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“ローイング ブレザーズ”でトラッドスタイルをリフレッシュした人物は、アカデミズムやスポーツマンとしての経験に裏打ちされた知性と感性で、アメリカの老舗ブランドに、オーセンティックかつリアルな存在感をもたらしている。
9月中旬に開催された2026年春夏ニューヨーク・ファッションウィーク(NYFW)では、“トッド スナイダー”など、メンズウエアの存在感が際立っていた。そして、会期中に注目されたのが、老舗ブランド“J.PRESS(ジェイ プレス)”のクリエイティブディレクター兼プレジデントに、ジャック・カールソン氏が就任したというニュース。さらにカールソン氏のディレクションによる“J・プレス”2025-26秋冬コレクションがニューヨークのエクスプローラーズ・クラブで披露され、アメリカン・トラディショナルの軸を堅持しながらも、現代的なエフォートレス感のあるカラフルなスタイルが多数登場した。
1902年にコネチカット州ニューヘブン(ニューヘイブン)のイェール大学前に、ジャコビー・プレス氏が創業した“ジェイ プレス”。イェール大の学生と出身者に支持され、アメリカのアッパークラスが愛用する装いとしてその名は知られるようになった。1960年代、日本でいわゆる「アイビー」や「トラッド」といったスタイルが流行する中で、“ジェイ プレス”はそのオリジナルのひとつとして紹介され広く認知された。
21世紀に入ると、“トム ブラウン”や“バンド オブ アウトサイダーズ”といったブランドが登場し、クラシックなアメリカン・スタイルが新たな局面を迎える一方、かつての日本におけるアメリカン・スタイルの受容と発展が、独特なカルチャーとして、アメリカやヨーロッパなどで話題となった。アイビースタイルを紹介した1965年刊の書籍『TAKE IVY』の英語版や、デイヴィッド・マークス氏の著作『AMETORA』などが刊行され、アイビーやプレッピーといったスタイルも再評価されて、人気を博するようになったのだった。
“ジェイ プレス”のクリエイティブディレクターに就任したジャック・カールソン氏は、そんなクラシック・スタイルのリバイバルを担ったひとりだった。彼は2017年にニューヨークにてブランド“Rowing Blazers(ローイング ブレザーズ)”を創設し、ストリート感覚とアイビー&プレッピー・スタイル、そしてスポーツウエアを巧みに融合したコレクションで人気を博した。
カールソン氏は英国オックスフォード大大学院で考古学の博士号を取得、また併せて同大のローイングクラブに所属して、世界選手権アメリカ代表のコックス(舵手)も務めた人物。彼は2014年に漕艇競技の選手や関係者が着用するブレザーに関するヴィジュアルブック『Rowing Blazers』を執筆・刊行し、ラルフ・ローレン氏ほか多くの関心を集めたこともあり、ブランド設立に至ったのだった。その後2024年にカールソン氏は“トリー バーチ”の共同オーナーが運営するバーチ・ クリエイティブ・キャピタルに“ローイング ブレザーズ”を売却。その動向が注目されていたところでの、“ジェイ プレス” クリエイティブディレクター兼プレジデント就任の報だった。
「私は J.PRESS とともに育ってきました。ハーバード・スクエアの店舗によく通い、自分用に初めて購入したスーツ、シャツ、ネクタイ、ベルトの多くは J.PRESS でした。今でもそれらを大切にしています。今回の自身の役割は、多くの意味で故郷に帰ってきたような感覚です。ボタンダウンシャツ、カーキのパンツ、ブレザー、シャギードッグ。J.PRESS には、自分の感性に響くちょっとした遊び心を持つ一面もあるのです。そうしたすべてを尊重し、それを軸にシーズンごとのコレクションやコラボレーションを展開し、より多くの人々と分かち合いたいと思っています。J.PRESS はまさにひとつの確立された存在で、多くの意味で唯一無二のものなのです」(プレスリリースより引用、ジャック・カールソン氏のコメント)
NYFW会期中にショー形式で披露された2025-26秋冬コレクションは、カールソン氏の個性と“ジェイ プレス”の不変の価値がミックスしたものといえるだろう。例えばブランドのアイコンであるシャギーニットは鮮やかな色が印象的。そしてタイドアップにラガーシャツを合わせたスポーツミックスなコーディネートや、スクールカラーやレジメンタルストライプをパッチワークしたウエストコートなど、クラシック&トラディショナルな要素が大胆に組み合わされている。服飾関係者からは「伝統主義者的」と揶揄されがちな動物などの刺繍があしらわれたパンツも、このコレクションにおいてはむしろ自然な存在感がある。
さらに、既にアメリカで展開されている“ジェイ プレス”のアイテムからは、同ブランドならではの服づくりを継承し発展させる意思が感じられる。ジャケットやスーツなどのテーラード・ウエアはアメリカまたはカナダのファクトリーで生産され、身頃にダーツを設けない、ナチュラルショルダーのアメリカンなリラックスシルエットを、ソフトなテーラリングで現代的に実現している。アイコニックなフラップ付きポケットのボタンダウンシャツなども、メイド・イン・USAで展開されている。
今年はアメリカ国内に新たに2つ以上のショップをオープンする予定という“ジェイプレス”。アイビー&プレッピー・スタイルに関して、その核となる価値観を、経験や研究を通じて深く理解しているカールソン氏が手がけるコレクションは、オーセンティックながらも、生き生きとした、現代においてリアルな装いに仕上がっている。クラシック・スタイルの奥深さ、魅力やポテンシャルを、改めて認識させる展開といえるだろう。
AUTHOR
『エスクァイア日本版』(エスクァイア マガジン ジャパン)編集部を経て、『メンズプレシャス』(小学館)などでメンズファッションやデザインプロダクト、カルチャー等の企画を担当。それらの傍ら、紳士靴の雑誌『LAST(ラスト)』を創刊し編集長を務める。現在は『Advanced Time』本紙とオンラインのほか、さまざまなメディアにて、ファッションやライフスタイル分野でエディターまたはライターとして活動している。
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Writer: Yukihiro Sugawara
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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余計なのもを削ぎ落として、シンプルに、自然体で生きるって、いいなぁとしみじみ思います
努力した自分を認めて、信じて、 きっとできる、大丈夫って