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映画から舞台、海外のドラマまで、精力的に活動する、南果歩さん。自分らしくいたいから、着たいものを着て、食べたい順に食べて、やりたいこと順に実践していく… そんなポジティブでしなやかな彼女の生き方にせまる。撮影中のスタジオには、南さん愛用のスピーカーからシーアのナンバーが流れていた。
「シーア、大好きなんです」声を弾ませる南果歩さん。シーアをよく聴くようになったのは3年ほど前にプチ留学でサンフランシスコに滞在していたときからだ。英語の勉強のためにユーチューブで見ていたトーク番組に、シーアがゲスト出演していたことが、きっかけだった。
「シーアはいっとき私生活でのネガティヴなことが取りざたされ、活動をお休みしていたんです。誰からも、もう駄目だろうと思われていた中で、やっぱり歌いたい、というただひとつの思いから『シャンデリア』を発表。見事に復活を遂げました。笑顔でインタビューに答えるシーアを見ながら、自分にとってネガティヴな出来事を全てクリエイティヴに昇華していくって、凄い、シーアのような成功者でも紆余曲折がある、誰しも道は平坦ではないんだって、すごく感じました」
ちょうどそのころ、南さん自身も私的な騒動があり、自分の生き方をどうするかという曲がり角に立っていた時期だった。まさに“平坦ではない道”をたどった南さんが胸の中にあった葛藤のひとつを語ってくれた。
「私が乳がんの手術を受けたのは、今から4年前の3月11日でした。がんの告知を受けたときは、まさか私が……と。その後は闘病でいっぱいいっぱい。キャンサーギフトという言葉がありますが、とてもそういう心境にはなれませんでした。4年以上が過ぎてようやく“今の自分が、からだを健康に保つことを一番の中心に置いているのは、あの経験があったから”と思えるようになりました。一方で、究極を言ってしまえば、死ぬこと以外は何も怖くない、そういう心境にもなっています。だから、誰かに何かを言われるとか、どう見られるかというのはどうでもいい。“自分が納得できる人生を、自分でつくりたい”という思いが強くあります。夢をちゃんと描いて、それを言葉に出して、自分をそういう方向に導いていくようにしています。だから、今では、キャンサーギフトはたくさん受けています(笑顔)」
淀みなく発せられるその言葉には、凜とした響きと、潔さが。
「もともと好きなことには積極的でしたが、人からはいろんなことを突飛にやっていると思われがち。でも、自分の中では“やりたいこと順”にやっているのです。英語の勉強にしても、この年齢からでは遅いのでは、なんて全く気にしなくて、やれるところまでやればいいじゃない、と。“着たいもの”を着る。“食べたい順”に食べる。“飲みたいもの順”に飲んでいます(笑)」
ちゃんとお母さんをしなきゃ、ちゃんと妻をやらなければと、そういうものに囚われていたのかもしれない30代、40代。子育ても終わり、結婚も解消。こうして全てをリセットした50代の南さんは、ひとりになる時間を得た。
「24時間、自分で時間割を決められるようになったことで、やりたいことをやるにはすごくいい環境になりました。でも、こういう環境って、夫婦であってもお互いが精神的に自立していれば可能だと思います」
「それに、人生100年時代とか言われていますが、折り返し地点が50才だなんて考えていません。今の私は、“人生の復路”の準備期間中だと思っています。だから、プライベートでも仕事でも、年齢問わず、場所を問わず、人種を問わず、この人いいなと思ったら関わりたい。ことに仕事は、言語や国を問わず、やりたい役をやりたいと強く思っています」
そんな南さんが出演する映画がある。今、世界で最も注目されている映画監督のひとり、ブリランテ・メンドーサ監督による『義足のボクサー(仮タイトル)』(日本、フィリピン合作映画)。そしてデンマーク、日本、ノルウェー3カ国の合作映画『MISS OSAKA』。2本とも公開は2021年の予定。そして現在公開中なのが、『脳天パラダイス』(山本政志監督)。
「既成概念を吹き飛ばすことばっかりが詰まっている映画です。こんなご時世だからこそ、大笑いしてください」
インタビューに答えている間、時おりテーブルに置いたスマートフォンに触れていた南さん。ケースのデザインは笑顔の“ペコちゃん”。実は、ペコちゃんとスマイルマークが大好きで、夜な夜なネットでグッズ検索しているそう。「この息苦しい世の中で、唯一心を癒してくれるものは笑顔だと思うんです。それに、可愛いとか、きれいという言葉が好き。自分から発する言葉にネガティヴな言葉は使いたくありません。自分に返ってくるので。だって、自分の声を一番聞いているわけだから」
そして帰り際、「そうそう、どうしても伝えたいことがありました」とドアの前で立ち止まった南さん。それは孤独についてだという。 「“ひとりで生きる”という問題は、パートナーがいても、家族がいても、人間誰しもいつかは突きつけられること。でも、孤独をなにか別のもので埋めようとしても埋まりません。自分の知識欲だったり、好奇心で満たしていくのがいいんじゃないのかな。今、私が枕元に置いているのは、岡本太郎さんの語録集。寝る前に好きなところを少しだけ音読するんです」
84年に映画「伽倻子のために」のヒロイン役でデビュー。「螢」「夢見通りの人々」でブルーリボン助演女優賞を獲得。 公開中の主演映画「脳天パラダイス」を始め、「義足のボクサー(仮タイトル)」、「MISS OSAKA」(いずれも文中参照)など、精力的に活動中。
初出:2020年11月21日発行『AdvancedTime』06号。掲載内容は原則的に初出時のものです。
STAFF
Photpes: Takashi Noguchi(SAN·DRAGO)
Stylist: Kuniko Sakamoto
Hair&make-up: Keizo Kuroda(K Three)
Texit: Keiko Hori
Editor: Fukashi Suzuki
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