小松の里山でさらなる高みを目指すローカルガストロノミー

石川県小松市の里山で廃校をリノベして話題になった「オーベルジュ オーフ」。開業から3年が経ち、地域とともに共生し、共創するレストランとして、いまや北陸地方の旅の目的地としてまず指を折る存在となっている。この春から、屋上にサウナが設置され、朝食のスタイルも変わった。時間をかけて旅したくなる、唯一無二のローカルガストロノミーの今をレポート。

TRAVEL Aug 22,2025
小松の里山でさらなる高みを目指すローカルガストロノミー

3年を経て、さらなる進化を遂げる

石川県の南部に位置する小松市。江戸時代からの伝統と文化をもち、豊かな自然に恵まれている。小松市内の石蔵や国会議事堂にも使われたという日華石は、小松の産業の礎だった。かつて、この日華石が産出された観音下(かながそ)の石切り場は、小松市の中心部からは車で20分ほど。小高い山と田畑が広がり、小さな川が流れる山里だ。ここに「オーベルジュ オーフ(eaufeu)」がある。

地元で廃校になった小学校の建物をリノベーションし、2022年7月にオープン。学校だった建物を上手く生かし、ラグジュアリーなダイニングと客室をもつ斬新な施設として、メディアでも多数取り上げられた。話題になったのは“箱”だけではない。若きシェフが繰り出す、発酵と自然の力を柱に掲げた斬新なコース料理だ。

糸井章太シェフは、フランス・アルザスの3つ星レストラン「オーベルジュ・ド・リル」を経て、RED U-35 2018にてグランプリ(RED EGG)を大会初の20代で受賞。アメリカ・カリフォルニアの3つ星レストラン「マンレサ」「フレンチランドリー」で経験を積んで、この「オーフ」のシェフに就任した。

この3年の間に、東京や富山、海外で話題の料理人とのコラボのほか、伝統的なフランス料理を独自のスタイルで提供する2ヶ月に一度開催するランチイベントなどを催し、地元の生産者を訪ね、山に分け入り天然素材を探す。小松の里山の四季を3度経験して、料理はよりユニークに進化。里山ならではのビジュアルの惹きと素材の香り、そして食材から引き出される深い味わいと長い余韻。皿が供される度に、驚きと喜びが増す。厨房とフロアのスマートかつ円滑な連携が取れたサービスは、ヨーロッパの三ツ星レストランを想起させるほどだ。この日、提供されたコース料理の中から、いくつかを紹介しよう。

左は最初に供されるお茶に使われている素材の、クリ、カキ、カキドオシ、ヨモギ、クロモジ、ドクダミ。 右は香りも舌当たりも心地よいボタニカルなお茶の画像
左/最初に供されるお茶に使われている素材のプレゼンテーション。この日は、クリ、カキ、カキドオシ、ヨモギ、クロモジ、ドクダミ。 右/香りも舌当たりも心地よいボタニカルなお茶からスタート。胃にも優しく感じられる。
左は素材のみが記されたシンプルなメニュー。裏面には素材の生産者がずらりと明記されている。 右はトウドルチェドリームという品種を使用したモロコシの前菜の画像
左/メニューは素材のみが記されたシンプルなものだが、裏面には素材の生産者がずらりと明記されている。 右/トウモロコシの前菜にはドルチェドリームという品種を使用。“ヒゲ”も添えられる。ペアリングはシャンパーニュから。
左は地元で育てられたドジョウと、シェフが自ら山に入って獲ったというサワガニ。「オーフ」の名物のひとつ。 右はダイニングの傍らでシェフが自ら炭火や薪を使って調理する画像
左/地元で育てられたドジョウと、シェフが自ら山に入って獲ったというサワガニ。「オーフ」の名物のひとつ。 右/ダイニングの傍らでは、シェフが自ら炭火や薪を使って調理。店名「オーフ(eaufeu)」のeauはフランス語で水、feuは火を意味する。
左は鹿とモロヘイヤの料理に特製のコンソメスープが注がれている画像。右は新鮮なモロヘイヤの中にレアに仕上げられた鹿肉が入っている画像
左/鹿とモロヘイヤの料理には、特製のコンソメスープが注がれて完成する。 右/新鮮なモロヘイヤの中には、レアに仕上げられた鹿肉が。ペアリングはチェコのロゼワイン。
左は小松の名産野菜トマトを使ったパイ。右はメインにあたる肉料理、猪とジャガイモの画像。
左/小松の名産野菜トマトを使ったパイ。フランス料理の技法でトマトの旨さと香りを丸ごと余すところなく引き出した逸品。 
右/メインにあたる肉料理は、猪とジャガイモ。食材のほとんどは地元とその周辺で獲れたもの。

