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週刊プレイボーイの元編集長であり、現在はエッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦が語る『お洒落極道』。第13回はバーに並ぶウイスキーと、宇宙空間でオメガによって助かった奇跡の生還劇にまつわるストーリーです。このふたつは「55年」という不思議な縁で繋がってしました。
サロン・ド・シマジはパワースポットであることを自認している。パワーを求めて悩めるお客様がバーに訪れることも珍しくない。
水は生命力そのものであり、それに材料を加えて濾過し熟成されたお酒には地球上の生命力が凝縮されている。だから体内に少しばかり取り込むと酩酊してしまう。サロン・ド・シマジでは年代物のウイスキーを多く取り揃えているが、年月を重ねたウイスキーのパワーは別格である。
バーを見渡せる神棚に1本のウイスキーが置かれている。サントリーの「山崎55年」だ。ちょうどバーをオープンさせるタイミングで販売の知らせを聞いて、オーセンティックバーとして銘酒を少しでも多く取り揃えたいと思って応募したのである。販売価格は300万円もする上に、山崎への魅力、思い入れを作文にしてサントリーに提出しなければならなかった。
22万通の応募の中で、シリアルナンバー1番を手に入れたのはわたしだった。250本が販売されたが、どこかの不届き物がオークションに出品して、8100万円で落札された。もしシリアルナンバー1のわたしのボトルが出品されたら、1億円は下らないだろう。
そんなわけで、わたしはいささか「55年」という数字に敏感なのである。
バーに来たお客様との雑談で、オメガがNASAの宇宙飛行士から贈られる「シルバー スヌーピー アワード」を受賞して、今年で「55」周年とふと耳にした。宇宙探査やアポロ13号の救出でオメガの「スピードマスター」が果たした貢献を称えるものであるが、その物語に非常に心を打たれた。
オメガのスピードマスターは世界初の月面着陸に立ち会った腕時計として、20世紀で誕生した時計の中でもっとも有名といっても過言ではない。時計愛好家から「ムーンウォッチ」の愛称で親しまれる名作中の名作だ。
オメガのスピードマスターと宇宙との関わりは、1960年代にアメリカ航空宇宙局(NASA)によるアポロ計画から始まる。過酷な宇宙環境に耐えうる信頼性の高い腕時計として、厳格なテキストを唯一クリアしたのがスピードマスターだったのである。1965年にはNASAの公式装備品に認定され、宇宙飛行士の腕にも装着されるようになった。そして1969年7月20日、バズ・オルドリンが人類初の月面着陸し降り立ち人類史上最初の一歩を刻んだとき、スピードマスターはふたりの宇宙飛行士の腕に巻かれていたのである。同時に降り立ったニール・アームストロングは、万が一の際、両方の時計が破損するのを防ぐために、着用していなかった。
輝かしい出来事だけではない。むしろ、絶望の淵といえる場面で輝きを放ったのがオメガのスピードマスターだった。それは1970年4月11日のこと。アメリカは3度目の月面着陸を目指し、アポロ13号を打ち上げた。順調に飛行を続け、月への到着あとわずかというところで宇宙船の機体に突然爆発が起こったのだ。そこは地球から32万km以上も離れた宇宙空間での出来事だった。
酸素タンクの爆発だった。酸素は宇宙空間でのクルーの呼吸だけでなく、電力を生成するための燃料電池にも使用されていた。もはや月面着陸どころではない。生存すら危ぶまれる危機的状況に陥ってしまったのである。電力不足や極寒の宇宙空間で、乗組員を支えた機器のひとつがオメガのスピードマスターであったのである。宇宙飛行士たちは月面着陸を諦め、月着陸船を救命ボートにして地球帰還を計画した。電力供給が制限される中、スピードマスターを用いて14秒間のエンジン噴射を正確に実行することで軌道修正を行い、地球へ無事に帰還できたのである。
これらの出来事をきっかけにオメガはNASAから「シルバー・スヌーピー・アワード」が授与された。スヌーピーとは、漫画「ピーナッツ」に登場するキャラクターである。作者のチャールズ・M・シュルツは、スヌーピーの使用を無償で許可し、アポロ計画に支援していたのだ。以来、スヌーピーはNASAの安全性と品質のシンボルとなったのである。
「スピードマスター“シルバー スヌーピー アワード”」は節目の年ごとにアニバーサリーモデルが登場しているが、今年は事件の起きた4月11日が過ぎても発表されないということは、55周年モデルは見送られたのかもしれない。しかし55年を経た今でも、32万km離れた宇宙空間で行われたスピードマスターが刻んだ奇跡の14秒間を思い浮かべるとドキドキする。
オメガのスピードマスターはこの出来事が広まり、多くの人に愛用されることで伝説の時計となった。1000年経てば、神話の時計になるかもしれない。そう考えると、「山崎55年」もまだまだ伝説のウイスキーだ。神話となるにはもう少し時間がかかりそうだ。
実は、わたしが100歳になる2041年、サロン・ド・シマジ21周年記念して、「山崎55年」を抜栓して、大盤振る舞いしようと思っている。そのときは前年に「スピードマスター“シルバー スヌーピー アワード”」の70周年モデルが登場しているはずだ。左腕にそのスピードマスターを着けて果てしなく広がる宇宙に思いを馳せながら100歳を祝いたい。
スピードマスター“シルバー スヌーピー アワード”はこれまで3種類が販売されている。こちらは2020年に50周年を記念した3代目のモデル。スピードマスター第4世代にインスピレーションを受けたシルバー製のステップダイヤルに3つのサブダイヤルを備えるデザイン。9時位置のサブダイヤルには、シルバー スヌーピー アワード受賞者に贈られるシルバー製のピンと同じポーズをした宇宙服を着たスヌーピーがエンボス加工で表現されている。手巻き。ステンレススティールケース。ケース径42mm。参考商品。
大学卒業後、集英社に入社。「週刊プレイボーイ」編集部に配属され、1982年には同誌の編集長に就任し、100万部の雑誌へと育て上げた。その後「PLAYBOY」「Bart」の編集長を務める。柴田錬三郎、今東光、開高健、瀬戸内寂聴、塩野七生をはじめとした錚々たる作家たちと仕事を重ねてきた。「お洒落極道」「お洒落極道 最終編」(小学館)など著書多数。現在は西麻布にあるサロン・ド・シマジにて、バーカウンターの前に立つ。
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