安積蒸溜所のプレミアムコースで“風に磨かれたウイスキー”を五感で味わう

芳しき“命の水”、ウイスキーの嗜みVol.2

自分だけのウイスキーを造ってみたい…そんなウイスキー愛好家の夢を叶えてくれるブレンド体験が、安積蒸溜所でスタートした。安積蒸溜所は、世界的なウイスキーのコンペティションで世界最高賞に輝いた実績もある、注目の蒸留所。プレミアムコースは2024年5月に始まったばかりで、早くも予約困難となっている。ウイスキー造りを五感で味わえる、至福の2時間を体験してきた。

LIFESTYLE Jul 16,2024
安積蒸溜所のプレミアムコースで“風に磨かれたウイスキー”を五感で味わう

ジャパニーズウイスキー、ブームの陰の立役者、安積蒸溜所

安積蒸溜所の画像
『安積蒸溜所』は、老舗酒蔵『笹の川酒造』の一角にある。

東京から新幹線で1時間20分弱で着く郡山駅。車窓を彩っていた緑豊かな景色から一転、駅前は開けていることに驚く。これには、明治時代に国家事業として着工した、安積疎水が寄与している。1882年に開通した安積疎水がもたらした水の恵みにより、農業、工業と発展していき、郡山市は福島県内で第1位の人口を有するまでになったのだ。

郡山駅西口のロータリーからタクシーで10分程で安積蒸溜所へ。“安積”は“あさか”と読み、郡山の古くからの地名である。運営しているのは、創業259年をほこる日本酒蔵・笹の川酒造。敷地内に入ると、手入れされた花壇の奥に、酒造りの神様である京都・嵐山の松尾大社御分霊が祀られている。神様に祈ることは、自然を敬うこと。そこには「人を幸せにするお酒を造りたい」という願いがこめられている。

安積蒸溜所の画像
白い漆喰の壁が印象的な安積蒸溜所の外観。

プレミアムコースは、伝統的な土蔵建築の日本酒蔵を改修したゲストルームで、創業家に語り継がれる、笹の川酒造の歴史を伺うところから始まる。当主を務める山口哲蔵氏は10代目で、5代目は安積疎水の開通に尽力した一員でもある。その安積疎水は、後に、日本酒とウイスキーの仕込み水として、重用されるようになるのである。 

笹の川酒造がウイスキー造りを始めたのは1946年。戦後の米不足で日本酒造りが満足にできず、ウイスキー造りに乗り出した。1980年代には一升瓶入りの『チェリーウイスキー』が人気を博すものの、外圧による酒税法改正や嗜好の変化などにより、国内でのウイスキーの消費量は激減。1989年には醸造・蒸留の休止に追い込まれた。

苦境にあえいでいたのは笹の川酒造だけではなかった。埼玉県にある羽生蒸溜所は事業譲渡することになり、肥土伊知郎氏は熟成中の樽の廃棄を迫られていた。肥土氏から相談を受けた山口哲蔵氏は「廃棄は業界の損失」と400樽全てを買い取り、笹の川酒造で貯蔵することを快諾。2003年、笹の川酒造の経営も決して順調とは言えなかった時期の大英断である。

この樽が、後に『イチローズモルト』の名で世界的に人気を博し、ジャパニーズウイスキーブームの一翼を担うこととなった。こうした肥土氏との交流もあり、創業250周年の節目にウイスキー造りの再開を決意。2016年春に、安積蒸溜所として稼働を開始した。

五感を刺激する、プレミアムコースの蒸留所見学

黒羽祥平氏の画像
グリスト・セパレーターを左右に振る手本を見せる黒羽祥平氏。ウイスキー造りの全工程を統括する。
グリスト・セパレーターの中の画像
5分間、横に振った後のグリスト・セパレーターの中。

用意されたサンダルに履き替え、いよいよ、蒸留所見学。モルトウイスキー造りは、大麦麦芽を殻ごと機械で粉砕するところから始まる。挽き分けられた大麦麦芽からサンプルを取り、グリスト・セパレーターという3種類の網目が貼られた道具で濾して、ハスク(殻)・グリッツ(粗挽き)・フラワー(粉)が、2:7:1の理想的な比率になっているかを確認する。

