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船から、飛行船を経て、航空機へ。旅のかたちは当初テクノロジーの進歩とともに変化した。しかし、乗客の目線で見ると、それはいつもいかに快適に、より優雅に旅を楽しめるかという試みの連続だった。その歩みから、現代の優雅=プライベートジェットを考える。
「旅客機の旅」が確立されたのは、1930年代。それまで空の旅の主役は飛行船だったが、1937年のヒンデンブルク号爆発事故以来、安全性の面でも航空機が優位な移動手段となったのだった。そして1930年代後期には旅客機による大西洋横断定期便が実現した。当時の空の旅は、上流階級・富裕層の社交空間ともいえるもので、その優雅さにおいては、今日のファーストクラス以上であった。ある路線では機内にラウンジやダイニングルーム、さらには寝室も備えられ、食事などは機内で調理したものが提供された。大戦後飛躍的に航空機の性能や仕様が変化してからも、しばらくはこのイメージが残り、それはハリウッドスターらによって体現されていた。
1935年初飛行の、米ダグラス社の双発機「DC-3」。アメリカ大陸横断用の高速機として設計された。第二次大戦中は軍用として、大戦後も長く使われた。
左はそのヘプバーンと『パリの恋人』で共演したフレッド・アステア、右はペットの犬とともに航空機に乗り込むオードリー・ヘプバーン。
1930年代後半、「クリッパー」として多くの飛行艇がアメリカから世界各地へと飛んだ。滑走路がまだ整備されていない時代の長距離移動の航空機として、飛行艇が主流だった。機内にはダイニングルームなども設えられ、それは空飛ぶ社交空間だった。
航空機がプロペラ機からターボプロップ機、ジェット機へと変化し、多くの人数を高速で遠方まで移動させることが可能になると、空の旅はより開かれたものになった。その一方で公共交通機関の性格が色濃くなり、座席のクラス分けなどはあるものの、かつてのような優雅な旅という雰囲気は減退した。また小型機の分野では、1950年代以降アメリカを中心に自家用車や商用車のように航空機を所有する傾向も増え、プロペラ単発機『セスナ』のようなヒットも生まれた。さらにその小型機でもジェット化が進み、企業や個人が所有し利用するようになると、空港の受け入れなども進んでいった。大型旅客機での移動に比べタイムスケジュールの自由度やプライバシーへの配慮が可能ということから、経営者や企業幹部、または映画スター、ミュージシャンなどにプライベートジェットの利用者が増えていった。
映画『アウトランド』の上映にあわせ、カンヌ映画祭に向かうショーン・コネリー。1980年代はセレブリティの移動手段として、プライベートジェットが普及した。
左はロッキード「ジェットスター」、右は民生用として開発の「リアジェット23」。
エアラインを狙ったテロや、SNS等の広がりで著名人や富裕層がプライバシーを保護する難しさを感じていることなどから、プライベートジェットへのニーズは上がっていた。ただその一方で浪費というイメージでリーマンショック以降批判を浴びたり、環境負荷への懸念などから、プライベートで航空機を所有することに関しては、ややトーンダウン気味のようにも見えていた。ところが新型コロナウイルス流行の時期には、実際にはビジネスジェットの需要は上がっていたという統計もあり、不安定化する情勢に対して、有効な移動方法として捉えられている面もある。さらに近年では機体を所有することから、「フラクショナル・オーナーシップ(フラクショナル・プログラム)」、所有権を分割しての共同所有や、チャーター(レンタル)といった形が増えていて、そうしたサービスを提供する企業も登場している。出入国時の手続きや手荷物制限など、何かと面倒な通常の旅客機での旅とは一線を画す、スマートな、現代の優雅な旅を実現する方策として、プライベートジェットはさらに広がりを見せるに違いない。
自身の結婚式でロードアイランドにプライベートジェットで到着したジェニファー・ローレンス。カジュアルで上品な装い。
飛行機操縦が趣味のひとつであるトム・クルーズ。フレンドリーに 空港スタッフと握手。
STAFF
Photos: Getty Images,Aflo
Writer: Yukihiro Sugawara
Illustrator: Hiromi Fujita
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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