならアップルウォッチで十分ですが、このようなストーリー性のある機械式時計を腕に巻くと、時計の持つ歴史と共に人生を歩んでいくような気持ちになって、より豊かな時間を過ごせると思いました。
T:一方で、ユーザー目線から見ると、ドレスウォッチ、ラグジュアリースポーツウォッチに限らず、快適な装着感にどのブランドも注力していましたよ。
K:ラグジュアリースポーツウォッチはステンレススティール製のケース&ブレスレット一体型というイメージでしたが、セミラックやチタンなんていうのもありました。軽くて着け心地が良かった。
T:ステンレススティール製は長時間していると、重さで肩が凝るなんていう人もいますからね。だからチタンやセミラックで軽量かつ快適にしたんですよ。もっとも今年はずっしり重いゴールド製のケース&ブレスレットの一体型モデルやショパールからはフルプラチナ製まで発表されています。本当のお金持ちはあまり動き回らないから、重さなんて気にならないんですよ。
A:快適さでいうと、小径モデルがとても目に付いた。昨年からケースの薄さにこだわるブランドが出ていたけど、今年は36mm前後の小型サイズは新鮮だ。
K:大きな時計がしばらくトレンドだと聞いていたので、新しいスタイルを試したくなってくる頃合いなんでしょうか。
A:ド派手なものがかっこいいという時代から、さり気なく上質というサイレントラグジュアリーの文脈のひとつだと思うね。男性用、女性用とはっきりと明示しないブレンドも増えてますますジェンダーレスの時代になってきていますからね。そういう意味で、昨秋、久しぶりの新コレクションとして発表されたパテック フィリップのCubitusがさっそく小型モデルを発表していましたのが象徴的だった。
T:トレンドに敏感なブランドほど、旗艦モデルをサイズダウンした新作を発表していた印象です。ヴィンテージ時計はケースサイズ34mmくらいがメンズウォッチの標準だったので、まだまだ小さくなる可能性はあると思いますね。
A:ところで、ジュネーブに行って、発表されたばかりの新作時計で心に残ったのはどんな時計かな?
T:毎日何十本と腕に時計を乗せていると、みんな同じに見えてしまうことがありますが、カルティエの「タンク ア ギシェ」だけは、どの時計とも違う存在感がありました。一般的な時計のような針のある文字盤ではなく、鉄仮面のようなケースに小さな小窓が空いて時刻を表示する時計です。小窓を開ける場所とか、大きさとかひとつひとつにカルティエのセンスを感じました。もうひとつはヴァン クリーフ&アーペルの「レディ アーペル バル デ ザムルー オートマタ ウォッチ」ですね。橋の上で歩み寄りキスをする恋人たちを表現した「ポン デ ザムルー」に続く新たな章として発表された新作で、今回はパリの屋外カフェ ギャンゲットが舞台となっています。
A:正午と深夜0時に恋人たちがキスをするロマンチックな時計だね。
T:そうです。この時計を見た後、面白い光景を目にしましたね。ジュネーブ空港を車で横切る際に間違って送迎レーンに入ってしまって、前を走る車から男女が降り、熱く抱き合ってからキスをして女性はさっそうと空港へ入っていきました。このレーンを「キス&フライ」とヨーロッパではいうそうです。
K:ヴァン クリーフ&アーペルの世界観そのものですね。われわれはそこを通過するためにたっぷり10分は待ちました。
T:次回作は「レディ アーペル」から「キス&フライ」というモデルを発表して欲しいですね。キスが終わったら、文字盤上に備わっている飛行機が飛んでいくという情景まで浮かびます(笑)
K:私は腕時計がヨーロッパの文化の中で真っ向から勝負しているグランドセイコーは日本人としてとても誇らしく思いました。その中でも「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」に惹かれました。ただでさえ時間の精度の高いスプリングドライブをさらにチューンナップして年差±20秒に収める技術は素直に感心しました。
A:グランドセイコーはこの新しいスプリングドライブがハイライトでしたね。W&WGが終わって翌週に開催されたミラノサローネにも参加したんだけど、そこでもグランドセイコーは出展していた。時計そのものを見せるW&WGと違って、デザイナーの吉岡徳仁さんが手掛けた水の椅子と一緒に展示して、スプリングドライブの世界観を見事に表現していたよ。
K:グランドセイコーはどこよりも日本的なものを考え抜いていますよね。あと気になったのは、H.モーザーです。正直に言うと、初めて知ったブランドでポップなカラーリングの新作を見るとカジュアルウォッチなのかなと思いました。しかし、詳しく聞くとスイスでも数社しか作ることができない機械式時計の要であるヒゲゼンマイから自社製造する本格派と聞いて驚きました。このような遊び心のある時計を本気で作ってしまうところが、ラグジュアリーの本質なのではないかと感じましたね。
A:最後はぼくから。長らくクルマも担当して編集者とすると、久しぶりにクルマと親和性のある時計が多く見られてうれしかった。同じメカとして緻密な機械の面白さとか、長く使うことがかっこいいというところが似ているとおもうんだよね。そういった意味で、F1の公式タイムキーパー復帰を記念するタグ・ホイヤーのモナコの発表はうれしかった。あと、今年は小径化した時計が多く見かけられたけど、トレンドは気にせず44mmという大型ケースの本命モデルで勝負するパネライも好きだな。サイズはそのままに少しだけケースが薄くなったところにパネライらしいこだわりとセンスの感じるよ。
T:3人の視点がそれぞれ異なって、興味深いセレクトでしたね。こうしたジュネーブでのラグジュアリーな体験がわかりやすく伝わるように、取材班が感じたトレンドや注目ウォッチをどんどん紹介していきますので、是非ご覧ください。
STAFF
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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