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昭和から令和までの出版界を舞台にした大河小説『百年の子』が話題を呼んでいる古内一絵さん。学年誌100年の歴史を辿りながら、時代のうねりに巻き込まれながらも、子供たちのために懸命に生きた人々の姿を、綿密な取材と圧倒的な筆力で描ききりました。世の中に不安の影が広がっていく今だからこそ、深く胸に届く、力強い物語。そこに込めた想いとは?
~あらすじ~
コロナ蔓延の社会で、閉塞感と暗いムードの中、意に沿わない異動でやる気をなくしている市橋明日花は、大手総合出版社・文林館で働く編集者。自社が出版してきた児童向けの学年誌の歴史を調べるうちに、今は認知症になっている祖母が、戦中、その編集に関わっていたことを知る。なぜ祖母スエは、そのことを話してくれなかったのか? 令和を生きる明日花と、昭和を生きるスエの姿を、交互に描きながら、物語は進んでいく。戦中の誕生から、暗黒の時代を経て、高度経済成長期へ。学年誌の100年は、文化の、子供の、女性の、格闘の歴史でもあった――。
「取材をして集まったたくさんの素晴らしいエピソードを、エンタテインメントの小説としてどう紡いでいくか……。悩んで悩んで、悩み抜いて書き上げた1冊です」
大手総合出版社・文林館に新卒入社した市橋明日花。自身と同年代の20代女性をターゲットにしたファッション誌『ブリリアント』に配属となり、カルチャーページ担当の編集者として刺激的な日々を過ごしていた。
ところが5年目を迎えた春、思いもよらぬ辞令が下りる。「学年誌児童出版局」、しかも、創業百周年企画のひとつとして結成された「学年誌創刊百年企画チーム」の広報担当に追加招集されたのだ。「誰もやりたがらない文化祭の実行委員を押しつけらたようなもの」と、ため息をつくばかりの明日花。しかし、学年誌の歴史を調べるうちに、明日花の祖母がかつてその編集に関わっていたことが判明して――。
小説『百年の子』は、学年誌をキーワードに、戦中から令和にかけての出版界の激動と、そこで懸命に仕事をし、闘い、生きた人々の姿を描いた壮大な人間ドラマだ。
「学年誌って、実は日本にしかないんです。子どものための受験雑誌は世界各国にあるけれど、1年生から6年生まで、学年ごとに雑誌をつくっていたのは、日本だけなんですね。私の世代では小学生になったら『小学一年生』を読むのが当たりまえだったので、すごく驚きました」
執筆にあたって古内さんは、小学館の資料室に通い詰めたという。
「1923年の関東大震災の時に発行された号から、すべての出版物がそろっているんです。何日もこもって、貴重な雑誌を傷つけないように、慎重にページをめくりながら、諸々調べさせていただきました」
さらに、元小学館学年誌編集者にも時間をかけてインタビューを行った。
「特に高度経済成長期、学年誌や漫画がどんどん伸びていって、出版界全体が盛り上がっていった時代のお話は、本当に面白くて。目の前にすばらしいエピソード、食材がどんどん積まれていくわけです。それをどう料理しよう…考えすぎて、例え話じゃなく本当に鼻血を出してしまったほど(笑)」
物語は、令和と昭和を行き来しながら進んでいく。昭和パートの主人公は、明日花の祖母・スエだ。
「スエは昭和19年に文林館に臨時職員として入社します。戦争の激化により男性が足りなくなったため、女性を入れるしかなかったわけです。そして私自身は、社会に出たのが平成元年。男女雇用機会均等法による総合職の一期生です。それぞれに時代の良し悪しはあれど、女性が社会に入っていくタイミングだった。そういう共通項もあって、スエのキャラクターには思い入れがありますね」
女に学問は不要だ、と言われて育ったスエだが、文林館で働く中で編集者や作家をはじめ多くの人々と出会い、社会に向けて目を開いていく。スエが憧れる女流作家や、未来を語り合った親友をはじめ、周囲の女性たちもたくましく、聡明で、美しい。
一方、令和を生きる明日花も、仕事にやりがいを見出し、再び輝き始める。ただ、スエは今や認知症を患っており、文林館時代の話を直接聞くことは叶わない。
そして、明日花とスエをつなぐもうひとりの働く女性。それが、明日花の母、待子だ。仕事に没頭したがゆえに、明日花との関係はぎくしゃくしている。この2組の母娘の関係性が少しずつ変化していくのも、大きな読みどころだ。
「スエも待子も、それぞれの時代の中で自分らしく働こうと懸命だったし、母としても最大限、子どもと向き合おうとしていました。けれども、その気持ちは、当時はうまく伝わらなかった。きっとそれは、どの時代の、どの母娘にも共通することなんだと思うんです。『母親目線で読んみました』とおっしゃる女性読者の反響も大きくて、嬉しいですね」
出版界を舞台にした戦中戦後の文化史として、子どもと女性の権利の発展の歴史を辿る社会史として、そして明日花というひとりの女性を主人公としたお仕事小説として、と、さまざまな視点から読むことができる本作。なかでも古内さんがなんとしても伝えかったのは、「過去を“無かったこと”にしてはいけない」ということ。
「こういう時代があったんだ、という事実ですね。戦況が悪化していく中、軍国主義的な記事ばかりの雑誌を目にして、スエが『もっと普通の物語が読みたい』という場面があります。同僚の女性も賛同し、『これじゃ、若い人たちに、死ににいけって言っているようなもの』だと憤る。時代の大きなうねりに取り込まれてしまったことを責めることはできません。けれど、それを“無かったこと”にしてしまっては、今を、未来を生きる子供たちに対しても、あまりに無責任です」
膨大なエピソードと、さまざまな人の想いを載せた巨大な船は、昭和から令和を旅して、明るく、希望に満ちた港に辿り着く。物語の力に圧倒される一作だ。
「今回、取材を通じて改めて感じたのは、事実というのはすごい、ということ。そして、平凡な人なんていないということ。どんな人でも、ものすごい物語をもっている。それを、小説としてひとつの作品にまとめることができて、ほっとしています」
ふるうちかずえ/東京都生まれ。『銀色のマーメイド』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、2011年にデビュー。17年『フラダン』が第63回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出される。第6回JBBY賞(文学作品部門)受賞。他の著書に『鐘を鳴らす子供たち』『星影さやかに』『山亭ミアキス』『マカン・マラン』シリーズ、『キネマトグラフィカ』シリーズ、NHKでテレビドラマ化された『風の向こうへ駆け抜けろ』シリーズなどがある。
STAFF
Edit: Aya Kenmotsu
Composition: Kyoko Seko,Kayoko Katae
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