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グローバル化と安全基準、電気自動車化の流れの中で均質化が進んでいるとも言える現在、最新のフランス車“らしさ”とはどのようなものだろうか?欧州で絶大な人気を誇るコンパクトSUV「キャプチャー」のマイナーチェンジモデルから、その答えを探っていく。
自動車専門誌『Car Graphic』誌の初代編集長にして、日本のモータージャーナリズムの草分け的存在、小林彰太郎さん(2013年10月没)にお話を伺ったときのことだった。当時、小林さんはシトロエン・エグザンティアのワゴンモデル、ブレークがガレージに収まっていた。個人的にも気になっていたクルマだけに色々とインプレッションをお聞きした。とくに、当時のフランス車に対する最大の懸念事項であったトラブルについてだ。すると小林さんの回答はなんのためらいもなく、実に潔いものだった。
「輸入車を買うと言うことはトラブルも含め、その国の文化に乗ると言うことです。だから外車は楽しいんです、愛おしいんです」
スッと腑に落ち、それ以上の説明を聞く必要などなかった。さらに「トラブルを笑い飛ばすほどの覚悟をすれば、その自虐もまた“カッコ良さ”です」とも。
あくまでも個人的な感覚だが、当時のフランス車はシトロエンに限らず、トラブルなど気にしていたら、とても買えたものではなかった。一方で、その覚悟がある者だけは、極上とも評される乗り心地や、少しカッコつけて言えばパリの街角にそっと佇む雰囲気を味わうことが出来た。
個性的で大胆、独創的な造形と奇抜なアイディアに溢れたデザインと、コンパクトでも室内は広く、視界もよく、荷物が積みやすいという合理的パッケージ。その走りも大排気量エンジンによる力任せのものではなく、むしろ『小さなエンジンで大きなボディを』という合理性が貫かれていた。さらに、魔法のじゅうたんなどと表現されるしなやかな乗り心地と、細いタイヤと軽い車体が実現してくれた軽快なハンドリングは『一度味わうと癖になる』などとも言われた。
こうした『大きなエンジンに大きなボディほど偉い』といった価値観が支配的だった時代に、やはりフランス車は“異端”だったかもしれない。同時にコストより合理性重視という姿勢と論理的な設計は、知的で文化的なイメージを醸成した。そんなクルマに乗る少数派は、日本において、こだわりの強いマニアックな選択をする人であり、言わば通好み(自己満足も含め)とも映っていたのかもしれない。
それから数十年、さすがに今どき「フランス車に乗るならトラブルぐらい覚悟しないさい」とか、ましてや「トラブルも輸入車の文化」などと真顔では言えない。なりより最近のフランス車を含めた輸入車で、致命的なトラブルを我慢しなければいけないような状況は多くはないはず。皆、日本の酷暑の中でもエアコンを効かせながら町を駆け抜けている。
まさに隔世の感ありだが、グローバル化と安全規制、電動化の波の中で、「クセ」よりも万人受けする方向にシフトしたのはクセ強のフランス車であっても、変わりはない。デザインは洗練されつつも華やか。その上でルノーもプジョーもシトロエンもブランドアイデンティティの確立のため、どのフロントも個性的で押し出し感が随分と強めになったと感じる。クセになるという乗り味も、欧州車らしいしっかり感が強くなり、かなり引き締まった印象。かつての良き味わいだった「フワフワ感」は減少する一方で、快適性とスポーティさを両立することによって、高速安定性や静粛性は大幅に向上している。
その上で時代に則した電動化や先進装備を満載。ルノーで言えばフルハイブリッドの「E-Techハイブリッド」や、プジョーなどに搭載されている「PureTechターボ」と言った先進のパワートレイン、さらにADAS(先進運転支援システム)の標準化などと、抜かりはない。ハード面では総じてユーザー目線が強まり、クセよりも使いやすさや時代性を優先したことで、20世紀のブランドイメージにも変化があった。かつての“変わり者”から、デザイン重視の実用車へと変革を遂げ、平準化が進んだとも言っていいだろう。
では今、最新のフランス車が示してくれる“らしさ”とはどのような個性なのだろうか?
