時計を見てローマに想いを馳せる 貴族的なワールドタイムウォッチ

お洒落極道 vol.03

週刊プレイボーイの元編集長であり、現在はエッセイスト&オーナーバーマンの島地 勝彦が語る『お洒落極道』。第3回はブレゲのワールドタイムウォッチ。

FASHION Jun 3,2022
時計を見てローマに想いを馳せる 貴族的なワールドタイムウォッチ

ずっしりした重い時計ほど高価である。とくにブレゲには歴史の重みが加わっているのかもしれない。これこそが伝統的貴族時計として承認された一つのベンチマークである。何とも言えないこのずっしり感は貴族っぽい典雅な感覚なのだろう。

アブラアン-ルイ・ブレゲの交友関係は華やかで、ナポレオン1世から無類の浪費王妃マリー・アントワネットまで交流があった。シマジは20代の頃、ステファン・ツヴァイクの名作を読んで、マリー・アントワネットのことを深く知った。小さな浪費家のシマジにとって王妃は仰ぎ見る偉大なる存在となった。そのマリー・アントワネットは「この世で最も美しく最も複雑な時計を制作して欲しい」とブレゲに注文したことでも有名だ。

航海用精密時計の画像

ブレゲは貴族的な時計だけでなく、航海に役立つマリン・クロノメーターという航海用精密時計も製作して、“王国海軍の時計師”という称号も得ていた。海を制する国が世界を支配するという時代で、各国は海軍の戦力を競っていたのだ。しかし当時は船の位置を測定する道具がなかったので、敵の軍艦よりも座礁などの海難事故や長期間の漂流のほうがよほど危険だった。そのため正確な位置を知るための精度の高いマリン・クロノメーターの開発が覇権を握る鍵となったのである。

マリン・クロノメーターがどういうものかおさらいをしよう。マリン・クロノメーターとは船の航海中に使うと時計のことで、海上で距離を測定できるものだ。まず出発地点の太陽の一番高い南中時に時計を合わせ、基準を定めて出航する。航海中のある日、太陽が一番高い時に時間を見て基準との時差を測定する。24時間で経度360度は、1時間が15度。地球の経度は赤道上で1度が約107kmとなるので、1時間の時差あれば、15度×107kmで1605kmを移動したことになる。しかし当時の時計は陸上でも1日に10分以上も狂うことが当たり前だったので、精度の高い時計を開発することが急務であった。なにせ10分の狂いで、海では一日で267.5kmも位置がズレてしまうからだ。こうしてマリン・クロノメーターを備えて入れば海で正確な位置がわかるようになり、現在でも正確な時計の代名詞になったのである。

そんなマリーン・クロノメーターをルーツに持つのがブレゲのスポーティなマリーン・コレクションだ。そのコレクションにマルチ・タイムゾーン機構を搭載したのが最新作の「マリーン オーラ・ムンディ 5557」である。伝統と技術の革新と卓越したデザインの偉業が一つになった精密時計だ。「オーラ・ムンディ」とは、ラテン語で「世界の時間」を意味し、世界の主要都市の時刻が瞬時にわかる機構を備える。指定した世界24都市の時間がワンプッシュで、瞬時の現地時刻に針が瞬転するのである。まさに世界を展望する愉しみが備わっている。

 シマジはこの時計を手に入れたら、どんな時に使うかお教えしよう。シマジは毎月一度、ローマ在住の作家、塩野七生さんに定期便のごとく電話をしている。「オーラ・ムンディ」の都市表示にローマはないので同じタイムゾーンのパリに設定し、塩野さんがランチを食べ終わった頃で、なおかつバーの暇なときにふと思い立ってコールをするのだ。塩野さんは西洋史上の魅力的な男たちのことを書き終えて、今は月刊文春で大久保利通の物語を書いている。その感想を話しながら、いつも愉しい知的な長電話が1時間半は交される。ブレゲは今も昔も時刻を見るだけでなく、遠く離れた人や場所に思いを馳せることのできるロマンチックな時計なのである。

BREGUET マリーン オーラ・ムンディ 5557

BREGUET マリーン オーラ・ムンディ 5557の画像

世界の主要都市の時刻を、インスタント・ジャンプ・タイムゾーン表示によって瞬時に表示できる「オーラ・ムンディ」。これまでクラシック コレクションに搭載されていたが、今回スポーティなマリーン コレクションに搭載された。8時位置のリューズで6時位置の小窓に表示された任意の都市を選択し、日付や時刻を設定。次に第2都市を調整する。あとは8時位置のボタンを押せば、タイムゾーンが瞬時に切り替わる。ダイヤルはウェーブ模様のゴールド製のプレートの上にサファイアクリスタルのプレートを配置し、そのプレートの裏側にサテン仕上げの大陸、表側に緯度と経度の線を描いたマルチレイヤーとなっている。自動巻き。ケース径43.9㎜。10気圧防水。18Kホワイトゴールドケース。8,921,000円。

お問い合わせ先
ブレゲ ブティック銀座
03-6254-7211
PROFILE
エッセイスト&オーナーバーマン 島地 勝彦
エッセイスト&オーナーバーマン
島地 勝彦

大学卒業後、集英社に入社。「週刊プレイボーイ」編集部に配属され、1982年には同誌の編集長に就任し、100万部の雑誌へと育て上げた。その後「PLAYBOY」「Bart」の編集長を務める。柴田錬三郎、今東光、開高健、瀬戸内寂聴、塩野七生をはじめとした錚々たる作家たちと仕事を重ねてきた。「お洒落極道」「お洒落極道 最終編」(小学館)など著書多数。現在は西麻布にあるサロン・ド・シマジにて、バーカウンターの前に立つ。

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