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ドライフルーツやベリー系の華やかな甘み、ダークチョコレートのような芳醇なフレーバーが魅力のシェリー樽熟成のウイスキー。シェリー酒が詰められていた樽をウイスキーの熟成に用いることで、素朴な麦の旨味が甘美なフレーバーをまとう。今回は、スコッチウイスキーでも数少ない、シェリー樽だけで熟成をしたシングルモルトをご紹介。優雅で情熱的でありながら繊細でもある…様々な表情を魅せるシェリー樽熟成のウイスキーの虜になるだろう。
グレンドロナック蒸溜所は、スコットランドでも数少ない、熟成にシェリー樽だけを用いている蒸溜所のひとつだ。1826年にスコットランド北東部で創業。“グレンドロナック”とは、ゲール語で“ブラックベリーの谷”を意味する。ゲール語は18世紀中盤までスコットランドで広く使われていた言語だ。ブラックベリーが実り、お城が点在する風光明媚な環境で、伝統的な製法を踏襲したウイスキー造りを続けている。
発酵槽は、近代的なステンレスではなく、伝統的な木製の発酵槽を用いている。木製の発酵槽は乳酸菌発酵が活発になされ、甘味と酸味がしっかりと生成されたモロミができる。これを、ボールのような膨らみのある形状の銅製のポットスチル(蒸留器)で蒸留することで、蒸気が銅で磨かれ、エレガントで力強いスピリッツができるのである。
熟成は主にダンネージ式で行っており、土床の上に輪木を敷き樽を積み上げる、伝統的な方法を守り続けている。土床で湿度が保たれているので、樽に詰められたスピリッツの蒸発が少なく、スピリッツが理想的なフレーバーをまとうまで、じっくりと熟成することが可能なのだ。エレガントで力強いスピリッツを、タンニンが豊富で多孔質なスパニッシュオークのシェリー樽で熟成することで、芳醇なフレーバーへと昇華されていく。
グレンドロナック蒸溜所では、創業当時からシェリー樽での熟成にこだわりを持っている。樽は、オロロソシェリーとペドロ・ヒメネスシェリーが詰められていた樽、2種類を主に用いている。ペドロ・ヒメネスのシェリー樽は特に希少だが、グレンドロナック蒸溜所の熟成庫には豊富にあるという。
熟成されたウイスキーは、マスターブレンダーのレイチェル・バリー博士によって、まるでオーケストラの指揮者のようにブレンドがなされる。レイチェル・バリー博士は、世界的ウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」認定の「Hall of Fame」を受賞し「ウイスキー殿堂入り」を果たしている。スコッチウイスキー研究所の研究員としてのキャリアがあり、シェリー樽での熟成に精通しているレイチェル・バリー博士は、「スピリッツと樽との相性が大切なので、優れたシェリー樽の条件は一概には言えない。ブレンドには、幅広いフレーバーのウイスキーが必要なので、様々なシェリー樽で熟成するようにしている」と言う。その言葉通り、『グレンドロナック』の熟成に使われるシェリー樽は、シェリー酒が詰められていた期間が3年から50年と幅広い。
『グレンドロナック 15年』は、1stフィルのペドロ・ヒメネスシェリー樽とオロロソシェリー樽をブレンドし、深みを出している。香りは、熟したブラックベリー、ダークチョコレート、オレンジピールと芳しい。ツヤのあるテクスチャーで、蜂蜜をかけたアプリコットやブラックチェリーを味わっているかのようだ。
ストレートでゆっくりと飲みすすめると、情熱的なシンフォニーを聞いている時のような高揚感につつまれるだろう。
1879年にスコットランドの東部のスぺイサイド地方で創業したアベラワー蒸留所。全長172kmのスぺイ川の中流から下流にかけての一帯をスぺイサイド地方と呼び、東京都とほぼ同じ面積のエリアに、スコットランドの蒸留所の約1/3にあたる50カ所ほどの蒸留所がひしめく。その中でも、フランスで銘酒として名高いのが『アベラワー』だ。フランスでは、長年、スコッチのシングルモルトとして一番売れている。世界でも、スコッチのシングルモルトの販売本数でトップ10に入ることが多い。
“アベラワー”とはゲール語で“せせらぐ小川の川口”を意味し、アベラワー蒸留所は、ルアーバーンの小川がスぺイ川に合流する場所にある。原材料の大麦は蒸留所から24km以内の範囲で栽培されたものを使用し、地域の恵みから銘酒を生み出している。
シェリー樽とバーボン樽、2種類の樽を使って熟成するダブルカスクマチュレーションによりもたらされるバランスの良いフレーバーが『アベラワー』のハウススタイルだ。特に、シェリー樽にはこだわりをもっており、マスターディスティラー自らが厳選した南スペインのものを使用している。
そんな、こだわりのシェリー樽のフレーバーをそのままに味わえるのが、スパニッシュオークでできた1stフィルのオロロソシェリー樽だけで熟成した『アベラワー アブーナ』だ。“アブーナ”とはゲール語で“起源”を意味するように、19世紀の創業当時と同じ製法が用いられている。当時は、ウイスキーを樽から出してボトリングする際に、澱を取り除くための冷却ろ過や、加水は行われていなかった。ウイスキー造りの先人たちへのオマージュとして、『アベラワー アブーナ』は冷却ろ過をせず、加水をしないカスク・ストレングスでボトリングされ、樽出しのウイスキーのナチュラルなフレーバーを味わえるのだ。選び抜かれた樽のみがボトリングされるため、少量の生産となっている。
