ポール・スチュアート青山本店5周年記念トークショーにトルシエ氏が登場

ワインとファッションのペアリングを楽しむ夜

去る11月7日に、ポール・スチュアート青山本店の開店5周年を記念して開催された「FRENCH WINE & FABRIC TALK SHOW」。“ポール・スチュアート”ジャパンディレクターの鴨志田康人氏、イタリアのファブリックメーカー“ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(VBC)”のPR&マーケティングアドバイザーの長谷川喜美氏に加えて、今回は特別ゲストとして元サッカー日本代表監督で、ワイナリー“ラ・ベル・ガブリエル”オーナーでもあるフィリップ・トルシエ氏を招待。さらにファッションエディターの矢部克已氏とスタイリストの四方章敬氏が加わり、トルシエ氏のワインを味わいつつ、充実したトークが繰り広げられた。

FASHION Dec 12,2025
ポール・スチュアート青山本店5周年記念トークショーにトルシエ氏が登場

ファッションとワインの共通点とは

左から鴨志田康人氏、矢部克已氏、長谷川喜美氏、フィリップ・トルシエ氏、そしてトルシエ氏の通訳としてもおなじみのフローラン・ダバディ氏の画像
左から鴨志田康人氏、矢部克已氏、長谷川喜美氏、フィリップ・トルシエ氏、そしてトルシエ氏の通訳としてもおなじみのフローラン・ダバディ氏。

鴨志田:このポール・スチュアート青山本店ができて、ちょうど5年です。そしてこのお店から、私は“ポール・スチュアート”のコレクションラインを始めたわけですが、徐々に新しいお客様も増えて、アップデートした“ポール・スチュアート”が徐々に出来上がってきた感覚があります。

今日は5周年のお祝いと、恒例のイタリアの生地メーカー“ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(VBC)”とのコラボレーションのご紹介です。さらに今回は、サッカー日本代表前監督のフィリップ・トルシエさんを特別にお招きしまして、フランス・ボルドーのサンテミリオン地区の、トルシエさんがお持ちのワイナリーのワインをお披露目していただけることになりました。

長谷川:この青山本店がオープンして以来、“VBC”と“ポール・スチュアート”は毎年コラボレーションしてきました。先日トルシエさんとお会いした際、私たちのものづくりの姿勢をお話ししたところ、トルシエさんから共通するものがあるとおっしゃっていただいて、今回ご協賛いただけることになりました。

サンテミリオンのメルローを使った“3.4.3”の「GRAIN BLEU 2020」の画像
サンテミリオンのメルローを使った“3.4.3”の「GRAIN BLEU 2020」。青はもちろん日本代表の色からとられたという。メルロー95%、カベルネブラン5%。

トルシエ:ポール・スチュアート青山本店5周年、おめでとうございます。ファッションブランドでも、ワインでも、伝統と歴史そして進化が大切なので、私たちには共通点が多いのではないかと思います。

私がワインを始めたきっかけは、お世話になった人たちを喜ばせるため、そしてサッカー人生を一緒に送ってきた方々への感謝の気持ち、還元したいという思いからなので、今日のような周年を迎える瞬間にふさわしいワインだとも思っています。最初に皆さんに飲んでいただいた最新作の白ワインは、ソーヴィニヨンブランとセミヨンのアッサンブラージュです。今日のように常温で飲んでも、好みによってもう少し冷やしてもいいでしょう。ボルドーの白ワインですから、結構まろやかですね。

次に飲んでいただくメルロー95%の赤ワインは、一言で表現するとしたら口にした瞬間にすごくシックな感じです。ファッションの扱われている方たちにも納得いただけるような味だと思います。服づくりにしても、ワインづくりにしても、そしてサッカーにしても、私たちは職人であって、人を喜ばせるために仕事をしているわけですから、今日は皆さんハッピーでいられたら何よりです。

