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「欲しいクルマは?」という問いかけに対して、今もって「メルセデスのゲレンデ」という回答が、多くあるほどの人気を誇るのが「メルセデス・ベンツGクラス」。そのルーツはドイツ語で「全地形車両」とか「オフローダー」を意味する「ゲレンデヴァーゲン」と名付けられた軍用車両。それ故に日本では「ゲレンデ」などと呼称する人が多いのだが、その車両に民間用のアレンジを加え、1979年にデビューしたのがGクラスだ。もちろん「G」とはゲレンデヴァーゲンの頭文字から採用したモデル名だ。そのGクラスもデビューからすでに46年迎え、2018年に登場したのが現行の3代目。そして昨年、それ以来初めてとなるマイナーチェンジを施されたのが最新モデルだ。それでも従来モデルからの進化は大きく、魅力を増した。さらに今回はGクラス初のBEV(バッテリーEV)モデル「G 580 with EQ Technology」も追加。時代に合わせたメカニカルな進化を遂げながらも「唯一無二の基本デザイン」に変化はなし。孤高の存在としての凜とした佇まいは相変わらず人々を惹き付けている。
車や時計、そしてファッションなどに造詣の深い友人が右手首に時計を巻いて、約束の場に現れた。すでにこの時点でレースや映画に詳しい人なら「あ、モナコだな」とピンと来るだろう。友人は「いつ聞いてくるかな?」と、こちらの様子を覗っている。だがこちらも、敢えてちょっとだけ放置したのだが、無関心なフリは2分と保たなかった。
「え、買ったの?」と水を向けると、彼は嬉しそうに「やっと見つけたんだよ」と、1969年に世界初の自動巻ムーブメントを搭載したスクエア型防水時計として登場した「ホイヤー・モナコ」の話しを始めた。
もちろんこちらもホイヤーがモータースポーツとは切っても切れない関係にあり、スポーツクロノグラフの先駆者であることも承知。さらに1971年に公開された映画「栄光のル・マン」の中で俳優のスティーブ・マックィーンが着用したことで四角い「モナコ」の知名度は大幅に上がった。マックィーンは劇中、左ハンドルのレーシング・ポルシェをドライブする時には「左手でハンドルを握り続け、右手でシフト・チェンジをする」ことを考えると「右手に時計をするほうが視認性は良い」と考え、ホイヤー・モナコを選んだという。このエピソードを知っていると、こだわるならリューズの位置は「ボディ左」になければいけないし、TAGグループになる前の映画という時代性を考えるとブランド・ロゴは「HEUER」でなければならない。その条件に合ったモナコを見つけた友人は、まさに衝動買いをしてしまったという。当然ながら、スクエアボディを愛おしそうに見つめる彼の気持ちは十分に理解できた。
そんなとき、ふと思い出したことがあった。栄光のル・マンを初めて見たとき、モナコの「四角いボディ」に独特のエレガンスを感じたのだ。本来ならばスクエアボディは「力強さ」とか「ワイルド感」などといった表現が使われ、角のない丸いボディこそ、エレガンスなのかもしれない。ところが、その時はモナコの存在感の大きさに力強さだけでなく、独特のエレガンスを感じたのだ。
同時に時計の場合、丸いボディであれば裏蓋をねじ込むことで防水性を上げることができる。ところがねじ込むことのできないスクエアボディは、より高い技術力を駆使しながら裏蓋をはめ込むことで防水性を確保しなければいけない。その巧みが独特のエレガンスを醸し出す一因だったのかもしれない。唯一無二の存在感とエレガンス、さらに力強さがあるからこそホイヤー・モナコは今も多くに人を惹き付けている。
そのモナコの魅力に通じる味わいを持つのが「メルセデス・ベンツGクラス」だろう。変わることのないスクエアなボディデザインと、その中に息づく最先端の技術。力強さとエレガンスの絶妙なる融合は、いつの時代も人々を惹き付けている。そのGクラスも3世代目を迎え、今回はマイナーチェンジを施した最新モデルに乗り込んだ。
GクラスのベースモデルはNATO(北大西洋条約機構)の軍用車両としても長年使用されていた。そのため、世界のどこでもボディパーツを安定供給するために大幅なモデルチェンジはやりづからかった。そんな縛りがあったため、結果としてGクラスも形を変えることなく、長年使用されることになった。実はこれが幸いした。本来ならばプレミアムSUVの頂点をGクラスから新型GLEやGLSへと移行したかった。ところが、いざ、そうした動きを見せても、世界中で広く認知されたGクラスの人気は不変であり、しっかりとしたマーケットを維持していた。
当然ながら「売れているものを敢えてなくすことはない」となり、現在に至っている。そして軍用から解放され、2018年にはフルモデルチェンジ並に大幅なる改良が施され、3代目へと生まれ変わっていた。空力特性や静粛性の向上させたエクステリアだったがスクエアボディという基本的なフォルムに変化はなかった。インテリアには上質感を向上させた素材をふんだんに使い、加えて対話型インフォテインメントシステム“MBUX”(NTG7.0)によるデジタル化などもメルセデスのスタンダードとして行われていた。エレガンスという言葉が、よりふさわしい佇まいになり、人々の憧れはさらに醸成された。
