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石川県小松市の里山で廃校をリノベして話題になった「オーベルジュ オーフ」。開業から3年が経ち、地域とともに共生し、共創するレストランとして、いまや北陸地方の旅の目的地としてまず指を折る存在となっている。この春から、屋上にサウナが設置され、朝食のスタイルも変わった。時間をかけて旅したくなる、唯一無二のローカルガストロノミーの今をレポート。
石川県の南部に位置する小松市。江戸時代からの伝統と文化をもち、豊かな自然に恵まれている。小松市内の石蔵や国会議事堂にも使われたという日華石は、小松の産業の礎だった。かつて、この日華石が産出された観音下(かながそ)の石切り場は、小松市の中心部からは車で20分ほど。小高い山と田畑が広がり、小さな川が流れる山里だ。ここに「オーベルジュ オーフ(eaufeu)」がある。
地元で廃校になった小学校の建物をリノベーションし、2022年7月にオープン。学校だった建物を上手く生かし、ラグジュアリーなダイニングと客室をもつ斬新な施設として、メディアでも多数取り上げられた。話題になったのは“箱”だけではない。若きシェフが繰り出す、発酵と自然の力を柱に掲げた斬新なコース料理だ。
糸井章太シェフは、フランス・アルザスの3つ星レストラン「オーベルジュ・ド・リル」を経て、RED U-35 2018にてグランプリ(RED EGG)を大会初の20代で受賞。アメリカ・カリフォルニアの3つ星レストラン「マンレサ」「フレンチランドリー」で経験を積んで、この「オーフ」のシェフに就任した。
この3年の間に、東京や富山、海外で話題の料理人とのコラボのほか、伝統的なフランス料理を独自のスタイルで提供する2ヶ月に一度開催するランチイベントなどを催し、地元の生産者を訪ね、山に分け入り天然素材を探す。小松の里山の四季を3度経験して、料理はよりユニークに進化。里山ならではのビジュアルの惹きと素材の香り、そして食材から引き出される深い味わいと長い余韻。皿が供される度に、驚きと喜びが増す。厨房とフロアのスマートかつ円滑な連携が取れたサービスは、ヨーロッパの三ツ星レストランを想起させるほどだ。この日、提供されたコース料理の中から、いくつかを紹介しよう。
この春からは、朝食のスタイルも一新。朝食のセットを詰め合わせたバスケットを持って、好きな場所で食事をとることができる「里山モーニング」となった。選べる場所は、元小学校だった建物の屋上、校庭、宿泊している客室のほか、近所の観音下石切り場、そして少し離れた郷谷川にある十二ヶ滝。今回は車で約3分の十二ヶ滝へ行ってみた。
朝8時ごろまでなら夏でもまだ比較的過ごしやすく、木漏れ日の下にピクニックシートを広げ、川のせせらぎを聞きながら、優雅な天然のダイニングでの朝食が楽しめた。車で移動しなければならないとはいうものの、この里山ならではの自然が満喫できるのは、新しいスタイルのローカルガストロノミーといえよう。
さらに新設された屋上のサウナも圧巻だ。眺望は360度、見渡す限り緑と田畑、そしてお隣の酒蔵「農口尚彦研究所」のみ。ヒグラシの声も懐かしく感じられる日本の原風景がここにある。そんな今となっては贅沢な環境をもつ元小学校の屋上で、サウナが体験できる。
テントドーム型のサウナだが、薪をくべて時間が経つと室内は120度超になり、蒸気も噴霧される本格的なもの。実際に入ってみると、1分もしないうちに汗が噴き出してくる。外に用意された水風呂は、お隣に酒蔵があるのだから、いい水のはず。浸かりながら長閑な風景を眺めてクールダウンできる。こんなサウナを併設したレストランが他にあるだろうか。
ちなみに、サウナは1日1組で要事前予約。ディナーの前、16時から18時までの間に利用できる。整ったあとにフルコースのフレンチが“サ飯”とは、究極のサウナかもしれない。
この稀有なオーベルジュで料理全般の指揮を執るシェフの糸井章太さんは、今年33歳になる。縁もゆかりもなかった小松の地に飛び込んで、3回の四季が廻った。年を追うごとに自分の中でイメージが鮮明になったと話す。
「最初はいろいろやらねばと思っていましたが、盛り付けの手数など余分のものをどんどんそぎ落としてきました。北陸は魚というイメージがありますが、ここには山の幸が豊富にあるので、今日のコースはメインの海の魚料理をオーフらしいメニューに変更しました」
自然豊かな小松の里山で様々な食材と出会い、それが料理に生かされている。
「どじょうは小松では居酒屋で唐揚げなどにして食されるポピュラーな食材で、私も初めて使うことにしました。初年度から料理にしていますが、仕立てやプレゼンテーションも変わりました」
どじょうは、昭和生まれの世代にとっては、昔、田舎に行けば田んぼで姿を見つけたもの。そんな懐かしい生き物は、この里山の象徴でもある。お隣の「農口尚彦研究所」の焼酎を使って“酔っぱらいどじょう”にしてから調理し、シェフが自ら山中の沢で獲ってきたサワガニを添えた一品は、この地のテロワールそのもの。
「私は京都の大山崎で育ちました。幼いころ天王山の山で遊ぶのが日常でしたから、山の中に入るのは自然なことで全く違和感がありません。フランスなど海外でも地方にいたこともあり、こうした里山は環境も含め都会にはない魅力に満ちていると思います」
新しいスタイルに変更された朝食「里山モーニング」も、この地の魅力を滞在する客により感じてもらうための計らいだ。
「この場所の魅力を、まだまだ世に伝えきれてないと感じています。一例として自然環境を生かした朝食の時間をもっていただくことで、この地の良さに気づいていただけるかと。そして、また来てみたいと思っていただけると嬉しいですね。実際に、個人的に気に入っていただいて2年越しに再訪されたり、中には3年間で10回以上いらしている方もいます」
東京や大阪など都市部からはかなり距離があると思われているが、小松駅や小松空港からは車で30分以内で来られる。そして、一度ここに足を踏み入れれば、来訪する価値を認識して、また次の機会に旅の目的にしたくなるのだ。
糸井シェフは、この地域で暮らす人々とのコミュニケーションも大切にしている。“周年祭”でもある夏祭りには、小松市の方々がファミリーを中心に数百人も押し寄せた。
「まず、ここへ来てもらう、知ってもらうということが大切です。昨年からエントランスのカフェでバーガーも提供しています。子どものころの“おいしいごはん”は、将来にいい影響を及ぼすかもしれません。日常生活の中で食べることを豊かに感じられる、食育になるようなことも地元の子どもたちに伝えていければと思っています」
エスプリとロジックを持って、どんな場所でもつくれるフラットな料理人でありたいと話す糸井シェフ。4年目に入り、一体感のあるスタッフとともに、これからますます深化していきそうだ。
STAFF
Writer:Indy Fujita
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