今残すべき映像へと駆り立てられた『生きがい IKIGAI』から新たな舞台へ【後編】

演出家、脚本家、俳優
宮本亞門

被災地・能登の人々の言葉を紡ぎ、復興への想いを込めた『生きがい IKIGAI』で、30年ぶりに映画監督を果たした宮本亜門インタビュー後編。人の心にある大切なものを伝え続ける宮本が自身の晩年の生き方について感じることとは。

LIFESTYLE Jul 28,2025
今残すべき映像へと駆り立てられた『生きがい IKIGAI』から新たな舞台へ【後編】

宮本亞門が30年ぶりに映画監督に。被災地・能登の人々の言葉を紡いだ『生きがい IKIGAI』で伝えたかったこと【前編】はこちらから

石川県能登の被災現場で、崩壊した家から救出された男は避難所生活になじめず、崩れたままの自宅に一人、舞い戻る。「黒鬼」と呼ばれ、誰のことも寄せ付けず、片づけの手伝いに訪れた被災地ボランティアすら追い返してしまう。鹿賀丈史演じる孤独な男が生きがいのかけらを取り戻す様子を描いたショートフィルム『生きがい IKIGAI』。被災地ボランティアで能登を訪れた 宮本亞門が地元の人々の言葉を紡ぎ、復興の想いを募らせて、企画・監督・脚本を務めた。能登の人々の思いを伝えたい。30年ぶりに映画監督を果たした宮本が感じた使命感とは。作品は能登半島で生きる人々の姿を収めた、手塚旬子によるドキュメンタリー『能登の声 The Voice of NOTO』を併映し、収益の一部は北陸能登の被災地の復興支援に充てられる。

過去の視線では新しいものは生まれないし、自分自身も枯渇していく

『生きがい IKIGAI』の画像
フィクション『生きがい IKIGAI』とノンフィクション『能登の声 The Voice of NOTO』を同時に体感することで、本当の能登の今を伝えたい。

─映画の監督は『BEAT』以来、30年ぶりだそうですね。

「コロナ禍、映画の力を再認識しました。あの時、すべての劇場がストップして、舞台の脆さを突きつけられました。僕にとって、手段は関係ありません。いつだって、いろんな人にいろんなことを伝えていきたい。そう思ってやってきました。長い間、映画に携わってこなかったことに関して、残念な思いがあったのも事実です。30年もやっていないと、あまりに映画に関して素人なので、ご迷惑をかけるのではという恐怖感もあり、正直、封印していたんです」

─今回の監督業でまた再開したい思いは高まりましたか。

「楽しそうですよね。今回はあまりにも突貫工事で、皆さんにご迷惑をかけたと思いますが、やっぱり、映画ってすごい力を持っていると思います。もっと勉強して、大変だと思いますが、これから先、ミュージカル映画を作ってみたいですね」

─常に若々しく、いつもさまざまなことにチャレンジしている印象があります。どうやったら、そういられますか。

「おかげさまで、ドキドキと時々のハラハラがあることが自分を活気づけているように思います。誰でもだと思いますが、年齢を重ねれば重ねるほど、チャレンジしなくなりますよね。どうしてもこれまで生きてきた、過去に得た経験の物差しで物事を見てしまいます。僕もやっぱり、そうなんです。『こういう時はこうだよな』ってふと思った時、『ダメダメ』って自分に言い聞かせています。過去の視線では新しいものは生まれないし、自分自身も枯渇していきます。だから、アンテナだけは常に磨いていようと心がけています。いつも新鮮に驚けたり、『それ、いいね!』って認められるようでいたいなと思っていますね」

『生きがい IKIGAI』製作中の画像
被災地に長くいるのもよくないと5日間という短い撮影期間からショートフィルムという形に。

何か少しでも人の心に触れる瞬間があるならば、恐れずにやっていく

─この作品もそうですが、周りを巻き込んでのバイタリティーがすごいです。

「自分ががんサバイバーになったことも関係があるかもしれません。あの時、いつ死ぬかわからないっていう気持ちが自分の奥底に一段と入り込んだんです。その後、コロナになって、客船がやって来た時にはもう、みんなが扉を次々とパタンパタンと閉めていくような感じがしましたよね。僕にはせっかく死よりも生きていることに焦点を当てようと思った矢先のことでした。経験した自分にならできることがあるかもしれないと『上を向いて~SING FOR HOPE プロジェクト』を立ち上げました。あれも4人で2週間で作ったんです。出会ったことのない人たちがYouTubeの中で送ってくれた映像を重ね合わせて、繋がっていった。人って人のことをこんなにも思えるんだって、感動して、号泣してしまいました。何か少しでも人の心に触れる瞬間があるならば、恐れずにやっていくこと。それがもしかしたら僕の晩年の生き方なのかもしれないなとちょっと思っています」

─大病をされたのが信じられないくらい、活躍されています。伝えたいことがあること、伝えられる立場にあると言うことがきっと宮本さんにとっての「生きがい」なのでしょうね。

「8月には戦後80年の節目に合わせた舞台『生きているから~対馬丸ものがたり~』が上演されます。沖縄のことも子どもたちに少しでも、“僕たちはこう思っているよ”っていう気持ちを知って欲しくて。子どもたちと国仲涼子さんにも出ていただいて、舞台を作ろうとしている最中です。自分にもまだ役目がある、いや無理やり自分で作っているのかもしれないんですけど(笑)。やっていると、まだまだって活力が湧いてくるんです」

『生きがい IKIGAI』の画像
「生きていてもしょうがない」という被災者の言葉に触れ、能登で生きる人々に寄り添えることを願い、誕生した作品。

『生きがい IKIGAI』

脚本・監督・企画:宮本亞門
出演:鹿賀丈史、常盤貴子、小林虎之介、津田寛治、根岸季衣
上映時間:28分
併映:ドキュメンタリー

『能登の声 The voice of NOTO』

監督・編集:⼿塚旬⼦
上映時間:38分
6月20日(金)石川県先行公開
7月11日(金)シネスイッチ銀座 他順次公開

PROFILE
演出家、脚本家、俳優
宮本亞門

宮本亞門/みやもとあもん 1958年1月4日東京・銀座生まれ。2004年に東洋人初のブロードウェイ演出家として「太平洋序曲」をオン・ブロードウェイで上演し、トニー賞4部門にノミネート。2023年NHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」でテレビドラマ初出演。2024年には高田賢三が衣装を担当したプッチーニのオペラ「蝶々夫人」の日本凱旋公演を行った。企画・演出・脚本を手がけた舞台「生きているから~対馬丸ものがたり~」が8月16日、那覇市の那覇文化芸術劇場なはーとで上演。演出を務めた舞台「新 画狂人北斎 -2025-」は10月17日から東京・紀伊國屋ホール。


MOVIE WRITER
髙山亜紀

フリーライター。現在は、ELLE digital、花人日和、JBPPRESSにて映画レビュー、映画コラムを連載中。単館からシネコン系まで幅広いジャンルの映画、日本、アジアのドラマをカバー。別名「日本橋の母」。

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