プレミアムコースでは、グリスト・セパレーターを左右に振る体験ができる。3層になった木箱を開けると、まるで魔法のように粒子が3段階に分けられており、ポンポン菓子のような麦の香りがフワッと広がる。

試飲をしている画像
特別に試飲させてもらった麦汁は、トロっとしたテクスチャーも相まって、上品な蜜のような甘みを感じた。

丁寧に挽き分けられた大麦麦芽に65℃に温められた仕込み水を注ぎ、大麦麦芽の糖分が溶けだした麦汁を抽出していく。仕込み水は、安積疎水からひいている軟水で、まろやかだ。麦汁を抽出する作業は、コーヒーをドリップする工程に似ている、というとイメージがしやすいだろうか。ゆっくりと麦汁を引き抜くことによって、澄みわたった綺麗な麦汁を回収できるのだ。澄みわたった麦汁の方が、濁った麦汁よりも、香味成分の多い酒質になるという。

発酵工程の画像
発酵工程はデリケートなため見学は不可だが、特別に写真撮影のみ対応してもらえた。左が発酵開始から24時間後、右が発酵開始から48時間後。濁りがなく、きめ細かい泡が均一にたっているのが印象的だ。フルーティーな香りだけだなく、甘酸っぱい匂いも漂う。

冷却した麦汁に酵母を添加し、麦汁内の糖分をアルコールにしていく。発酵は、蒸留所の一角にある、温度管理がなされた部屋で行っている。2016年の稼働当初は、温度管理のしやすいステンレスの発酵槽を用いていたが、本場・スコットランドを視察した際に「木桶での発酵がもたらすフレーバーが、ハウススタイルに寄与している」と感じ、2019年に木桶の発酵槽に切り替えた。酵母は35℃以下の環境で活発にアルコール発酵を行うため、2023年に空調設備を導入。現在は発酵に十分な時間をかけ、乳酸発酵によるフレーバーも回収している。老舗日本酒蔵の知見をウイスキー造りに応用するための工夫がみてとれる。

銅製のポットスチルの画像
銅製のポットスチル(蒸留器)が2器、並んでいる。100℃ほどの熱をおび、蒸留直後は、釜の内部から放出された蒸気を目視で確認できるほどだ。

発酵でできたモロミはアルコール8%前後。これを丸ごと、ポットスチルに投入し、2回蒸留することでアルコール度数を高め、フレーバーを更に生成していく。安積蒸溜所のポットスチルは高さ3mと小型で、モロミと銅の接触面積が大きい。銅と接触することで、不快な成分が取り除かれ、香味成分が豊かになるのだ。

第二熟成庫の画像
600丁の樽で埋め尽くされている第二熟成庫。

蒸留直後は無色透明のアルコールで、刺激臭も強い。これを、木製の樽で熟成すると、琥珀色で芳醇な香りをまとったウイスキーになるのである。第二熟成庫に入ると、ひんやりと涼しく、心地良い香りが充満している。断熱材が施されており、外気より15℃ほど低く保たれ、夏場でも25℃は超えないという。

安積蒸溜所は郡山盆地にあり、1日の間、1年の間で気温の変化が大きく、磐梯山から吹き下ろす強風にもさらされている。1年間で、熟成中のウイスキーの4~5%が蒸発してしまうというが、その分、アルコールと木材、酸素が反応することで得られるフレーバーも豊かになる。まさに、“風に磨かれたウイスキー”なのだ。

巨大な桶の画像
マリッジタンクと呼ばれる容量1トンの巨大な桶。

マリッジタンクは、定番商品『ワールドブレンデッドウイスキー 安積蒸溜所&4』のブレンドに用いられている。レシピに基づいたウイスキーを注ぎ入れて馴染ませてから、商品化する分だけボトリングし、空いたスペースにレシピに基づいたウイスキーを補充していく。秘伝の鰻のタレのような製法で、ハウススタイルを確立しているのだ。

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