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さまざまな工夫を凝らし、時計に個性を与えるウォッチメーカー。見本市は新しいアイデアや視点に出合える格好の機会といえる。時計の動きやデザインで感動を与える一芸を備えた時計とは?
時計とは時刻を把握するための道具であるが、時刻表示以外の趣味的な機構や装飾性を高めて“時”を彩るのも時計の面白さである。そんな時計に多く出合えるのがウォッチズ&ワンダーズのような見本市だ。商業的なディールはもちろんのこと、新しいアイデアや機構に刺激され、知的好奇心も満たしてくれる場でもある。
そこで今年、会場で目に留まった、技巧を凝らした時計に注目。決して複雑機構ばかりだけでない、手に取る人に驚きと感動を与える一芸を備えたユニーク時計を見ていこう。
1900年代初頭、アメリカ人コレクターのジェームズ・ウォード・パッカードとヘンリー・グレーブス・ジュニアが競うようにパテック フィリップにコンプリケーションウォッチを注文していたのは有名な話。8日間パワーリザーブに永久カレンダーを搭載するデスククロックもそのひとつ。後年、我々はふたりの間柄をライバルと表現するが、パッカードはグレーブス・ジュニアの存在すら知らなかったらしい。そんな性格も趣向も異なっていたこのふたりがほぼ同じものを手にした珍しい時計だ。
発表されたデスククロックは、1923年に先んじて手に入れたパッカードバージョンにインスピレーションを得たもの。数量は限られるが、ユニークピースが製品化された貴重なモデルだ。現代版ではパワーリザーブを31日間にし、秒針を1秒ごとにジャンプして進むジャンピング・セコンドと、目盛りに沿って移動するフレーム付きウィークリー・カレンダーが新たに追加された。ジャンピング・セコンドはパッカードが特に好んだ機構のひとつだ。また31日間のパワーリザーブを実現するために、3つの香箱を直列で搭載する。一般的にロングパワーリザーブにするとゼンマイがほどける際のトルクに強弱が生じて精度を一定にするのは難しいが、特許技術の定力機構によりテンプの振り角を一定にすることで日差最大±1秒の高精度を実現した。
デスククロックの形状はパッカードバージョンをほぼ踏襲されており、カバーを開くとアメリカン・ウォールナットの化粧板で装飾されたダッシュボードが現れる。文字盤の下にはカレンダーを調整できる調整ボタンが備わっていてとても実用的だ。スターリング・シルバー製のキャビネットは、手彫りギョーシェ装飾が施された緑フランケ本七宝がはめ込まれ、贅沢に仕上げた。また上部パネルに“網”モチーフのゴールド彫金、底面の四角には翼を持つライオンの彫金が配されている。
決まった時間になると橋の上で歩み寄ってキスをする恋人たちをテーマにした「ポン デ ザムルー」の物語に続く第二章となる新作。新たな舞台となったのは、19世紀にパリ郊外で人気を博した賑やかな屋外ダンスカフェ、ギャンゲットだ。
正午と真夜中になると、手を繋いだ中央ホワイトゴールド製レリーフの男女がお互いに引き寄せ合って口づけを交わすロマンティックなシーンを繰りひろげる。この動作は機械式で動くオートマタという技法を応用したもので、8時位置のプッシュボタンを押すと任意で動かすこともできる。オートマタ機構は本作のために新たに開発され、3つの連結部分を備える恋人たちのレリーフはカムが組み込むことでお互いを引き寄せる動作も自然な動きとなっている。時刻表示は、文字盤上部に時と分をダブルレトログラード機構で動く2つの星によって示し、ロマンティックなシーンをドラマチックに演出する。
文字盤の装飾も高度な技術が注ぎ込まれた。5層からなる文字盤のうち、メゾンの誇る技術であるグリザイユ エナメル技法によって2層のエナメルからなる雲のコントラストを表現し、ほかにもカラー グリザイユ エナメルでさまざまな色調のブルーや、ランタンの光をイエローで表現。また恋人たちや石畳はホワイトゴールドの彫金を施した。時刻を知るとともに感動も与えてくれるメゾンの高い技術と詩的なセンスが詰まった1本だ。