好みの場所で食せる「里山モーニング」

この春からは、朝食のスタイルも一新。朝食のセットを詰め合わせたバスケットを持って、好きな場所で食事をとることができる「里山モーニング」となった。選べる場所は、元小学校だった建物の屋上、校庭、宿泊している客室のほか、近所の観音下石切り場、そして少し離れた郷谷川にある十二ヶ滝。今回は車で約3分の十二ヶ滝へ行ってみた。

朝8時ごろまでなら夏でもまだ比較的過ごしやすく、木漏れ日の下にピクニックシートを広げ、川のせせらぎを聞きながら、優雅な天然のダイニングでの朝食が楽しめた。車で移動しなければならないとはいうものの、この里山ならではの自然が満喫できるのは、新しいスタイルのローカルガストロノミーといえよう。

左は観光名所でもある十二ヶ滝。右は「里山モーニング」のセットの画像。
左/観光名所でもある十二ヶ滝。郷谷川の流れが12の筋に分かれて落下する。駐車場あり。 右/
「里山モーニング」のセット。考え抜かれたヘルシーな朝食。パンは長谷町のベーカリー「穀雨(こくう)」のもの。10月後半の秋からは新メニューで、温かいものを中心に用意される予定。

事前予約制で屋上でのサウナも満喫

さらに新設された屋上のサウナも圧巻だ。眺望は360度、見渡す限り緑と田畑、そしてお隣の酒蔵「農口尚彦研究所」のみ。ヒグラシの声も懐かしく感じられる日本の原風景がここにある。そんな今となっては贅沢な環境をもつ元小学校の屋上で、サウナが体験できる。

テントドーム型のサウナだが、薪をくべて時間が経つと室内は120度超になり、蒸気も噴霧される本格的なもの。実際に入ってみると、1分もしないうちに汗が噴き出してくる。外に用意された水風呂は、お隣に酒蔵があるのだから、いい水のはず。浸かりながら長閑な風景を眺めてクールダウンできる。こんなサウナを併設したレストランが他にあるだろうか。

ちなみに、サウナは1日1組で要事前予約。ディナーの前、16時から18時までの間に利用できる。整ったあとにフルコースのフレンチが“サ飯”とは、究極のサウナかもしれない。

フィンランドもかくやと思えるほどの本格的な屋上サウナの画像
フィンランドもかくやと思えるほどの本格的な屋上サウナ。眺望も絶景。
内部にサウナストーブが2基並んだ画像
内部にはサウナストーブが2基。薪をくべて、一気に室温は上昇。水風呂との往復は3~5セットできそう。

地元に特化したテロワールな料理

この稀有なオーベルジュで料理全般の指揮を執るシェフの糸井章太さんは、今年33歳になる。縁もゆかりもなかった小松の地に飛び込んで、3回の四季が廻った。年を追うごとに自分の中でイメージが鮮明になったと話す。

「最初はいろいろやらねばと思っていましたが、盛り付けの手数など余分のものをどんどんそぎ落としてきました。北陸は魚というイメージがありますが、ここには山の幸が豊富にあるので、今日のコースはメインの海の魚料理をオーフらしいメニューに変更しました」

自然豊かな小松の里山で様々な食材と出会い、それが料理に生かされている。

「どじょうは小松では居酒屋で唐揚げなどにして食されるポピュラーな食材で、私も初めて使うことにしました。初年度から料理にしていますが、仕立てやプレゼンテーションも変わりました」

