タブロイドマガジンAdvancedTimeをお手元に
ご時世だろうが、密を避けるためと称し、海辺でもリバーサイドでもキャンプサイトでも、まさにバーベキュー(以下、BBQ)の花盛りと言った状況である。だが、BBQの本場、アメリカ人、いやアメリカのお父さんに言わせると「あれは屋外の焼き肉パーティだね」程度のものらしい。「日本流儀のどこが悪いのか」と少しばかり心穏やかざるものを感じるような状況だ。しかし、初夏に東京のベイエリア、豊洲で開催されたJEEPのピックアップトラック「グラディエーター」とアメリカンBBQを同時に楽しむというプレス試乗会「Jeep Real Grill」に参加し、改めてその言葉の真意を知ることになったのだ。
少し前の事だが、アメリカ南東部にあるノースカロライナ州のランドルフ郡にあるのどかな街で、仕事のために一週間ほど滞在したときのことだ。この辺りは最近、トヨタにとって北米初のEV用バッテリー工場が建設される事で話題になった場所である。だが、我々が滞在していたときは、そのような話のかけらも無く、ゆったりとした景色の中を穏やかに風が流れていた。
仕事も一段落し、帰国の準備に取りかかっていると、お世話になった農場主から週末のBBQへのお誘いを受けた。断る理由などない、と言うか是非にもと思いながら訪問することにした。コーディネーターに「何か準備するものはあるか?」と尋ねると「なにも要らない。手ぶらでいい」というのである。日本流に考えればスーパーに立ち寄り、牛肉の一片なりとも持参した方が、などと考えたのだ。しかし、それがどれだけ失礼にして無用な行為かを、思い知ることになるのである。
ここノースカロライナ州と言えば、4つのスタイルがあると言われるアメリカンBBQの一角を成す、本場中の本場であった。各家庭には必ずといっていいほど、じっくりと時間をかけてスモークグリルするためのBBQコンロがあり、その主役を務めるのはほぼ父親だという。アメリカのお父さんはBBQにおいてのマスター・オブ・セレモニーであり、立派にこなせてこそ、一人前と言ったところなのである。少々オーバーなように思えるが、我々を招待した農場主は一週間ほど前から自家製ソースや豚肉や牛肉、さらにはWeber製のコンロで使用するためのヒッコリー材などを吟味しながら、この日が来るのを楽しみにしていたという。肉ばかりか、調理器具から、スモークするための木材にまで神経を使いこだわるとは、と驚くしかなかった。燃やす木材が変われば煙の種類も変わり肉の風味も大きく変わることを説明されれば、確かに納得できる。ヒッコリー同様に堅い木材のメスキート(マメ科の常緑低木)やオーク材などは、強めのスモークに適している。一方、スイートで柔らかな香りにはメープルやハンノキ、洋梨やリンゴなどの果樹木を使うという。おまけに我々は外国人であり、まさにアメリカの威信をかけての準備、と言うほどの入れ込み具合である。
ちなみにノースカロライナ州とサウスカロライナ州(この2州もスタイルは違うらしい)以外の本場と言えば、テネシー州、テキサス州、ミズーリ州の3カ所。使用する肉の種類や調理法などに独特のスタイルがあり、どのエリアも「自分が最上」と言って譲らないほど。カンザスシティのように「世界のバーベキューの首都」を自任するところもある。当然、「テキサスのソースはどうも口に合わない」といったやり取りは日常的に聞く話のようだ。これは後に知ることになるのだが「アメリカでは宗教とBBQの話は慎重に」と言われる事もあるとか……。とても「手ぶらでBBQを」などという、日本のうたい文句はそこで通用するはずもなく、焼き肉パーティと言われても仕方ないのかもしれない。