──あと、トルシエさんのワインは、ボトルデザインもこだわられていると伺いました。

トルシエ:そうですね、これはおよそ50年間の私のサッカー人生を描写したエチケットです。上に大好きなサッカーのゴールマウスが描かれています。ブランド自体が、私が日本代表監督だったときの守備のトレードマークだった「フラットスリー」にちなんだ「3.4.3」という名前です。この白ワインは「エクストラタイム」とつけられていますが、これは言葉の遊びで、サッカーのロスタイムではなくて、スペシャルな時間を過ごしましょうという意味でのエクストラタイムです。そして、使われているブルーの色は、日本代表につながる色のチョイスでした。

ワインも服も、素材が最重要

四方章敬氏の画像
“VBC”「オフリミッツ」を使った“ポール・スチュアート”のスタイリングについて説明する四方章敬氏。

──今回“ポール・スチュアート”と“VBC”のコラボレーションとして、「オフリミッツ」という生地に取り組んでいます。こちらのトルソーに飾ってある4種で、その中の2つ、ハウンズトゥースとストライプは別注生地です。まず“VBC”の長谷川様より、「オフリミッツ」についての説明と、鴨志田様には「オフリミッツ」の受注に至った経緯というものを少しお話いただければと思います。

長谷川:まず「オフリミッツ」に関してですが、今まで“VBC”の生地というと、トラディショナルで、クラシックなイメージがあると思います。“VBC”は創業1663年、創業者一族で13世代まで続いていて、最高品質のウールの服地をつくることに非常に注力をしてまいりました。ただ同時に、360年以上続いている歴史の中には、やはりそのまま伝統だけを守っていたのでは廃れてしまうところもあります。例えばサステナビリティに関しても、工場排水を100%清浄化したり、再生可能エネルギーを100%使用するなど、非常にクリーンな製造を行っています。そんな中で、今回革新的なファブリックとして打ち出したのが、「オフリミッツ」です。見た目は100%ウールのようですが、触っていただくと独特なハリやコシがあり、より快適に着用していただけるような質感です。今回は快適さをテーマに生地を開発しています。見た目は、“ポール・スチュアート”らしくクラシックですが、実際はより進化しています。

鴨志田:毎シーズン、“VBC”による“ポール・スチュアート”の別注に取り組んでいます。去年はアンダイド、無染色の生地を依頼しました。これまではクラシックテイストのものを、自分自身も好みなのでつくっていたのですが、今回はちょっと今の時代に寄り添って、見た目は非常にクラシックでオーセンティックですが、機能性を備えた生地です。ヨーロッパではウォッシャブルに分類される場合もあります。もともとの「オフリミッツ」は無地が中心なのですが、“ポール・スチュアート”流に、ハウンズトゥースとチョークストライプというベーシックな柄ですが、先染めの柄物生地をつくったわけです。

トルシエ:ワインも素材、そしてテロワールから選ぶことが重要です。そして職人の技術がとても大事で、あとは人のエモーションをよび起こすことが大事ですね。洋服を着ることで、人がより自信や幸せを感じることがありますが、実はワインもそうで、飲むことによって自信を得たり、ひとときをハッピーと感じることがあります。

実は、私はワインというものは、素晴らしいスーパーワインでも、主役になってはいけないと思っています。ワインはひとつのシチュエーションを超越する力を持っていますが、その前に、仲間がいたり、恋人がいたり、今日のような美しいパーティー、美しい物があって、そこにワインが寄り添って、それらがなおさら美しく感じる、そういう魔法を持っているのがワインだと思います。いつも慎ましく、一歩後ろにあるものですが、実はとても大事、という。

時間を重ねて上がる、素材の価値

“ポール・スチュアート”別注の“VBC”「オフリミッツ」を使ったセットアップの画像
“ポール・スチュアート”別注の“VBC”「オフリミッツ」を使ったセットアップ。四方氏のスタイリングは都会的な印象。

