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オスカー・ワイルドを現代に蘇らせるような新しい翻訳に挑んだ戯曲『サロメ』。嘘と本音を論じる作者への思いや、平野訳の特色、シビれた理由を語ります。
今回のテーマは、平野啓一郎自身がオスカー・ワイルドを現代に蘇らせるような新しい翻訳に挑んだ戯曲『サロメ』。嘘と本音の関係性を論じる作者ワイルドへの思い、平野訳の特色、シビれた理由を語ります。
~あらすじ~
月明かりのもとの宴の席。ヘロデ王は、若く美しい義理の娘サロメに視線を注いでいる。義父からの関心を嫌悪するサロメは宴から離れ、牢獄に囚われている預言者ヨカナーンに惹きつけられる。彼に語りかけ、キスを望むが強い拒絶にあう。サロメは王の命に応じて見せた舞と引き換えに、ヨカナーンの首が欲しいと望むのだった。
平野啓一郎(以下、平野):僕は十代の頃、三島由紀夫が好きでした。三島は25歳のときに『オスカア・ワイルド論』という才気ほとばしるエッセイを書いています。その影響もあり、デカダンスの代表的な作品であるワイルドの『サロメ』を新潮文庫の西村孝次訳で読み、ビアズレイの挿絵が見たくて岩波文庫の福田恒存訳も買いました。
大学入学後、京都でギュスターヴ・モローの大回顧展がありました。モローが描くサロメは豪奢で退廃的なイメージでした。当時、世紀末の閉塞感もあり、シュールレアリスムやデカダンスに関連する書籍が発刊され、折しも講談社文芸文庫から刊行された日夏耿之介訳の瑰麗な訳は、三島の舞台にも用いられており、魅了されました。そんなわけで、何種類かの『サロメ』を読みました。また、その頃、大学の英語の授業で『芸術家としての批評家』を、さらに『社会主義下の人間の魂』を伴わせ読み、批評家としてのワイルドにも興味を持ちました。
平野:ワイルドの思想では特に、嘘と本音との関係を論じている部分に関心を持っていました。三島の『仮面の告白』もワイルドの影響ですが、僕自身、アイデンティティに関わる部分を悩み考えていた時期なので、ワイルドの逆説が非常に新鮮に感じられました。
例えば、一般的には芸術が自然を模倣し、作品が出来上がると思われているけれど、むしろ自然の方が芸術を模倣するとワイルドは云っている。要するに、僕らが自然を見るときに、芸術体験を通じた認識のフレームで、自然を見ることになっていると主張しています。10代の多感な頃に読んで、その言い回しにシビれ、感心しました。
また、ワイルドは露悪的なところもある一方で、『幸福な王子』などの作品には何かホロッとさせられ人情味を感じる。『社会主義下の人間の魂』を読むと、社会の偽善に対する憤りと正義感が伝わってきます。
──サロメを翻訳することになった経緯を教えてください。
平野:宮本亞門さんが三島の熱烈なファンで、その関連で以前より交流がありました。亞門さんから、多部未華子さん主演で『サロメ』を上演することになった際に、ワイルドを現代に蘇らせるような新しい翻訳をしてほしいと依頼を受けました。ワイルドはほとんどの作品を英語で書いていますが、『サロメ』だけはフランス語で書いています。それまで日本語で刊行された『サロメ』はどれも英語からの重訳だったので、今回は、フランス語の原文からの翻訳を、ということでした。
フランス語の原文は非常にシンプルな文体で書かれていて、あまり英訳と変わりませんが、サロメの言葉のたどたどしい子供っぽさは、英訳より感じ取りやすいかもしれません。ですから僕の翻訳では、サロメの少女的な純粋さを強調しました。ヨカナーンがしきりにサロメを妖婦のように扱うことに対しサロメは怒り、自分は純潔だと主張します。ワイルド本人も露悪的に振舞っていましたが、社会からの認識に対して、本当の自分はもっと純粋な人間であることの反映なのではないかと考えながら、サロメを翻訳しました。
STAFF
Photo: Manabu Mizuta
Movie: Cork
Text: Junko Tamura
Editor: Yukiko Nagase,Kyoko Seko
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