その答えを得るためにステアリングを握ったのは、ルノーのBセグメントに属する「キャプチャー」。世界的な激戦区と言われるコンパクトSUVの人気車種で、欧州のSUV市場全体でベストセラーを続け、今回のマイナーチェンジモデルが登場する2025年6月まで、世界で200万台以上がデリバリーされた人気モデルだ。そのマイナーチェンジモデルともなれば最新の“フレンチらしさ”を探るにはうってつけのモデルだろう。
キャプチャーと言えば、初代モデルが2013年に登場すると個性の強い“クリオ(日本名:ルーテシア)顔”と、ルノーならではの実用性の高さの両立によって人気モデルとなった。2019年に現在の2代目モデルへと進化しても、高い支持を得つつ、今回のマイナーチェンジが施された。
マイナーチェンジによる変更点はフロントフェイスの大胆な変更をはじめ新しいエクステリアデザインと、2種類のハイブリッドをパワートレインとして用意したこと。まずストロングハイブリッドの「フルハイブリッドE-TECH」は1.6Lの直列4気筒ガソリンエンジンNAエンジン(自然吸気エンジン)に「Eモーター」とスタータージェネレーターの「HSG」、そしてモータースポーツによく用いられるドッグクラッチを組み合わせた、ルノーならではの独創的なストロングハイブリッドシステムだ。スポーティな走りと共に、輸入車SUVでクラスナンバーワンとなる23.3km/Lの低燃費を実現している。
そしてもうひとつが、今回ドライブを共にこなしてくれたマイルドハイブリッドシステムの「キャプチャー・エスプリ・アルピーヌ・マイルドハイブリッド」だ。パワートレインはフルハイブリッドE-TECHとは大きく違い、どちらかと言えば電動車というより、純粋なエンジン車のようなフィールを感じながら軽快に走れる。158馬力と270Nmを発生する1.3Lの直列4気筒ターボエンジンに12Vリチウムイオンバッテリ、7速EDC(エフィシェント・デュアル・クラッチ)が組み合わされていること、さらにフルハイブリッドE-TECHよりも90kg軽量である事が、軽快にしてスポーティという“フレンチらしさ”をしっかりと感じさせてくれる。
ここでフランス車好きというか、モータースポーツ好きにとって気になるポイントがひとつ。今回の変更によって「エスプリ ・アルピーヌ」の名前が添えられたモデルを、フルハイブリッドにもマイルドハイブリッドにも用意したのだ。ルノーのスポーツカーブランドにしてルノーグループのフラッグシップブランドという位置づけにあるアルピーヌ。そのエスプリ(スピリット)、そのエッセンスを感じさせる仕様がメインのラインナップとなっている。他にもベーシックな、というか素のマイルドハイブリッドの『techno MILDHYBRID』もあるが『今どきのフレンチ濃度』を高めるとすれば、エスプリ・アルピーヌがより相応しいかもしれない。
いまだにシートの良さや独特のデザインセンス、そして街乗りでの乗り心地はフレンチならではのしなやかさを味わったところで、コーヒーブレイクのポイントに到着。エスプリ・アルピーヌならではの19インチというアルミホイールは、ひょっとするとこのコンパクトSUVにとっては多少大げさに映る。だが新型キャプチャーの佇まいはけっして悪くない。
薄型LEDヘッドライトを備え、印象的なブロック模様を並べたグリルとフロントバンパーとが組み合わされたシャープなフロントマスクは、変わりなく印象的だ。もちろん旧モデルの面影がほとんど残ってはいないが、基本的なフォルムは変わりがなく、そのマッチングにも違和感がない。
確かに以前、フランス車はクセが強く、独創的であり、それが乗る人を選んだとも言われたかもしれない。それに比べれば、良くも悪くも“普通になった”と感じる人も多いだろう。だが一方で冷静に考えれば、伝統的な快適さや手頃感、さらには日常での使いやすさはそのままであり、独自のデザインやメカニズムも備わり、輸入車としておしゃれな選択肢の1台であることには変わりがない。それは新型キャプチャーと共に過ごしてみて十分に理解できるのだ。これほどの仕上がりがあれば、もはや『単なる好事家の選択』ではない。なにより『フレンチ好き』ならば、随分とフランス車の間口を拡げ、フランスの文化を活かしたクルマ作りを喜ぶべきかもしれない。
主要諸元 | |
全長×全幅×全高 | 4,240×1,795×1,590㎜ |
車両重量 | 1,330kg |
駆動方式 | FF |
エンジン | 1,333cc 直列4気筒DOHCターボ |
最高出力 | 158PS(116kW)/5,500rpm |
最大トルク | 270N・m(27.5kgf・m)/1,800-2,500rpm |
モーター最高出力 | 5PS(3.6kW)/1800-2500rpm |
モーター最大トルク | 19.2N・m(2.0kgf・m)/1800rpm |
WLTCモード燃費 | 17.4km/L |
車両本体価格 | 409万円(税込み)~ |
AUTHOR
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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Writer: Atsushi Sato
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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