JEEPグラディエーターのプレス試乗会での説明によればアメリカンBBQとは、かつてヨーロッパの探検家が、カリブの地を訪れた際、原住民が火と煙で動物を調理する姿を目撃。その調理法が現地の言葉で“barabicu”といわれていたことに由来し、現在の“barbecue”になったという。そして大陸に上陸したBBQは現在の米国南部の州へと伝わり、独自の発展を遂げながら各地に広がっていった。それぞれの地に色々なスタイルが存在するのはそのためである。だが、調理の基本にあるのは低温でじっくりと時間をかけるようゆっくりとスモークグリルするのが流儀である。そう考えるとBBQとはアメリカ人にとってのプライドであり、フロンティア魂の伝承者的役割おも果たす存在なのだろう。
それほど重要な意味があるとも知らず、肉やソーセージにパスタに確かライ麦のパンなどをたらふく食べたところで、ふと農場主のガレージに目が行った。そこにはアメリカのフルサイズピックアップトラック、フォードFシリーズが止まっていた。いつもの事ながらアメリカで見るフルサイズピックアップはまったく威圧感もなく、景色の一部に溶け込み、非常に魅力的に見えた。
ペイントなどもはげていて、全体としていい具合にやれているピックアップトラックは、大らかなアメリカ景色の中に、溶け込むように佇んでいた。もとい、今回はテールゲートもテーブルとして利用し、ずいぶんと活躍してくれていたのである。多分、ファミリーはこのトラックの荷台にBBQコンロや食材を積んで、アウトドアライフを満喫しているのだろう。トラックを実用だけでなくレジャーで使わせたら、やはりアメリカ人の使いこなしは世界一かもしれない。
当然のように農場主はアメリカ人らしくトラックにもこだわりを見せていた。「本当ならJEEPのコマンチ(1986年に登場したピックアップ)も気になっていたが、いかんせん古くてね」と表情を曇らせた。チェロキーをベースに開発されたコマンチは当初、頑丈さと軽量化を両立したピックアップとして人気だったが、この強豪ひしめくマーケットでの争いは熾烈を極めていた。
1947年以来、初代のグラディエーターも含め、ピックアップトラックをリリースし続けてきたJEEPは、ピックアップトラックのブランドとして大きな指示を受けてきた。だが日本車も含め、本場のアメリカンブランドからも続々と強力なライバルが登場すると、徐々に苦境へと追いやられ、ついには1992年にコマンチの生産を終える事になった。
農場主の言葉の裏には「JEEPもピックアップトラックもアメリカのプライド。それが我がガレージにないのは寂しい」という思いが潜んでいたのかもしれない。
そんな彼に対し、私は無神経な一言を送ってしまった。トヨタも日産もホンダもいいピックアップ出ていますが、いかがですか?」。他意は無いし、プライド同士のガチンコ勝負をしようなどとも思っていなかった。
実はその話の少し前にもひとつ、彼の神経をざわつかせた一言を発していたかもしれない。BBQソースと言えば、あの「ヨシダソース」のことが思い浮かんでしまい、つい口に出してしまった。
「ヨシダソース」の創業者、吉田潤喜氏と言えば19歳で単身渡米し、無一文から年商250億円にまでに成長させた、まさにアメリカンドリームを体現した立志伝中の日本人。その元になったのが「アメリカ生まれの日本の味」としてアメリカを始め、世界中で愛されたソースの事を少しだけ話した。そのときも彼は少しばかり怪訝そうな顔をしたのだ。それはそうだろう。自分が何日も掛けて仕上げてきたソースより、日本人が仕上げたソースの話をされたのだから、ざわつきも理解できる。
それに加えて「JEEPが無ければ日本車でも」と言ったのだから、まさに広島のお好み焼き屋さんに入り、「やっぱりお好み焼きは大阪が一番」と叫ぶのと同等、いやそれ以上にリスキーなやり取りだったと、今は分かる。幸いにして「日本人が自国の自慢をするのは当たり前」という、彼の寛大さによって事なきを得ていたのかもしれないのだ。
しかし今、新型「グラディエーター」の登場によって、JEEPブランドとって26年振りに復活したピックアップ。一度は途絶えたアメリカンプライドが魅力的な姿で登場したことを彼はどう感じているだろうか?