グラスに注ぐと、ブラックチェリーの瑞々しい甘さが立ちのぼり、奥から柑橘の爽やかな甘さとジンジャーのスパイスが顔をのぞかせる。味わいは、ドライフルーツの濃厚な甘味とトフィーのオイリーさをダークチョコレートの渋みが引き締めていて、飲みごたえたっぷりだ。アルコール度数は61.6%と高いが、ボディがしっかりしているので、少量ずつ加水してフレーバーの広がりを愉しめる。
丸みのあるシェイプが印象的なボトルは、創業当時、アベラワー村の人々が蒸留所に薬瓶などを持参し、ウイスキーを樽から直接入れていたという逸話を元にデザインされもの。
パワフルながら、どこか懐かしさを感じる甘味が温かい気持ちにさせてくれる『アベラワー アブーナ』。肌寒くなる季節に、1ショットで満足感を味わえる1本だ。
ゲール語で“緑の草の生い茂る谷間”を意味するグレンファークラス蒸留所は、1836年にスぺイサイド地方のスぺイ川の中流域で創業した。背後にそびえ立つ、スペイサイド最高峰のベンリネス山から湧き出る清廉な湧き水を、仕込み水に用いている。1865年にグラント家がオーナーになって以来、5代にわたって家族経営を続ける、スコッチウイスキーでも数少ない蒸留所のひとつだ。
ウイスキーの蒸留方法は、1980年代以降、スチームによる間接加熱が主流になったが、グレンファークラス蒸留所はガスによる直火蒸留を続けている。直火蒸留を行っているのは、約150カ所あるスコットランドの蒸留所のうち10カ所もない。スチームによる間接加熱蒸留が炊飯器でご飯を炊くとしたら、ガスによる直火蒸留は土鍋でご飯を炊くようなイメージだ。火力の調整が難しく、熟練の職人技が必要とされるが、香り高く力強いスピリッツが生み出される。
グレンファークラス蒸留所は、熟成にオロロソシェリー樽だけを用いるのがこだわりだ。全ての種類のシェリー樽を試した結果、オロロソシェリー樽が『グレンファークラス』の求める味に導いてくれたという。濃厚にシェリー樽のフレーバーがもたらされる1stフィル(シェリー酒を払い出した直後の樽)から、ライトな4thフィル(シェリー酒を詰めた後に、ウイスキーの熟成に3回使用した樽)までのオロロソシェリー樽を使い分けることによって、様々な味わいを生み出している。1989年にはスペインのホセ・イ・ミゲル・マルティン社と提携し、良質なスパニッシュオークのシェリー樽での熟成を可能にしている。
熟成庫のスタイルも、100年以上前からダンネージ式を貫いている。蒸留所に併設された熟成庫は約40棟。3段までしか樽を積まない贅沢な環境で、約10万樽のストックはゆっくりと育まれる。熟成中に、アルコールと水分子が融和し、未熟臭が蒸発しフレーバーが増強されることで、まろやかなで芳醇なウイスキーへと変貌を遂げるのだ。
『グレンファークラス25年』は、円みを帯びた濃厚な香りとシルキーな口当たりが特徴だ。ドライアプリコットやダークチョコレート、深煎り珈琲を合わせたようなリッチな味わいに、綿菓子のような繊細な甘さも感じられる。長期熟成だからこその余韻も心地良い。家族で、ゆっくりと食卓を囲める日に、食後酒として飲みたくなるウイスキーだ。
日本限定で、ボトリング時に冷却ろ過と加水をしない『グレンファークラス 25年 カスクストレングス バッチ2』も展開している。アルコール度数は54.7%と重厚。飲み比べてみるのも愉しいだろう。
AUTHENTIC BAR SALON DE SHIMAJI
週刊プレイボーイ伝説の元・編集長 島地勝彦氏がオーナーバーマンを務めるオーセンティックバー。島地氏の審美眼で選び抜いた、オリジナルのウイスキーも愉しめる。
東京都港区西麻布4-2-5 アートサイロB1F
営業時間:火曜日~金曜日 18:00~24:00(L.O.23:30) 土曜日・日曜日 16:00~22:00(L.O.21:30)
定休日:月曜日・祝日
料金:シングルモルト 1,000円~、カクテル 1,300円~(税込)
シガー、パイプのみ喫煙可能
03-6427-1477(予約制)
●掲載商品の価格はすべて、税込み価格です。
AUTHOR
慶應義塾大学を卒業後、アパレルのラグジュアリーブランドに総合職として入社。『東京カレンダーweb』にてライター・デビュー。エッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦氏に師事し、ウイスキーに魅了される。蒸留所の立ち上げに参画した経験と、ウイスキープロフェッショナルの資格を活かし、業界専門誌などに執筆する他、日本で唯一の蒸留酒の品評会・東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の審査員も務める。
STAFF
Photos: Ayako Yokota
Writer: Arisa Magoshi
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