──それではこの“VBC”の「オフリミッツ」を使ったセットアップについて、スタイリストの四方さんに着こなしをご指南いただければと。

四方:今回4種類のスーツ、どういったコーディネイトが合うかと考えたら、あまり盛るよりは、引き算の考え方が合うのではと思って、割とシンプルなコーディネイトでまとめてみました。こちらのスーツはグレーと黒の細かい千鳥格子ですが、グレーのニットで、アクセントにストールで持ってくる、全体的にグレーのワントーンのコーディネイト、都会的な感じです。こちらはネイビーのチョークストライプには、オーソドックスなブルーのシャツにネイビーのタイ。仕立てが割と軽いので、ネクタイはこうしたプリントの方が相性はいいのではと思いました。続いてこちらの茶系のスーツは、色のあるニットとの相性が非常に良いので、ラベンダーカラーのニットを合わせて、華やかさをプラスしました。ネイビーのスーツもワントーン、ただニットがちょっとフレッシュな、澄んだネイビーなので、ニュアンスのある洗練されたコーディネイトになっていると思います。

矢部:ワインの個性を決めるのはやはり(ブドウの)品種だと思うんです。トルシエさんのサンテミリオンならメルロー、メドックでいえばカベルネソーヴィニヨンという感じになると思いますが、それと同様に、ドレスやクラシックな服の世界なら、生地や糸まで掘り下げてもいいと思います。素材を吟味するという点で、ワインとファッションには共通点があると思っています。

もうひとつ、ワインには経年変化ないしは熟成による価値があります。ヴィンテージまでになると、華やかで美味しい。ファッションにおいては、コレクションが発表されたときに着ると、最新の素晴らしさがあると思いますが、もうちょっと時間をおく、10年ぐらい寝かしておくと、また違った魅力が生じることがあります。これはいわゆる古着の魅力にもつながるところではありますが。

左から、佐藤勇人氏、フィリップ・トルシエ氏、福西崇史氏、細貝萌氏、フローラン・ダバディ氏の画像
会場には元日本代表選手たちの姿も。左から、佐藤勇人氏、フィリップ・トルシエ氏、福西崇史氏、細貝萌氏、フローラン・ダバディ氏。

鴨志田:服地って、20年や30年では廃れないし、むしろ味が出てくる。それは私も実感していて、40年前の服をタンスから引っ張り出して、なんかこれ今いいじゃないと。良質な服は単純に長持ちしますし、いい感じで経年変化、進化していきます。

あとは素材の話は、ワインも洋服も一緒ですね。どんなに丁寧なつくり、どんなによいパターンをもってしても、素材が良くないと、服としてよく仕上がらない。“VBC”と毎回コラボレーションする理由は、素材の良さゆえなんです。

トルシエ:ファッションについては、私はまだ修業が足りませんが、20年~30年前に流行っていたスタイルが若い世代に人気となっている、あるいはある生地がなぜか今また流行りだした、といったことはよく見聞きしています。ワインでも、この品種はなぜか20年間忘れられていたんですけど、またカムバックしたりといったことがありますね。

あとはSDGsの話をすると長くなるんですけれども、気候変動、地球温暖化の現代において、ワインも洋服もさまざまな課題があります。サンテミリオンはボルドー地方の南ですが、最近は夏場が暑くて、寒波があったり乾燥したりということもあり、私たちは常に新しいワインづくり、明日のワインづくりを考えないといけないのです。おそらくメンズファッションの世界でも、明日はどういう素材でスーツを考えるのかなど、いろいろな課題があると思いますね。

鴨志田:そうですね、この2~3年は特に、日本は夏にスーツを着られるような気候ではなくて、厳しい環境といえます。でもファッションというのは、男性も女性もそうだと思うんですけど、ライフスタイル、どう生きるかにつながると思うんです。そういう風に何か気概のようなものを持って、装いたいですね。私としてはエレガンスというものを、服を着るときに限らず、気持ちの持ち方として、常に意識していきたいと思っています。

お問い合わせ先
ポール・スチュアート 青山本店
03-6384-5763
https://store.sanyo-shokai.co.jp/pages/paul_stuart

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