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では、帝国ホテル東京のタワー館、帝国ホテルプラザ 東京に関して、開業当時の社会状況も鑑みながら、俯瞰的な視点からどのように位置づけられるのだろうか。オンラインメディア『ACROSS』にて長年若者中心とした消費を研究し、現在は文化社会学(ファッション文化論)の研究者でもある高野公三子氏に、ご自身の経験に基づいた知見も含めつつ、考察していただいた。
「インペリアルプラザ東京(後の帝国ホテルプラザ 東京)が開業した1983年は、東京そして日本にとってまさにエポックメイキングな年でした。東京ディズニーランドが開業し、六本木には音楽や映画などを扱うカルチャー・コンプレックスであるWAVEがオープンします。TVでは深夜バラエティ『オールナイトフジ』が始まり、ドラマ『ふぞろいの林檎たち』が放映されています。両番組は大学生、さらに女子大学生が主導する文化を描写していました。浅田彰の著作『構造と力』がニュー・アカデミズムのブームをもたらし、1981年にアメリカで始まったMTVが日本でも話題になっていました。新しいライフスタイル、新しいアイテムや考え方、新しい消費のプレーヤーが一気に出現したのが、1983年とその前後だったといえます。
その新しさとは端的には、アメリカを中心とした海外からもたらされていたと、考えています。当時はOLという言葉が使われていましたが、ワーキングウーマン、働く女性として日常やアフターファイブ、余暇を楽しむことも、当初はアメリカン・ウェイ・オブ・ライフのひとつとして捉えられていたところがありました。そのアフターファイブを楽しむ場として、ホテルのさまざまなファシリティや、ホテルに併設するショッピングアーケードが注目されていました。当時の女性誌では特集もされています。そしてインペリアルタワーは1〜4階までがインペリアルプラザ東京のショッピングエリア、その上階にはオフィス、さらには客室という、複合的な構造で特に新鮮でした。それはニューヨークなどに見られたオフィス複合型の商業施設を連想させるものでもありました。現在では新丸ビルやミッドタウンなど、東京でも数多く見られる複合商業施設ですが、当時の日本では百貨店は百貨店、オフィスはオフィスと、まだ分化されていたものが多かったので、インペリアルタワーは先駆けといえる存在だったと思います。
そしてインペリアルプラザ東京の場合は、海外の著名ブランドが集積されていたことと、エントランスの吹き抜けや重厚感ある内装などから、路面店に近い感覚だったように思います。百貨店などともまた違った、スペシャルな空間。それは訪れる人にワンクラスアップしたような感覚をもたらす場所でもありました。
80年代はいわゆるバブル時代として表現されますが、それ以前の、例えば70年代と比べた際、先述した海外からの新しい物事など、日本全体が飛躍的に多くの情報であふれた時期だったといえます。そしてより良いものを見たい、知りたい、という人々の欲求が高まり、時代はダイナミックに動いていきました。
さらに東京においては、青山のフロム・ファーストビル、青山ベルコモンズ、六本木アクシスなど、個性的なブティックやショップなどが集積した小規模なモール型の商業施設が目につくようにもなっていました。インペリアルプラザ東京もこの傾向のひとつとしても捉えられます。それらはファッションを軸に、多様化し成熟していく消費文化を表象していたといえるでしょう」(談)
帝国ホテルといえば、フランク・ロイド・ライトが設計を手掛け、いまも正面玄関の一部が明治村で保存されている「ライト館」という建築がまず想起される。たしかにそれは帝国ホテルを象徴し、広く知らしめるきっかけになったが、他方でホテルという施設は、お客様とスタッフによって形成される、いわば文化ともいうべき無形の価値が具わるのではないだろうか。今回帝国ホテル 東京 タワー館の閉館にあたって表出した、それぞれの言葉、逸話は、そうした価値の一端を表現するものといえるだろう。それらは帝国ホテル 東京 タワー館、帝国ホテルプラザ 東京が存在し続けた証であると同時に、帝国ホテルの今後への道標のひとつでもあるように、思えてならない。
STAFF
Writer: Yukihiro Sugawara
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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