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ハイファイスピーカーの名門であるKEF(ケーイーエフ)の、60年にわたるスピーカー開発で蓄積した技術とクラフツマンの情熱を結集して創り上げたのが、いつでもどこでも気軽にハイファイサウンドをリスニングできるノイズキャンセリング・ワイヤレス・イヤホン『Mu3』だ。本機を長期間使用したインプレッションをもとに、オーディオファンを引き付ける『Mu3』の魅力を解いていこう。
2021年に60周年を迎えたKEFは、1961年、英国ケント州メイドストーンに創業されたラグジュアリーなオーディオ機器メーカーである。放送局やレコーディングのモニタースピーカーをグローバルで手掛け、原音を忠実に再現するハイファイ技術は数々のホームオーディオにもいかされてきた。ピュアなサウンドはKEFの代名詞で、オーディオ愛好家や音楽通にとってKEFはいつの時代も憧憬のブランドであり、「リファレンス・シリーズ」やブックシェルフ型の「LS50」といった歴代のアイコンを愛用している人も多いだろう。さらに、最先端のリスニング環境に最適化されたスタンダードの開発力も卓越し、デジタルなハイファイサウンドに陶酔できるワイヤレススピーカーのラインナップも充実をみせる。こうした背景を知っていると、今度は一体どんな音で驚かせてくれるか、KEFが創ったノイズキャンセリング機能を搭載する完全ワイヤレスイヤホン『Mu3』への期待度は否が応でも高まっていく。
『Mu3』の視聴に際して最初のとまどいは、音質をカスタマイズできるイコライザーアプリが用意されていないことだ。ふだんから各音域の調整に慣れてしまっているとどこか物足りなさを覚える。しかし、10数時間のエイジングを終えたあと、このとまどいは杞憂と化した。8.2mmのフルレンジ・ダイナミック・ドライバーから出力される音は一切の淀みがない。低音域は正確に音のディテールを描き、豊かな中音域は音枯れがなく、高音域ではKEFの持ち味である、クリアで抜けのいいサウンドが心地いいほど耳に広がっていく。エンジニアリングチームによって、それぞれの音域がバランスよくチューニングしているため、そもそも『Mu3』には補正の概念は不要であり、ジャンルレスで最高の音楽体験を実現する。
楽器の音は精緻で目の前で演奏されているような聴き応えがあり、特にヴォーカルは明瞭であるだけではなく、奥行きのある分、何より華がある。今回はさまざまな分野の音源を用意し、音楽データもハイレゾからストリーミングの圧縮音源まで一通り試聴したが、耳に馴染んだ楽曲も、今まで聞き取れなかった音が鮮明化され新鮮な驚きとなる。こうした原音再現の正確さはもとより、優れた定位性によって、オーケストラやバンドの演奏者のポジションが思い描けるため、コンサートホールにいるような空気感までが伝わり、どのシーンで聴いても上質な臨場感を体験できた。
高音質はその巧みな設計によってもたらされる。曲線美をいかした『Mu3』のデザインは、彫刻のような形状と最高の音響を一つにしたKEFのハイファイスピーカー「MUON」と同じロス・ラブグローブ氏が担当する。イヤーチップはラージからショートまで4種類の異なるサイズが同梱され、耳にフィットするタイプを選ぶことができる。イヤーチップはノイズ・アイソレーション効果も備えているので、耳に適したタイプを着実に固定することでKEF独特のピュアなサウンドがリスニングできるだけではなく、周囲の雑音も抑えてくれる。装着したままで日常を過ごしてみたが、フィット感は常時良好で、耳から抜け落ちることはない。重さは5.8 g(片側)で、IPX5 防滴に対応しているため、天候を気にせず屋外でのランニングでも安心して使えそうだ。
機能面では、左右のロゴマークの部分に、音楽再生/停止、ボリューム調整、通話を操作可能な物理ボタンを配置。左側のボタンを押すと、アクティブ・ノイズキャンセリングのオン・オフ、試聴中に外部の音を取り込めるアンビエント・モードへと切り替わる。アクティブ・ノイズキャンセリングはさほど強くはないが、オンにすると乗り物の騒音や家電の動作音は低減された。
今回KEFの『Mu3』を使用してわかったのが音質までブラッシュアップされたノイズキャンセリング・ワイヤレス・イヤホンは極めて少ないことだ。ピュアな音に接することで音楽の楽しさを改めて知ることになるだろう。そして何より耳に負担が少なく、長時間リスニングをしても聴き疲れしない点も大きなアドバンテージである。
STAFF
Writer: Masahiro Ando
Edit: Atsuyuki Kamiyama
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