これぞ一芸ウォッチといえるのが、エルメスの「アルソー タンシュスポンデュ」だ。9時位置のボタンを押すと、時分針が“12”のインデックスを挟むように移動し、文字盤右下のレトログラード式ポインターデイトの針は4時から5時の段差の隙間に隠れてしまう。「タンシュスポンデュ」と名付けられたこの機構は、フランス語で「保留された時」を意味し、時間は大切だけれども、時にはその制約を忘れて瞬間を楽しんで欲しいというエルメスからのメッセージが込められたものだ。2本の針は重ねて1本に見えるようにするのではなく、あえて12時のインデックスを挟むように針を配置するところは、時を“忘れさせる”ためではなく、“保留させる”ためのエルメス流の遊び心を表現したといったところだろうか。
2011年にこの機構を搭載した時計が発表されているが、デザインを一新して再登場。大きく異なるのは、文字盤中央のスケルトン部分だ。ムーブメントは自社製に置き換わり、文字盤側にタンシュスポンデュのモジュールを組み込んだことで、スケルトン部分から特殊機構の作動を鑑賞できるようになっている。文字盤カラーは、エルメスを代表するカラーであるルージュ・セリエ(レッド)を採用。ほかにもブルー、ブラウン・デゼールのカラーも用意される。
ポップアートの巨匠であるアンディ・ウォーホルが愛したこの時計は、昨年から正式にアーティストの名を冠するモデルとしてラインナップ。これはピアジェとアンディ・ウォーホル美術財団とのパートナーシップによるもので、2024年のピアジェ創業150周年の締めくくりとして発表されたものだ。
新作ではブルーとグリーンが艶やかに煌めくオパールを文字盤に採用。鮮やかな色合いや模様は天然石ならではで、同じものは二つとない一芸ウォッチそのものだ。通常モデルではベゼルに4段のゴドロン装飾が施されるが、本作ではブルーのオパール文字盤とリンクするように、バゲットカットされたサファイアを3重にセットしてゴージャスさもアップ。ストラップのブルーも含めて美しく統一感のあるデザインに仕上げた。
均一なブルーサファイアはもちろんのこと、異なる素材であるオパールとカラーを揃えるのはジュエラーらしい美意識の表れだ。ロゴと時分針と生産国表記のみのシンプルなデザインがブルーの美しさを際立たせている。搭載されるムーブメントは、自社製の自動巻きキャリバーで、パワーリザーブは約40時間だ。
ダイバーズウォッチといえば、気密性を高めて防水性能を持たせるために大きくて堅牢な作りの代表であった。しかし、今年ユリス・ナルダンの「ダイバー」コレクションに加わったのは、世界最軽量となるダイバーズウォッチだ。本体はケース径44mm、厚さ14.7mmのサイズながら46g、ストラップは6gと総重量はわずか52gという軽さを実現した。実際に持ってみると、まったく重さを感じない。長時間の着用でも疲れることはなさそうな時計だ。
この軽さを実現するために、ケースをモジュール化し、パーツにチタン、カーボンファイバー、リサイクル漁網のNylo&カーボンファイバーを採用。ムーブメントの素材もチタン製にすることで耐久性と軽さを兼ねたキャリバーを完成させた。しかもこれらの素材の多くは、アップサイクル素材を活用しているところも革新的だ。
ムーブメントは「ダイバー X スケルトン」に使用される「X」のブリッジで強度を高め、デザイン的なアクセントにもなっている。6時位置に見えるブルーに着色された脱進機のパーツはアップサイクルされたシリコンウエハーから製造されている。この堅牢かつ革新的なケースは、200m防水を満たし、5000Gの耐衝撃テキストもクリアしている。
STAFF
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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