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連載「大人の読書タイム」第11回では、小説家・平野啓一郎が、チェコ人作家、アンナ・ツィマさんをゲストに迎えて対談。『シブヤで目覚めて』の創作秘話や日本の文学についてなどを、読者からの質問にも答えながら語り合います。
*第10回、自分の分身が大好きな世界を自由に彷徨う!ワクワクが止まらない!『シブヤで目覚めて』の記事を見逃してしまった方や、もう一度ご覧になりたい方はこちらから
対談者:アンナ・ツィマ
小説家・翻訳家。1991年、チェコの首都プラハに生まれる。2018年に長編小説『シブヤで目覚めて』でデビューし、マグネジア・リテラ新人賞などを受賞。同作が複数の外国語に翻訳され、2021年に河出書房新社より和訳(阿部賢一・須藤輝彦共訳)が刊行される。2022年9月に第二作となる『うなぎの思い出』がチェコで刊行予定。訳書に高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』(イゴール・ツィマ共訳、2021年)、島田荘司『占星術殺人事件』(イゴール・ツィマ共訳、2021年) などある。現在、東京在住。
著者であるアンナさんが、自らチェコ語で朗読。
平野啓一郎(以下、平野):デビュー作『シブヤで目覚めて』がチェコ最大の文学賞、マグネジア・リテア新人賞など数々の賞を受賞されましたね。
アンナ・ツィマ(以下、ツィマ):私の父が脚本家で、書いている姿をずっと見てきたので、小さい頃からものを書くということに憧れがずっとありました。父から「短編からまず書くといい」とアドバイスをもらって、いくつか短編を書きましたが、どうしても長編を書きたくて、大学在学中の日記を元にこの作品を書き、出版社に送りました。
平野:日本語の学習のプロセスがすごくリアルでしたが、経験が反映されているんですね。デビューのお話も興味深いですね。アンナさんと同じく僕も原稿を出版社に送りました。日本では新人賞に送るのが一般的ですが、チェコもそうですか?
ツィマ:チェコでは文芸雑誌の新人賞という手段がなくて、小説を書いたら、直接出版社に送ります。日本のようにたくさんの文芸誌はなく、発表の場が限られています。日本は文学が受け入れられるキャパシティが大きいと思います。
平野:ちなみに、チェコで日本文学の翻訳が出るようになったのはいつぐらいですか?
ツィマ:社会主義時代には、日本の推理小説や純文学が翻訳されており、中でも政治的にふさわしいプロレタリア文学が翻訳されることが多かったです。大江健三郎や三島由紀夫の代表的な作品が無いこともありました。谷崎潤一郎の作品はロシア人の描写など思想的なものが検閲されて削除されています。現在、出版社によっては、修正版を出しているところもあれば、そのままの版もあります。最近は川上未映子など日本の女性作家の翻訳が多いですね。
平野:内容の話に入りたいのですが、物語は渋谷とプラハを行き来し、主人公と、その〈想い〉が分裂します。現代の渋谷と大正時代の東京という時間の距離もあり、生と死の両方を行き来し、異なる世界がいくつも存在している複雑な話ですね。これは事前に構想していたのか、それとも書きながら付け加えていったのでしょうか。
ツィマ:初めに書いたものは、大学での日本語学習のことを中心に書いた作品でした。それを出版社の人に見せたところ、「もっと日本のことを書いてはどうか」言われて、自分が数年前に1か月間いた日本での体験を思い出して、ヤナが迷子になること、〈想い〉が分裂し、渋谷に〈想い〉という分身が残ることを書きました。その後、チェコの評論家の方から「ヤナが訳している作家も気になる」と言われ、「川下清丸」の作品を詳しく書いていきました。私はどんどん書き換えていくタイプなので、第1バージョンはほとんど存在しなくなり、最終的には20バージョンぐらいになりました。
平野:じゃあ最初に送ったものとは長さも違いますか?
ツィマ:はい、3倍くらいになりました。
平野:恋愛が一つのテーマになっていますが、恋愛の要素は最初からありました?
ツィマ:ありました。
平野:ヤナとクリーマが1回プラハで別れてから、日本でヤナの<想い>に会うという設定は?
ツィマ:はい。それは運命ですね。何かとつながらないといけない。最初から考えていました。
平野:最終的にはすごく複雑な物語になりましたが、お父さんのご感想はいかがでしたか?
ツィマ:父が最後のバージョンを読んだときに、川下清丸の原稿使用料のことを心配していました。実在の人物だと思ったようです(笑)
平野:チェコの読者でも本当にいる作家だと思った人が結構いたそうですね。「文学の森」の読者にも。
STAFF
Photo: Manabu Mizuta
Movie: Cork
Text: Junko Tamura
Editor: Yukiko Nagase,Kyoko Seko
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