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元週刊プレイボーイの編集長であり、現在はエッセイスト&オーナーバーマンの島地 勝彦が語る『お洒落極道』。第二回はアースカラーのセラミックウォッチと共に想い出を語る。
ロシアが理不尽に仕掛けたウクライナ侵攻をテレビで見ていて、戦争は多くの無垢な人間が殺されていくのは悲惨なもので胸が痛む。どのような結末を迎えるか想像もつかないが、ロシアの圧倒的な戦力を前に、ウクライナは最新の無人ドローンで戦力を補い、必死に抵抗している。戦争とは多くの悲しみをもたらすが、人類にとって時には貴重なものも産み落とすのである。2つの世界大戦を振り返ってみると、航空産業の発展に繋がった戦闘機もそのひとつだった。
シマジは、第二次世界大戦当時、世界の大空で大活躍した戦闘機のマニアで、わたしがオーナーを務める西麻布のオーセンティックバー、サロン・ド・シマジの地下6メートルある天井から、各国の戦闘機が勇ましく吊されている。英国の戦闘機・スピットファイア、米国の戦闘機・マスタング、独逸の戦闘機・メッサーシュミット、そして日本が誇るゼロ戦だ。それらがエアコンの風に乗って、まるで飛んでいるかのように見えるのだ。なかでも英国空軍が誇る戦闘機、スピットファイアがお気に入りだ。その頃の航空機にはGPSやレーダーなどがなかったため、飛行機のナビゲーションのために時計による位置確認が不可欠だった。こうしてパイロット・ウォッチは生まれたのである。
スピットファイアの名を冠したパイロット・ウォッチをIWCが発表しているのは知っていた。なぜならシマジが生まれる前年の1940年にビッグ・パイロット・ウォッチを開発したというのを聞いていたからである。しかしながら、今回手に取ってみたのは、同じくパイロット・ウォッチでも「トップガン」ラインのアースカラーをした“モハーヴェ・デザート”モデルだった。
シマジが週刊プレイボーイの副編集長だった頃、このモハーヴェ砂漠に行ったことがある。アラーキーこと、天才写真家の荒木経惟を起用して「世界の女を喰う」という企画でアメリカへ撮影旅行に行ったときのことだ。アラーキーとまずニューヨークのフルボディの美女をカメラに収めて、ロサンゼルスで集英社のロサンゼルス支局長の奥山長春と合流することになっていた。そこで一仕事を終えると、少し離れた砂漠地帯に娼館が軒を連ねているから、そこの女性たちを撮影しに行こうということになった。
ロサンゼルスを車で出発すると、3時間ほどひたすら砂漠地帯が続いたのを覚えている。モハーヴェ砂漠には廃棄された飛行機が1000体ほど並ぶ「飛行機の墓場」というのがあって現在では名物になっているが、その当時はまだ数が少なかったせいか素通りしてしまった。IWCによると、アメリカ海軍の戦闘機搭乗員養成機関“トップガン”の飛行訓練学校もこの近くにあるという。アメリカ軍では第2次世界大戦あたりに戦闘機の機首に派手なイラストを描く「ノーズアート」が流行った。戦闘機への愛着や戦意高揚を促すのが目的で、好まれたモチーフは女性の裸体やセクシーな衣装姿の、いわゆる「ピンナップガール」だった。メメント・モリを表現するスカルモチーフも定番だが、ピンナップガールとはなんとも人間味が溢れているではないか。モハーヴェ砂漠の娼館の女性たちも戦闘機のイラストのモチーフになって、飛行機の墓場のどこかにいたのかもしれない。
トップガンの飛行訓練がこのモハーヴェ砂漠で行われていることから、IWCのパイロットシリーズから「ビッグ・パイロット・ウォッチ・トップガン”モハーヴェ・デザート”」が発表されている。時計の文字盤から、ケース、ベルトまで、荒涼とした砂漠のアースカラーでまとめ上げた。ケースは人の肌色にも近いサンドカラーのセラミック製となっていて、精鋭パイロットが担う厳しい環境でも平気な耐傷性を備え、美しさを保持してくれる。5月下旬からは、トップガンを舞台としたトム・クルーズ主演の映画『トップガン マーベリック』も公開されるというから、IWCのパイロット・ウォッチもいっそう注目が集まるに違いない。映画を観ればわかるように、パイロット・ウォッチには精悍なブラックが多い。しかしこのサンドカラーの時計を見ると、当時出会った女性の柔肌を想い出してしまうのである。
気温の低い上空で手袋をしていても操作できるように大きなリューズを備えた、IWCを代表するビッグ・パイロット・ウォッチをベースに、サンドカラーのセミラックをケースに採用。高効率の巻き上げを実現したペラトン自動巻き機構や、2つの香箱を備えて7日間のパワーリザーブを実現した自社製キャリバー52110を搭載する。ケース内部は、航空機の多くの機器から発せられる磁気によって、時計の精度の影響を受けるのを防ぐために軟鉄製インナーケースを備え、磁気の影響から保護している。ケースバックにはトップガンのロゴのエングレービングが施されている。自動巻き。セラミックケース。ケース径46㎜。199万6500円。
大学卒業後、集英社に入社。「週刊プレイボーイ」編集部に配属され、1982年には同誌の編集長に就任し、100万部の雑誌へと育て上げた。その後「PLAYBOY」「Bart」の編集長を務める。柴田錬三郎、今東光、開高健、瀬戸内寂聴、塩野七生をはじめとした錚々たる作家たちと仕事を重ねてきた。「お洒落極道」「お洒落極道 最終編」(小学館)など著書多数。現在は西麻布にあるサロン・ド・シマジにて、バーカウンターの前に立つ。
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