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この秋、映画化され話題を集めている小説『ある男』を、著者である平野啓一郎がナビゲート。第8回は、映画監督・石川慶氏を迎えて、映像化でのこだわりどころをフリートークします。
連載「大人の読書タイム」第8回目では、 平野啓一郎が、映画『ある男』の監督・石川 慶さんに製作の背景や思いを聞きながら、それぞれの魅力や見どころを語り合います。
※第7回、『ある男』の面白さとは?の記事を見逃してしまった方や、もう一度ご覧になりたい方はこちら
~あらすじ~
弁護士の城戸は、依頼者・里枝から亡くなった夫「大祐」の身元調査を相談される。夫婦は結婚して幸せな家庭を築いていたが、夫は不慮の事故で命を落とす。弔問に訪れて遺影を見た夫の兄から、「大祐」でないことを知らされたのだった。里枝が愛していた人物は誰なのか。城戸は調べていく中で、本来の出自から逃れ、全く別人として生きていた「ある男」にたどり着いていく…。
対談者:石川 慶
東北大学で物理学を専攻。卒業後、監督を志してポーランドの国立映画大学に留学し、演出を中心に学ぶ。帰国後の2017年、貫井徳郎の小説を映画化した『愚行録』で長編映画デビュー。恩田睦の小説を映画化した『蜂蜜と遠雷』は、日本アカデミー賞優秀作品賞を受賞。2022年、『ある男』を映画化。
平野啓一郎(以下、平野):本日はお忙しいところありがとうございます。ちょうど今日、報知映画賞の発表があり、映画『ある男』が作品賞を受賞ということで、おめでとうございます。
石川 慶(以下、石川):ありがとうございます。本当に良かったです。スタッフも喜んでいます。
平野:内容的なことを伺いますが、原作小説は結構長いので、2時間の映画作品にするのは簡単なことではないと思います。最初に思い描いていたイメージと、最終的に出来上がったものでは、変わった部分もあったのでしょうか?
石川:いろいろと試行錯誤がありましたが、シナリオが出来てからは大きくブレることはありませんでした。 シナリオを作る前に自分が書いたメモを、今日読み返して思い出したんですが、城戸を主役として、物語をどういう風にしていくのか、映画の中で城戸の内面的な変化を一体どうやって見せたらいいんだろうって、すごく悩んだんです。小説『ある男』の城戸に関しての描写を、僕自身とても没入して読んでいたし、絶対落としたくないと思いながらも、そのまま映像にはどうしてもできないというジレンマを抱えていました。どうやったら城戸の話になるのかを、いっぱい事前メモに書いていましたね。
そこの背骨が一本通ってしまえば、「X」という人物の中身、名前がめまぐるしく変化していくのも、ある意味エンタメとしてものすごく面白い武器になるだろうと思いながら、その背骨がないと、ただただ混乱してしまうだろうと、そこがシナリオを作る上での一番大きい課題でした。
平野:一週間前に、イスラエルの小説家であり、映画やドラマ監督でもあるウズィ・ヴァイル氏と対談したんです。彼が英語版の僕の本を読み、『ある男』もすごく気に入ってくれて、映画化されたと聞いて、「城戸の内面描写がすごく詳しいので、どういうふうに映像化したのかすごく興味がある」と言われました。
石川:監督によってはそのままモノローグにしてしまう場合もあるだろうし、それをまた全然違うシーンにする人もいるだろうし、また第三者を登場させてそれを際立たせるという手もあると思います。おそらく誰が映画化したとしても、全然違うものになっただろうなと思うんです。
石川:城戸の内面を表現するにあたり、脚本家の向井康介さんとは、「何か映画的な仕掛けをしたいね。」ということをずっと話していました。でも、モノローグはちょっと考えられないし、大筋は変えたくないから、変に他の人物を登場させるというのも嫌でした。基本的に城戸は聞き役にはなるのだけれども、聞きながらどんどん城戸の中で何かが鬱積していく、という表現をしたいと向さんと話しながら作っていきました。
それは僕の以前の作品、『愚行録』でも映画的に試みたことなんですが、例えば、城戸の最初の登場シーンでは、飛行機の騒音の中で光が眩しく窓を閉めるとか、城戸の家の近くで工事の騒音がずっと鳴り響くシーンを入れるなど、何か城戸に常にプレッシャーを与えるようにしたのです。その一つひとつに、名前の塗り替えを象徴するようなシーンを配置していくことで、映画を見ている人の中に、段々、鬱憤のようなものが溜まっていって欲しい。そういうような方向性で、シナリオを組んでいきました。
STAFF
Photo: Manabu Mizuta
Movie: Cork
Text: Junko Tamura
Editor: Yukiko Nagase,Kyoko Seko
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