どじょうは、昭和生まれの世代にとっては、昔、田舎に行けば田んぼで姿を見つけたもの。そんな懐かしい生き物は、この里山の象徴でもある。お隣の「農口尚彦研究所」の焼酎を使って“酔っぱらいどじょう”にしてから調理し、シェフが自ら山中の沢で獲ってきたサワガニを添えた一品は、この地のテロワールそのもの。

「私は京都の大山崎で育ちました。幼いころ天王山の山で遊ぶのが日常でしたから、山の中に入るのは自然なことで全く違和感がありません。フランスなど海外でも地方にいたこともあり、こうした里山は環境も含め都会にはない魅力に満ちていると思います」

新しいスタイルに変更された朝食「里山モーニング」も、この地の魅力を滞在する客により感じてもらうための計らいだ。

「この場所の魅力を、まだまだ世に伝えきれてないと感じています。一例として自然環境を生かした朝食の時間をもっていただくことで、この地の良さに気づいていただけるかと。そして、また来てみたいと思っていただけると嬉しいですね。実際に、個人的に気に入っていただいて2年越しに再訪されたり、中には3年間で10回以上いらしている方もいます」

東京や大阪など都市部からはかなり距離があると思われているが、小松駅や小松空港からは車で30分以内で来られる。そして、一度ここに足を踏み入れれば、来訪する価値を認識して、また次の機会に旅の目的にしたくなるのだ。

糸井シェフの画像
「器や照明もトータルで料理を考えたい」と話す糸井シェフ。

糸井シェフは、この地域で暮らす人々とのコミュニケーションも大切にしている。“周年祭”でもある夏祭りには、小松市の方々がファミリーを中心に数百人も押し寄せた。

「まず、ここへ来てもらう、知ってもらうということが大切です。昨年からエントランスのカフェでバーガーも提供しています。子どものころの“おいしいごはん”は、将来にいい影響を及ぼすかもしれません。日常生活の中で食べることを豊かに感じられる、食育になるようなことも地元の子どもたちに伝えていければと思っています」

エスプリとロジックを持って、どんな場所でもつくれるフラットな料理人でありたいと話す糸井シェフ。4年目に入り、一体感のあるスタッフとともに、これからますます深化していきそうだ。

地元の人も利用できるカフェにもなっているエントランスの画像
エントランスは地元の人も利用できるカフェにもなっている。特製のバーガーが人気。
お問い合わせ先
オーベルジュ オーフ(eaufeu)
石川県小松市観音下町口48
電話:0761-41-7080
営業時間:ランチ(土曜、日曜、祝日のみ営業)12:00~15:00(L.O. 12:30)
ディナー18:00~22:00(L.O. 19:00)
コース料金:15,000円、25,000円(税込・サービス料別)
定休日:火曜、水曜(祝日の場合は営業)
チェックイン15:00、チェックアウト翌11:00 ※宿泊料金はサイトを参照
https://eaufeu.jp/

オーベルジュ オーフ(eaufeu)の外観の画像

SHARE

AdvancedClub 会員登録ご案内

『AdvancedTime』は、自由でしなやかに生きるハイエンドな大人達におくる、スペシャルイシュー満載のメディア。

 

高感度なファッション、カルチャーに溺愛、未知の幅広い教養を求め、今までの人生で積んだ経験、知見を余裕をもって楽しみながら、進化するソーシャルに寄り添いたい。

何かに縛られていた時間から解き放たれつつある世代のライフスタイルを豊かに彩る『AdvancedTime』が発信する情報をさらに充実し、より速やかに、活用できる「AdvancedClub」会員組織を設けました。

 

「AdvancedClub」会員に登録すると、プレゼント応募情報の一覧、プレミアムな会員限定イベント、ブランドのエクスクルーシブアイテムの紹介など、特別なコンテンツ情報をメールマガジンでお届け致します。更に『AdvancedTime』のタブロイドマガジンのご案内もあり、送付手数料のみをご負担いただくことでお手元で『AdvancedTime』をお楽しみいただけます。

登録は無料です。

 

一緒に『AdvancedTime』を楽しみましょう!