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ワールド・ツアー中のオアシスにとって、ロンドン郊外のネブワースは特別な場所。1996年のネブワース公演は、2日間で25万人を集め、大観衆は熱狂し、うねりながらシンガロングするという全盛期の象徴的なライブとなった。解散後、26年ぶりにリアム・ギャラガーが同地に戻ったライブは、当時を知る世代だけでなく小さな子供達まで貴重な瞬間を共有し、多幸感に溢れている。そのコンサート映画と同時に公開されるリアムのドキュメンタリーで語られる“護るもの、変わらないもの、そして変わったもの”。これらからオアシスが再結成へと進んでいく道筋が見えてくるかもしれない。
2024年8月に正式に再結成を発表し、現在ワールド・ツアー中のオアシス。アメリカ・ツアーも大絶賛のうちに終了し、来日公演を前にして、日本でも彼らが愛用したウェアやシューズをはじめコラボ商品が溢れるなど、盛り上がりを見せている。日本公演まで1か月ほどとなった今、貴重なコンサート映像2本とドキュメンタリー作品が1本公開される。『オアシス|ネブワース1996:DAY2 Sunday 11th August』(2021)は9月12日より全国順次公開され、『リアム・ギャラガー:ライブ・アット・ネブワース 2022』(2025)とドキュメンタリー『リアム・ギャラガー in ロックフィールド オアシス復活の序章』は10月17日公開となる。
『オアシス|ネブワース1996:DAY2 Sunday 11th August』はバンドがクリエーション・レコーズと契約して3年ほどで一気にスターダムを駆け上った、その全盛期を象徴するコンサート映像だ。ロンドン郊外のネブワースに2日間で25万人を集めた野外コンサートで、その規模はもちろんのこと、大観衆が熱唱する名曲のオンパレードで、まさに伝説のコンサートとして知られている。これを映像の鮮明さ、音の臨場感もクオリティ高い4Kデジタルリマスターで体感できるのだ。
この映画をより楽しみたい方で、まだ『オアシス:スーパーソニック』(2016年)を観ていない方には、配信で観られるので、先にチェックすることをオススメしたい。ノエルとリアムというバンドの中心となるギャラガー兄弟の発言や、バンドメンバーや関係者の証言を挟みながらその軌跡を追ったドキュメンタリー映画で、解散後にも兄弟に別々にインタビューを行い、新たな視点からの発言を加えた興味深いもの。そして映画のハイライトシーンにこのネブワース公演を持ってきているため、コンサートへの高揚感を高めることができるのだ。
オアシスは1991年に結成され、1994年4月にシングル「スーパーソニック」でデビュー。デビューアルバム『Definitely Maybe』(同年8月発表)のツアーの最終日の95年4月22日には初のアリーナ公演としてシェフィールド・アリーナに12000人を集客。2ndアルバム『(What’s the Story) Morning Glory?』(95年10月)発売後は、翌96年4月27、28日に彼らが大ファンであるマンチェスター・シティFCの本拠地であるメイン・ロード・フットボールスタジアムでコンサートを開催。同年8月には、スコットランドのバロック・カントリー・パークに2日間で8万人を集客。そしてその一週間後のネブワース公演には2日間で25万人を集客し、この時は250万人が応募して瞬時に完売、それまでのあらゆる興行記録を更新した。まさに飛ぶ鳥を落とすモンスター・バンドである。
時代を超えて残り続けるであろうノエルが書く楽曲の良さや、ロックスターの輝きを生まれもったリアムのパフォーマンスは言わずもがな。そして昨今のようにSNSで情報を拡散することなく、またYouTubeやサブスクで音楽を感じるのではなく、実像と楽曲、生演奏で存在感や音楽の魅力を示していた時代に、アイルランド系の労働階級出身で、父親から虐待を受け、シングルマザーに育てられながら、世界的成功を収めた兄弟バンドというストーリーが、彼らをさらにカリスマ的存在にしていった。兄弟の絆もバンドを魅力的に見せていたが、その一方でメンバーチェンジの多さや兄弟喧嘩の激しさが最終的にバンドを解散へと導き、2009年8月に活動に終止符を打つことになる。
『オアシス|ネブワース1996:DAY2 Sunday 11th August』の見どころはとにかく多い。当時はマンチェスター・シティFCのライバルであるマンチェスター・ユナイテッドFCが名将アレックス・ファガーソン監督を迎えて圧勝していた時期とあり、コンサート中、2人がやたら悪態をついていること。またリアムは公演が2日間あることを忘れていて、他に着るものがなく持ち合わせていた白いフィッシャーマンズセーターを着たというが、それもサマになっていること。ビートルズやジョン・レノンなどへのリスペクトも、カブトムシについての発言や映像から感じられるし、ちょっとした仕草や笑いから至福の時間を楽しんでいることが伺える。
小さなライヴハウスであろうとスタジアム級のステージであろうと、演奏スタイルは変わらず、ステージセットを過度に装飾にすることもしない。オアシスといえばアディダスがすぐに浮かぶこともあり、ここでは弦楽四重奏の女性4人が加わり、アディダスのスポーツウェアを着こなしてることも目を惹く。
