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──実際に被災した家で撮影していますが、苦労も多かったのではないですか。
「やはり、大変でした。ロケハンの際もただ、家を借りるというわけにはいかないので、皆さんから『この部屋は息子の部屋で』『ここにはおじいちゃんの仏壇が』といったお話を聞いているうちに胸が痛くなりました。当然のように、どの家にも思い出があります。鹿賀さんの寝ているお部屋は本来なら横にもなれないような大きな穴が開いてしまっていたので、畳を渡して、なんとか一人分、横になれるようにしました。狭いので、モニターは薄い壁を隔てた隣の部屋にありました。画面を見ながら、『スタート!』って声をかけても、電波が途切れて、『監督、どうでしたか』って聞かれても、全然、何も見えていなかったりして(笑)。インフラが整っていない状況なので、当然ですけど、被災地で撮るのは大変です。こんな状態にあるのに皆さんが協力してくれたことに感謝しています。冒頭の体育館の食事を配布しているシーンは最初、エキストラの方をお願いしていました。体育館内には実際に30個ぐらいテントが張ってあり、家に帰れない人たちが避難していたので、失礼のないように静かに隠れるように撮影していたたんです。ところがニコニコ見学している被災者の方がいたので、思い切って、『良かったら、出てみませんか』と助監督に声をかけてもらいました。皆さん、家をなくしているのに、元気で楽しんでくれて、束の間、いい思い出になったと喜んでくださって、僕たちの方が勇気づけられました。皆さん、本当に穏やかで、そういう方が多かったですね」
──鹿賀さんの反応はどうでしたか。
「金沢生まれということもあり、僕が細かく説明せずとも、やると言ってくださって、頼もしかったです。ハードなスケジュールにも何一つ、文句を言わないどころか、『これは僕にとっても必要なことだし、こういう映画を作ることは大事なことだと思う』と何度も言ってくださいました。危険なので、撮影は5日間だけだったんです。だから、朝早くから夜中までびっしりのスケジュールになってしまい、鹿賀さんはほぼ出突っ張りですから、申し訳なかったです。とても優しい方なのですが、これほど存在感のある役者さんはいません。鹿賀さんに出ていただいて、本当に良かったと思っています」
──30分、あっという間ですが、能登の文化や自然、住んでいる方の人柄、メッセージまで、存分に入っています。
「本音を言えば、もっと長くして、丁寧に描きたいところもありましたが、押し付けがましくしたくなかったんですよね。実際に人から聞いた言葉でも、物語になると今度はそれが意味を持ってしまうから、これ以上の台詞はいらないかなと思ったんです」
──住民でボランティアセンターの職員役である根岸季衣さんの「ここは忘れ去られるよ」という言葉が強烈に突き刺さります。
「根岸さんは『実際に住んでいる人間ではない私にとって、この台詞を言うのは本当に辛い』と言葉に詰まって、何度も撮り直しました。僕らは直にそういった言葉をたくさん、聞いていました。気持ちはわかりますが、生きる気力を失ってほしくない。どんな小さなことでも希望を持って欲しい、喜びを見つけるだけでもいい。それは1人では作れない。やっぱり、人と出会ってこそ。どんな小さなことでも、何か一つでもできることがあればと思って、また映画の上映が始まる時期にボランティアで伺いたいと思っています。もう1回、人と出会って、いろいろな声を聞いてきたいと思っています」
脚本・監督・企画:宮本亞門
出演:鹿賀丈史、常盤貴子、小林虎之介、津田寛治、根岸季衣
上映時間:28分
併映:ドキュメンタリー
監督・編集:⼿塚旬⼦
上映時間:38分
6月20日(金)石川県先行公開
7月11日(金)シネスイッチ銀座 他順次公開
宮本亞門/みやもとあもん 1958年1月4日東京・銀座生まれ。2004年に東洋人初のブロードウェイ演出家として「太平洋序曲」をオン・ブロードウェイで上演し、トニー賞4部門にノミネート。2023年NHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」でテレビドラマ初出演。2024年には高田賢三が衣装を担当したプッチーニのオペラ「蝶々夫人」の日本凱旋公演を行った。企画・演出・脚本を手がけた舞台「生きているから~対馬丸ものがたり~」が8月16日、那覇市の那覇文化芸術劇場なはーとで上演。演出を務めた舞台「新 画狂人北斎 -2025-」は10月17日から東京・紀伊國屋ホール。
MOVIE WRITER
髙山亜紀
フリーライター。現在は、ELLE digital、花人日和、JBPPRESSにて映画レビュー、映画コラムを連載中。単館からシネコン系まで幅広いジャンルの映画、日本、アジアのドラマをカバー。別名「日本橋の母」。
STAFF
Movie Writer: Aki Takayama
Editor & Composition: Kyoko Seko
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