そして昨年、2018年のモデルチェンジ以来、初のマイナーチェンジを受けて登場した最新のGクラス。一見、外観には大きな変化はないようだが、実は旧モデルからの流用部品はわずか4個といわれているほどの変貌を遂げている。空気抵抗まで向上させるほどの変化を気付かれないように、ほとんど変わっていないように見せるという、なんともややこしく不思議にして技のいる変更が施されている。
今回の最新モデルの目玉といえば、エンジンモデル2車というラインナップに加わった電動SUV「G580 with EQテクノロジー」。4輪それぞれに個別のモーターを備え、制御も4つのタイヤを別々に動かすという4WDである。4輪を木目細かに制御しながら、モーターの圧倒的なトルクと極上の回転を利しての走行性は実に快適。オフロードの卓越した走破性はもちろんのこと、オンロードの快適な走りはGクラスに新たな走りの世界を見せてくれる。中でも例えば左側の2輪と右側の2輪を逆に回転させることで、ボディの中心を軸にフィギュアスケートのスピンのように、その場で回転できる「Gターン」という荒技は別格。狭い場所での方向転換やオフロードの行き止まりなどで、方向転換して抜け出すときに有効だという。そのテクノロジーにはモーターならではの可能性を感じたと同時にデジタルウオッチの、まさしく「Gショック」に似たような感覚を抱いた。一方で内燃機関が持つバイブレーションや荒々しさ、アクセル操作に対するリニア感が忘れられない心情があった。
そんな感覚の違いを確かめるため、最新型Gクラスの最高性能モデル「メルセデスAMG G63ローンチエディション(以下、G63)」で走り出してみた。
G63は4LのV型8気筒ツインターボエンジンをマイルドハイブリッド化したパワーユニットを搭載。その最高出力は585馬力とAMGらしくハイパフォーマンスであり、2570kgという超ヘビー級ボディをレスポンス良く操ることができる。もちろんBEVモデルのG580の3120kgに比べれば、軽量ではあるが、サスペンションのセッティングの妙味というか、予想以上に力強さと反応のいい走りを披露してくれる。
加速感も乗り心地も、どこか力任せで、古くさい感覚があるものの、その程よく調和した走りではあるが、それはそれでGクラスというキャラクターを表現するには、ふさわしい味わいがあると感じたのである。ひょっとするとGクラスを求める人の多くは、むしろこの味を求めているのではないか……。
そんな気分を味わいながら澄み切った空の下、郊外のルートをゆったりと駆け抜ける。銀座界隈のブランドショップを横目にユルユルと路地を走るのも、もちろん悪くない。一方で個人的にはハイウエーやワインディングを走ることこそ、AMGを解き放つにはふさわしいシーンであると思いつつ時間が過ぎていく。V8エンジンの燃費は6.7km/lと覚悟していた割には良好である。仮にエミッションやロングドライブでの給油回数を気にするのであれば3Lの直列6気筒ディーゼルターボエンジンを搭載した「G450dローンチエディション(以下、G450d)」がある。アウトドア派にはこちらの選択枝がいいと思う。
AMGがディーゼルか、あるいはBEVか、今度のGクラスはおアワーソースにおいて色々と迷いどころがあって実に楽しい。
その上で「四角いエレガンス」と「力強さ」の絶妙なるハーモニーが3モデルに共通している。もし選ぶとすれば、デジタル感のあるBEVではなく、機械式時計のようなアナログ感に溢れた内燃機関に落ち着きそうだ。では、ホイヤー・モナコを手にして幸福感を噛みしめている友人はどんなセレクトをしているだろうか? 今度会ったら聞いてみたいと思うが、多分アナログ派だと信じたい。
主要諸元 | |
全長×全幅×全高 | 4,690mm×1,985×1,985mm |
ホイールベース | 2,890mm |
車重 | 2,570kg |
最小回転半径 | 6.3m |
最低地上高 | 240mm |
トランスミッション | 9速AT |
駆動方式 | 4WD |
エンジン | 水冷V型8気筒ターボエンジン・マイルドハイブリッド3,982cc |
最高出力 | 430kW(585PS)/6,000rpm |
最大トルク | 850N・m/2,500-3,500rpm |
モーター | 交流同期電動機 |
モーター最高出力 | 15kW(20PS)/2,500rpm |
モーター最大トルク | 208N・m |
燃費 | 6.8km/l(WLTCモード) |
車両本体価格 | 28,200,000円~(メルセデスAMG G63ローンチエディション/税込み) |
AUTHOR
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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