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2025年、国際的なシティガイド・メディア『Time Out』の年次ランキング「世界で最もクールな街」1位に選ばれたのは『本の街』として全国的に知られる東京・神保町(東京都千代田区神田神保町1~3丁目および周辺地域)。多くの出版関連産業が集まる知的集積度の高い、当編集部の“地元”でもある。神保町の魅力をAdvancedTimeが扱うラグジュアリー・ライフの文脈で捉えると、「知的好奇心こそ、人が叶えられる最高の贅沢」というテーゼが導き出せる。の、だが・・・、いったい『本の街』と『贅沢』に何の関係が?と思われる向きも多かろう。そこで、本連載では、神保町に点在する“クール”な場所を訪ね歩くことで、『知的ラグジュアリー』を支える街の魅力を明らかにしていく。欧米系メディアがなぜ「クールな街」と称揚したのか。それは『贅沢』というものの本質に迫ることでもあった。
本との出合いの多様化を企図し、2017年に仏文学者・鹿島茂氏を中心としてスタートした書評サイト、『ALL REVIEWS』。その後、実店舗としてシェア型書店『PASSEGE』(2022年)をすずらん通りに、ブックカフェ『PASSAGE bis! BOOKS&CAFE』(2023年)を同3階に、シェア型書店『SOLIDA』(2024年)を靖国通りにと、神保町でやつぎばやにオープンさせ、絶え間なく変化するこの街を象徴する動きとなっている。

シェア型書店とは、店内の棚やスペースを分割し、棚主と呼ばれる個人や法人などが自らのスペースに売りたい本や商品を置くスタイルの書店。自費出版や好きな著者の本をはじめ、さまざまな商品を販売できる。シェア型書店の棚はひとつの表現活動でもあり、書き手と読み手の往還関係が生まれる場所でもある。
『神保町は特別な街。取って代われる場所はどこにもない。かつて、出版界で“神田村(出版関連産業が一定地域に集積していることを指して言われた)”と言われていたことが、今にして分かる。』(『ALL REVIEWS』営業企画・今津美帆氏)。
約130店舗の書店・古書店(『BOOKTOWNじんぼう』)が存在し、かつて神田五大学と言われたように学生が多い街でもある(現在も明治大学、日本大学、専修大学をはじめ大学・教育機関が多く立地する)。本を媒介とした知的需要と供給の好循環に呼応して、都心では激減した独立系の喫茶店が多く健在であること、神田カレーグランプリでも有名となったカレー店の集積はもとより、スポーツ用品店や楽器店といった、さまざまな専門店街が形成されてきたのも、学生が闊歩してきた街であることと関連している。
時代が下るとともに、多くの要素が形を変えながらも存在し続けてきたことで、歴史の蓄積に伴った深みが醸成されてきた。

「神保町の古書店はちょっと敷居が高いと、自分自身も感じることがある。(シェア型書店の)『PASSAGE』も『SOLIDA』も入りやすいお店なので、ここを覗いてから、他のお店にも入ってみようかなと思ってもらえたら良い」(同前)
「世界で最もクールな街」、との称号も相まってか、休日ともなれば、デートスポットとして訪れるカップルも多く見受けられる。オールドメディアとしてわき役へと追いやられたかに見えた本の世界を、ボーンデジタル世代が再発見したともいえるだろう。街の雰囲気も、『PASSAGE』が出店した2022年頃から、若々しく更新されてきたようだ。磁場の形成というと大げさに過ぎるだろうが、『本の街』が魅力的な場所として各世代を引き付けているという事実からも、“知的好奇心が、余暇を満たす贅沢な体験として成立”していると言える。さまざまな時代の古層が露出している神保町には、世代を超えた抗えぬ魅力があるのだ。
その知的好奇心を、街から受け取るだけでなく、自らも発信する。シェア型書店の棚はひとつの表現活動であると先に記したが、今津氏は、
「表現活動を行うこと自体のハードルは下がっているが、今は表現の場が増えている。本を出すのではなく、例えば(webサービスの)noteに書けばそれで良い、という人もいる」とした上で、
「創作活動は、ひとりで黙々と執筆に向かう、というような孤独な営為でもあるが、ここに棚を置くことで、ほかの棚主との交流や、様々な表現者と会えることが支えになると、よく言われる。『神保町に自分の棚が有って、そこに自分の本を置けるという価値』を感じる人が850人(現在の棚主数)いる。それだけ多くの人が背後にいてくれる、味方になってくれているという心持ち」も、我々の価値だと話す。
エコーチェンバー効果が指摘されるSNSでの交流より、隣り合った棚に有名・無名問わず、さまざまなタイプの表現者が並ぶ多様性こそ、居場所として適切なのだろう。