ラングラー・アンリミテッドをベースに荷台を与え「グラディエーター」として2018年のロサンゼルスモーターショーで登場。アメリカ人たちは自らのプライドを取り戻したかのような騒ぎだったと聞く。発売翌年には「2020北米トラック・オブ・ザ・イヤー」を獲得し、2021年のピックアップトラック全米シェアで、Jeepは3位に入ったのである。JEEPであることでも十分にアメリカ人のプライドを支えてきた上に、ピックアップとなればこの結果は十分に頷けるのである。
そして目の前に現れた、日本初上陸となった「グラディエーター」。都内でも空が広く開けているはずの豊洲のキャンプ施設「WILDMAGIC」に置いても、やはり全長が5,600mm、全幅1,930mm、全高1,850mmの押し出し感は別格であった。
出来ることなら都内ではなく、広くゆったりとしたゆとりあるロケーションでの試乗をと、思ったのだが、いざ走りだしてみると少々、気が楽になった。V型6気筒3.6Lエンジンは最高出力284ps、最大トルク347Nmを発揮する自然吸気エンジン。その自然にしてトルクフルなパワー特性は8速ATを介して、なんともナチュラルな運転感覚を与えてくれる。もちろんアクセルとグッと踏み込むとグッとトルク感を感じさせながら、力強く加速していくが乱暴なフィールはない。
ほんのわずかな試乗時間ではあった運転中は終始、「コイツの荷台に、どんな外遊びのギアを積んで遊びに行こうか」と次々とイメージが湧いてくるのである。活動のフィールドを広げてくれる4WDは伝統のJEEP仕上げで、待ち望んだ荷台も付いている。これほどにアメリカン風味によって乗る人の気持ちを刺激し、独特の高揚感を与えてくれるアメリカンRVは珍しいかもしれない。
こうして本場のBBQと復活したピックアップトラック「グラディエーター」とを同時に楽しむというプレス試乗会「Jeep Real Grill」の一日を終えた。主催したステランティスの目論見は見事に的中し、改めてアメリカ人のプライド、思いを心置きなく味わい、大満足の一日となった。輸入車に乗る、その国の料理を食べると言うことは、まさにその国の文化やプライドを受け止める事と同意である。その上で自分のライフスタイルと整合性を持たせ、人生を楽しむことにこそ醍醐味があるのだ。
主要諸元 | |
全長×全幅×全高 | 5,600×1,930×1,850mm |
車両重量 | 2,280kg |
駆動方式 | 4WD(後2輪・4輪駆動・オンデマンド方式4輪駆動・選択式) |
トランスミッション | 8速AT(副変速付き) |
エンジン | V型6気筒DOHC 3,604cc |
最高出力 | 209kw(284PS)/6,400rpm |
最大トルク | 347Nm(35.4kgm)/4,100rpm |
車両価格 | 8,400,000円~(税込み) |
STAFF
Writer: Atsushi Sato
Editor: Atsuyuki Kamiyama
TAGS
『AdvancedTime』は、自由でしなやかに生きるハイエンドな大人達におくる、スペシャルイシュー満載のメディア。
高感度なファッション、カルチャーに溺愛、未知の幅広い教養を求め、今までの人生で積んだ経験、知見を余裕をもって楽しみながら、進化するソーシャルに寄り添いたい。
何かに縛られていた時間から解き放たれつつある世代のライフスタイルを豊かに彩る『AdvancedTime』が発信する情報をさらに充実し、より速やかに、活用できる「AdvancedClub」会員組織を設けました。
「AdvancedClub」会員に登録すると、プレゼント応募情報の一覧、プレミアムな会員限定イベント、ブランドのエクスクルーシブアイテムの紹介など、特別なコンテンツ情報をメールマガジンでお届け致します。更に『AdvancedTime』のタブロイドマガジンのご案内もあり、送付手数料のみをご負担いただくことでお手元で『AdvancedTime』をお楽しみいただけます。
登録は無料です。
一緒に『AdvancedTime』を楽しみましょう!
vol.024
vol.023
Special Issue.AdvancedTime×ROLEX
vol.022
Special Issue.AdvancedTime×ROLEX
vol.021
Special Issue.AdvancedTime×ROLEX
vol.020
Special Issue.AdvancedTime×ROLEX
vol.019
Special Issue.AdvancedTime×ROLEX
vol.018
vol.017
vol.016
vol.015
vol.014
vol.013
Special Issue.AdvancedTime×HARRY WINSTON
vol.012
vol.011
vol.010
Special Issue.AdvancedTime×GRAFF
vol.009
vol.008
vol.007
vol.006
vol.005
vol.004
vol.003
vol.002
Special Issue.01
vol.001
vol.000
タブロイドマガジンAdvancedTimeをお手元に
夏の肌疲れを癒す、アロマのパワー
ロイヤルの気品、アスリートの美筋、無邪気な笑顔のニコラス・ガリツィン。完全無欠な年下彼氏の妄想に浸る
「ウェレンドルフ」のジュエリーが魅せる“本物の価値”
シックでクラフテッド、それでいて機能的。新時代を迎えた“ジャパンキッチン”
持ち前の「強さ」に「幸福感」が積み重なり、唯一無二の美しさを放つ──。
2024年はまだ終わらない!秋の新作ウォッチ
箱根の我が家で至福の秋に身を任せて「ハイアット リージェンシー 箱根 リゾート&スパ」
タブロイドマガジンAdvancedTimeをお手元に
箱根に登場したラグジュアリーなヴィラ「箱根リトリートföre & villa 1/f(フォーレ&ヴィラ ワンバイエフ)」
海を愛する食通が唸る!「Restaurant UMITO Akasaka」で、旬の海の幸が活きる“モダン和食”を
静寂のサンクチュアリへ「バンヤンツリー・東山 京都」
『舞姫』は鴎外から読者への〝問い〟である