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年を追うごとに注目度が上がる「ミラノデザインウイーク」。日本を代表する時計ブランド、グランドセイコーは2025年、デザイナー・アーテイストの吉岡徳仁氏とのコラボレーション形式による展覧会『TOKUJIN YOSHIOKA - Frozen』を、ブレラ地区のパラッツォ・ランドリアーニで開催した。
各国のインテリアブランドはもちろんのこと、ライフスタイル&ファッションからカーメーカーに至るまで、様々なプレゼンテーションが楽しめる「ミラノデザインウイーク2025」。本年は、2025年4月7日から13日まで開催された。
「ミラノデザインウイーク」とは、会期を合わせて行われる様々なカテゴリーの見本市の総称だ。市内にある巨大なイベント会場、「ロー・フィエラミラノ」で開かれる、通称「ミラノ・サローネ」と呼ばれるインテリアの見本市を端緒とし、現在は、「フォーリサローネ」と呼ばれる市内各地域でのデザイン領域のイベントも多く開催される。
ブレラ地区はミラノ市内中心部にあり、ブレラ美術館をはじめとした、様々な芸術関連の施設も多い。ミラノ生まれのカーメーカー、アルファロメオの往年の名車名『ブレラ』もこの地から取った。
グランドセイコーは2023年から、この「フォーリサローネ」及び、地域ごとにまとめられている名称の一つである「ブレラデザインウイーク」の公式タイムキーパーを務めており、世界的なデザインの中心、ミラノで、確固たる地位を占めてきた。
今回、グランドセイコーは、デザイナー・アーテイストの吉岡徳仁氏とのコラボレーション形式による展覧会『TOKUJIN YOSHIOKA – Frozen』を、ブレラ地区のパラッツォ・ランドリアーニで開催した。
吉岡氏は、故・倉俣史朗、故・三宅一生氏に師事した後、2000年に独立。以来、デザインとアートの領域で多くの作品を世に問うてきた。ガラスやクリスタルなどの透明な素材、あるいは炎といった定型のない現象を素材に、「光」にフォーカスしたアート作品や、プロダクツが世界的に知られている。
グランドセイコーとのコラボレーションにあたって、吉岡氏がインスタレーションの作品として制作したのは、吉岡氏が長年構想してきた『Aqua Chair』。透明感が保たれた巨大な氷を素材に、7脚の椅子が、パラッツォに据えられている。氷製なので、当然、少しずつ解けていくし、設置場所の日当たりによって、変化の度合いも違う。代表作の一つ、オルセー美術館に常設展示されているガラスのベンチ『Water Block』などからも一貫して感じられるのは、光をどのように作品に取り入れ、定型を超えたアートをうみだして行くのか、という姿勢だ。
会場で、吉岡徳仁氏に話を聞いた。
「今回の作品制作は、1年ほど前から具体的にスタートさせたのですが、形を持たない「水」で椅子を作るということについてはだいぶ前から考えていました。一脚の椅子という、いわば小さな世界に、自分の考え方を込める。木の椅子からパイプの椅子へ、プラスチックの椅子へというように時代とともに新しいものが出てくるのです」
確かに、ブルーノ・タウトの木製『緑の椅子』、倉俣史朗のアクリル製『ミス・ブランチ』など、後世に残る傑作椅子は、素材の変遷とともにある。それにしても、いずれは溶けてなくなる、氷という素材での椅子づくりは画期的だ。
「純粋な透明な水の塊、そんな椅子を作りたいと考えました。たんなる工業製品ではない、自然からうみだされたもの。自然を超える美しさはないのではと考えています」
氷を素材にするというのは、単に水を凍らせたという単純な話ではない。
「ただの水ではなく、ガラスのようなクリスタルのような。普通に凍らせると白っぽくなるので、何度も失敗して、ゆっくりと凍らせて、イメージ通りにするまでだいぶかかりました。アートでもあるし、ものつくりでもあるのです」
前述のように、庭に設置された7脚の椅子は会期中、自然に溶けていくに任された。
「自然は人間の存在を超えるもの。作品が、気温やいろんなことで変化していくのがいい。個体差も出てくるでしょう。単なるスケッチやアイデアからは新しさは生まれてこない。プロジェクト中で、実験して、体験したもの。作品制作は挑戦することが大事で、そういう試行錯誤は、見る人にもつたわると思います」
自然を人間の上位に置き、行く末を任せるという発想は、“日本的”な感覚として納得できるものだが、これまでもミラノでインスタレーションを行ってきた吉岡氏はこう話す。
「私としては、作品で日本を表現しようとか、そのように考えたことはまったくありません。でも、自然をテーマに作っていると、日本人っぽいとはよく言われますね。ただ、自然とは、きれいなだけではなくて恐ろしいものでもある。台風とか、怖いけど好きなんです」
学生時代から、形のないものに関心を払ってきた。
「(形あるものをデザインする)デザイナーなのに、形のないものをデザインできないかとずっと考えていた。(そんなデザイナーは)たぶん、私だけだと思います」
ところで、会場の屋内では、グランドセイコーのスプリングドライブモデルが選り抜かれて展示されていた(展示ケースも含めた空間の監修は吉岡徳仁氏が行っている)。スプリングドライブはセイコーの独自技術で、ぜんまいを動力とした発電によりクオーツを駆動して制度を保ち、滑るように動く秒針が特徴的だ。さらに、文字盤の意匠には、白樺、御神渡り、樹氷 雪白、など、日本の四季をモチーフにした繊細な設え。一瞬たりとも流れを止めない時を表現するための秒針と文字盤は、ブランド哲学の『THE NATURE OF TIME』を余すところなく表現している。
「『Aqua Chair』制作の構想がまとまっていった過程で、グランドセイコーの表現と、僕の持っている自然というテーマがシンクロしていったんです。時計の企画担当者とは何も打ち合わせていないのに」
グランドセイコーと吉岡徳仁氏とのコラボレーション『TOKUJIN YOSHIOKA-Frozen』は期間中、連日5000人近くの観客を集め、「フォーリサローネアワード2025」の最終選考にも残るなど、反響は上々だった。
百花繚乱、デザインウイーク中のプレゼンテーションにあって、時間の流れを具象化して見せた両者の挑戦は、確実に来場者の“時”に刻み込まれたといえよう。
STAFF
Editor,Writer,Photos: Atuyuki Kamiyama
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