先に触れた鹿島茂氏は「本を本来の姿である『耐久消費財』に戻さなければなりません」(ALL REVIEWSのWebsite“はじめに”)と述べている。
流行を追いかけるショート・セラー(消費財)から、流行を創り、世代を超える知的なロング・セラー(耐久消費財)へと、本の役割を取り戻すこと。『PASSAGE~』各店舗をはじめ、今後の連載でも触れる神保町におけるさまざまな試みが、本という知的なオブジェクトを、価値あるものとして更新しようとしている。
さて、AdvancedTime読者にとっては身近な、ラグジュアリー・ブランドの持つ価値観と比べたとき、「価値あるものとして更新する試み」は、本と同様だと、お気づきだろう。世界が認めるラグジュアリー・ブランドは流行を追いかけず、自らが流行を創りだし、世代を超える本質的価値を確立してきた歴史がある。
本の世界になぞらえるなら、古典(本質)として価値を確立した上で、現代の読者(顧客)のために読みやすさなどの工夫(アップデート)を凝らし、変わらぬ価値を発信し続けてきたことと同様だ。知の集積物である本と、知財でもあるブランド品は、ともに『知的ラグジュアリー』の産物なのである。

まず重要なのは、次世代への継承という点だ。ブランドの本質とは、美品であるとかの具象ではなく、その品に込められた物語(ナラティブ)である。自らの好奇心の発露から得たさまざまな知見や創作を、本(自費出版)という形にまとめて残すことが、本質=「あなたの物語(私の本)」を生み出すことになる。「あなたの物語」に、唯一無二のブランド価値があると言い換えてもよい。『Time Out』の言う「世界で最もクールな街」とは無二のブランドを持つ街、ということ。「あなたの物語」が本の形を取り、時代を超えることが『知的好奇心を満たす』、贅沢な到達点となるだろう。
そのような本を手に取ろうと、世界が集う、神保町。
「知的好奇心が、余暇を満たす贅沢な体験として成立している」、この街の磁場のひとつが、『PASSAGE』をはじめとしたシェア型書店なのだ。

そして、この街で、自己表現を本にして世に問う“究極の贅沢”=自費出版をサポートする、もうひとつの磁場として、この街に1969年に創業し、『知的好奇心』を形にしてきた出版社、小学館スクウェアを紹介しておきたい。
小学館スクウェアは、AdvancedTimeを発行する小学館のグループ会社で、個人、法人を問わない自費出版、カスタム・パブリッシングの編集・制作をはじめとし、多くの表現者をサポートしてきた実績を持つ。「知的好奇心」を体現する“クールな街”となった神保町の価値を誰よりも知る、本づくりのプロフェッショナル集団だ。近年は、自費出版をより手軽に実現させるため「小学館スクウェア新書」「小学館スクウェア文庫」シリーズを開始するなど、精力的に活動している。
「『誰かが持ち歩く、あなたの物語。』というキャッチコピーで、(新シリーズを)2026年4月に立ち上げました。自分の得意分野について考えを広めたい人、創作した物語や自伝を本にしたい人(など)の本づくりをお手伝いします」(『小学館スクウェア』担当・鶴真寿美氏)。

「知的好奇心」を愉しむために必要なインプットやアウトプットは、神保町においては、特に難しい事ではない。
まずは、神保町をぶらりと歩き、さまざまな表現者たちの営為に刺激を受けながらインプット。自分が表現すべきこと、伝えたいことを、ゆるり、と考えてみる。本だけでなく、喫茶店でも楽器店でも、この街には知的好奇心を刺激する何かがあふれている。
そして、自らの思いを形にするためのアウトプットこそ、この街のプロフェッショナルの力を借りよう。表現の場として『PASSAGE』のようなシェア型書店などがあり、表現を形にするなら、小学館スクウェアが選択肢となるだろう。
本連載では、今後も、「知的好奇心」を求める世界中の人々が磁場を形成しつつある、東京・神保町のホットスポットを紹介していく。
STAFF
Photography and text by KAMIYAMA Atsuyuki(SHOGAKUKAN SQUARE INC.)
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