映画ってやっぱり劇場で観ないと意味がないんです

俳優/映画監督
オダギリジョー

主演映画『夏の砂の上』ではプロデューサーも兼任。 ドキュメンタリー映画『六つの顔』ではナレーションを担当。 『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』では 脚本・監督・出演・編集も務めた。映画をもっと面白く。 デビューから26年。オダギリジョーの活動は俳優に留まらない。

LIFESTYLE Sep 26,2025
映画ってやっぱり劇場で観ないと意味がないんです
オダギリジョーさんの画像

比類ない雰囲気と色気。携わる作品は決して期待を裏切らない。映画ファンから絶大な支持を受けるオダギリジョーは彼自身もまた、筋金入りの映画ファンと言える。俳優であり、映画監督。2019年、オリジナル脚本による初の長編映画監督作『ある船頭の話』はヴェネツィア国際映画祭のヴェニス・デイズ部門に長編日本映画として初めて選出されるなど、海外の数々の映画祭を席巻した。

「役者はひとつの役に対して、深掘りしていく専門職。だけど、監督はひとつを極めるのではなく、全体のバランスを考えて設計していくことが大事なんです。全く能力が違う、真逆なベクトルとも言えます。正直なところ、監督としての才能のなさにげんなりしています。映画が好きだからこそ、そこがつらい。俳優としては、座学として勉強もしたし、現場の経験も30年近くになるから、ある程度、自信もあるし理解もできています。ただ監督としては全然、始めたばかりで何にもわかってないんです。“なんでこんなに才能ないんだろう”と悔しい気持ちばかりです」

脚本・監督・出演・編集を務める『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』は2021年、2022年にNHKで2シーズンにわたって放送されたテレビドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』の劇場版。2022年にはTwitter(現X)で世界トレンド1位を獲得、「東京ドラマアウォード2022」単発ドラマ部門作品賞グランプリ、月間ギャラクシー賞を受賞するなど、この作品もまた、高い評価を得ている。

「『ある船頭の話』はいろいろな方のお力添えがあり良い作品に仕上がりましたし、ヴェネツィアにも選んでいただき、とても良いデビューの仕方ができたと思います。ただ、その次に何を作るのかと期待されると、キレイなデビューを飾った自分を粉々に壊したくなっちゃったんですよね。それで思いっきりふざけた、しかも映画じゃなくて、敢えてテレビの連続ドラマをやってやろうという思いが湧き起こってしまったんです」

鑑識課警察犬係のハンドラー・青葉一平(池松壮亮)にはなぜか彼にだけ、相棒の警察犬オリバーが酒と煙草と女好きの欲望にまみれた犬の着ぐるみのおじさんに見えている。そんなやさぐれた着ぐるみのおじさん犬オリバーをオダギリジョー自身が演じている。

「長い間、俳優をやっていると、やってない役がもう着ぐるみぐらいしか残っていないような気がして、こうなりました。今回は、この世界がどこまで本当の世界なのか? 色んな次元を行き交いながら、不思議な世界に迷い込む…というような話です。テレビシリーズとはもしかしたら違う世界の一平とオリバーなのかもしれません。今回の脚本は、一旦、テレビシリーズのことはしっかり忘れていいような気持ちで書きました」

近年、急増しているテレビドラマの映画化。意外なことにこの作品を当初、映画にするつもりはなかったと話す。

「ドラマをやって、ある程度評判が良かったからそれを映画にするって、映画に対して、めちゃめちゃ失礼な話ですよね。自分は映画を大切にしてきたタイプの俳優なので、テレビドラマを映画化するなんて、考えられないことでした。ただ、シーズン2が終わり、『もう1本、作ってほしい』と言われて、脚本を書いたのですが、制作費が減少傾向にあるテレビでは採算がとれないことがわかりました。結果的に配信に行くか、映画に行くかしか、道がなかったんです。配信はどういう形であれ、いずれ関わることになるだろう。だったら映画にするしかない。そんな流れでした」

取材中、何度も口にした「映画が好き」という言葉。クールな表情の裏から隠し切れない熱い思いが溢れ出てくる。

オダギリジョーさんの画像
ジャケット¥89,100・シャツ¥53,900(ETHOSENS/ETHOSENS of white sauce)

「映画って、やっぱり劇場で観ないと意味がないんです。大げさではなく全ての設定が劇場で上映されるために調整してあるので、TVやPC、ましてや携帯で観るなんて…、作り手が表現しようとしていた半分ぐらいしか伝わらないはずなんです。家で観て面白いと感じた映画は、劇場ならその10倍面白かったはずですよ。映画はストーリーを追うだけのものではないですからね。劇場で映画の世界にどっぷりと浸かり、五感で体験することが一番ですし、その豊かさに一度、気づいてもらえれば、映画を心から楽しんでもらえると思うんです」

遊び心が溢れた本作にはジム・ジャームッシュやデヴィッド・リンチなど、影響を受けた映画監督たちのテイストが宝探しのようにちりばめられている。特にリンチは『ツイン・ピークス』でテレビドラマと映画を手がけ、さらに25年後、再びテレビシリーズを制作した。もしかしたら、『オリバーな犬』も25年後に続編を考えているのだろうか。

「25年後は74歳…生きている自信がないですね(苦笑)。ただ、年齢のことは気にしなくもないです。上岡龍太郎さんが2000年に58歳で引退された時のことが忘れられなくて。散り際の美学みたいなものに衝撃を受けたんです。“自分にはあと何年あるのか”ということは正直、考えます。今作だって、脚本から考えると既に3、4年はかかっているので、作れてもあと1本かな…と思いますし。俳優だってあと何年やれるかわかりません。来年50歳のタイミングで引退、というのも本当は良いタイミングなんですけどね」

PROFILE
俳優/映画監督 オダギリジョー
俳優/映画監督
オダギリジョー

1976年⽣まれ。アメリカと⽇本でメソッド演技を学び、2003年、カンヌ国際映画祭コンペティション部⾨に選出された『アカルイミライ』(⿊沢清監督)で映画初主演を果たす。以降、『メゾン・ド・ヒミコ』(’05/⽝童⼀⼼監督)や『ゆれる』(’06/⻄川美和監督)など作家性や芸術性を重視した作品選びで唯⼀無⼆のスタイルを確⽴。『悲夢』(’09/キム・ギドク監督)、『宵闇真珠』(’17/クリストファー・ドイル監督他)、『サタデー・フィクション』(’19/ロウ・イエ監督)などにも出演し、海外の映画⼈からの信頼も厚い。初⻑編監督作『ある船頭の話』(’19)は第76回ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズ部⾨に⽇本映画史上初めて選出。同映画は第56回アンタルヤ国際映画祭(トルコ)、第24回ケララ国際映画祭(インド)で最優秀作品賞を受賞。NHKドラマ『オリバーな⽝、(Gosh!!)このヤロウ』(’21,’22/脚本・演出・出演・編集)は、カルト的な⼈気を博し、東京ドラマアウォード2022単発ドラマ部⾨でグランプリを受賞。今年7⽉に公開した『夏の砂の上』(⽟⽥真也監督)では主演・共同プロデューサーを務め、第27回上海国際映画祭で審査員特別賞を⽇本映画としては23年ぶりに受賞。待機作に『兄を持ち運べるサイズに』(中野量太監督)が11⽉28⽇に公開予定。

お問い合わせ先
ETHOSENS/ETHOSENS of white sauce
03-6809-0470

初出:2025年9月27日発行『AdvancedTime』28号。掲載内容は原則的に初出時のものです。

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