筆者はこのコンサートの前年の11月4、5日に開催されたアールズコートでのライヴを観に行ったが、その時点で会場の床が揺れるほど観客の熱唱、熱狂ぶりはすでに物凄かった。そのため、上空からネブワースを捉えた映像は、とにかく圧巻である。まさに「This is HISTORY」なのだ。
『リアム・ギャラガー:ライブ・アット・ネブワース 2022』は、コロナ禍を経てコンサートが解禁された時期とあって、観客がオシャレを楽しみつつ、心から幸せそうに楽しんでいることが伝わってくる。2日間で17万人を熱狂させ、しかも全16曲中10曲がオアシス時代の楽曲で構成している内容で、大スクリーンと5.1chサラウンド音響という没入しやすい環境で体感すると、つい一緒に歌いたくなってしまうほどだ。
そして、このコンサート映像を観る前には、『リアム・ギャラガー in ロックフィールド オアシス復活の序章』(2022)を観ることをオススメしたい。こちらはアルバム『C’Mon You Know』制作のため向かった、思い出深いロックフィールド・スタジオでの様子を捉えたドキュメンタリー。楽曲のパフォーマンスに加え、リアムがこれまでのキャリアについて語り、2人の息子レノンとジーンと過ごす父親としての姿も見ることができる。なおネブワースの映像では、ジーンがゲスト・ドラマーとして「The River」に参加している。
この次男のジーンは2001年生まれで、母親は元オール・セインツのニコール・アップルトン。3ピースバンド、ヴィネラルのボーカル兼ギターとして、この9月10日にデビュー・シングル「Hinge」を発表したばかりだ。2024年6月からリアムが行ったオアシスのデビューアルバム『Definitely Maybe』30周年を記念したツアーのオープニング・アクトを務めたことも話題となった。なお、このツアーにリアムはノエルを誘ったものの、断られたといい、一方でオアシスのオリジナルメンバーのギタリスト、ポール・“ボーンヘッド”・アーサーは参加している。
長男レノンは1999年生まれで、名前の由来は当然ながらジョン・レノン。最初の妻パッツィ・ケンジットとの間に誕生した。オートモーションのボーカル兼ギターとして、2021年6月にデビューし、モデルとしても活躍している。このネブワースの映画にも恋人のモデル、イゾベル・リッチモンドと一緒に来ていて、家族や近しい人たちと楽しんでいる様子が映っている。
『リアム・ギャラガー:ライブ・アット・ネブワース 2022』に話題を戻すと、ギャラガー3兄弟の長男であるポールが、この公演にDJとして参加。リアムが敬愛するギタリスト、ジョン・スクワイア(元ストーン・ローゼズ、元ザ・シーホーセズ)を今回も招いていることも、リアムの人柄を感じさせる。そしてこの2本のコンサート映像を観ていても、ギャラガー兄弟が母親ペギーのことは心から大切にしていることがわかる。
最後にリアムは次のような言葉を残している。
「喜びも涙も幸せも全部が詰まっていた……(中略)。パンデミックを乗り越えて大切なのは人との絆だ。今回はみんなが集まって心がひとつになれた。またあの場所で特別な時間を過ごせたんだ。主役はファンで、俺は盛り上げ役さ。分かり合えるのはみんな同じだから、最高だよな」
晴れ晴れとした多幸感に溢れる映像は、来日公演への期待を止めどなく膨らませてくれる。
まだオアシスに詳しくない方でも、ぜひこの機会に伝説的バンドの彼らが見せる人柄や楽曲の魅力に触れてほしい。
TOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー
制作年:2021年 制作国:イギリス 上映時間:約113分
*上映素材:デジタルリマスター 4K DCP /5.1ch サウンド (上映スクリーンによって2Kになる場合あり)
配給:カルチャヴィル 協力:ソニー・ミュージックレーベルズ
© Big Brother Recordings Ltd
HP:https://www.culture-ville.jp/oasisknebworth0811
2025年10月17日(金)よりkino cinema新宿ほか、全国ロードショー
制作年:2022年 制作国イギリス 上映時間:48分
配給:NEGA
© Sky UK Limited 2022
HP:https://liamgallagher.negadesignworks.com/
2025年10月17日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー
制作年:2025年 制作国:イギリス 上映時間:80分
配給:WOWOW
HP:https://www.wowow.co.jp/film/liam-gallagher/
音楽ジャーナリスト
伊藤なつみ
デヴィッド・ボウイ、坂本龍一からマドンナ、ビョーク、宇多田ヒカル、ロバート・グラスパーなど、取材アーティスト数は数え切れないほど。『ユリイカ』2023年5月号に掲載の論考「ヒップホップ・フェミニズムの変遷」など、現在は黒人女性のエンパワーメントについても研究中。
STAFF
Music Journalist: Natsumi Itoh
Edit&Composition: Kyoko Seko
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