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元週刊プレイボーイの編集長であり、現在はエッセイスト&オーナーバーマンの島地 勝彦が語る『お洒落極道』。記念すべき第一回目はオーデマ ピゲのロイヤル オーク。ロイヤル オーク誕生から現在に至るまで多くの人々を魅了し、惹きける理由に迫る。
1972年4月15日。この日は時計業界でラグジュアリースポーツウォッチという金字塔を打ち立てたオーデマ ピゲのロイヤル オークが発売された日だ。最近ではいろいろなブランドから発売されているステンレススティール製のケースとブレスレットの一体型ウォッチの源流はまさしくロイヤル オークだった。
そんなとき、日本ではどんな出来事が起こったか。そして週刊プレイボーイ編集部で31歳のシマジはそのころ何をしていたのだろうか。
1972年は戦後27年目にして沖縄がわが国に返還された年であった。若き日のシマジは現地取材に出かけた。そこで「ヤマトンチュウ」と「ウチナンチュウ」の格差をはじめて知って絶望した。また米国に少し遅れで日中国交正常化され、その友好の証として上野動物園にパンダが贈呈された。
このように日本を大きく前進させたその当時の政治を仕切っていたのが、総理大臣の田中角栄だった。シマジは田中角栄が総理大臣になる少し前にインタビューしている。「午前6時に来てくれ」と秘書の早坂茂三に言われたので、カメラマンを連れ、角栄御殿の近所にたまたまあった自宅マンションに泊まり、早朝取材に挑んだ。インタビューは無事終わり引き上げようとする、ちょうど7時頃、「一緒に朝飯をどうぞ」と朝から鰻重が出されたのだ。これにはシマジも驚愕した。田中角栄は近所の贔屓にしている鰻屋と24時間いつでも出前ができるような付き合いをしていたのだ。朝から鰻重を食すほど精力家で、人たらしでないと歴史に刻まれるほどの外交は務まらないのだとしみじみ感じたものである。角さんは鰻重をペロリと平らげた後に、陳情を聞くために新潟の地元の人たちが待つ別室へニコニコしながら向かっていった。
オーデマ ピゲにも、田中角栄のように少しばかり無理は言うが、圧倒的な成果を出す人たらしがいたようだ。
1970年ごろ、オーデマ ピゲのCEOだったジョルジュ・ゴレイがその人だ。ゴレイは当時まだどこにもなかったステンレススティール製の高級時計を作る計画をしていた。もちろんまだ「ロイヤル オーク」という名前もまだ誕生してなかった。まずゴレイは後に「時計界のピカソ」呼ばれるようになる、まだ駆け出しのウォッチ・デザイナーであったジェラルド・ジェンタにある夕方に電話を掛けた。
「ジェラルド、これまでにない革新的なスティールウォッチを作りたい。デザインのスケッチを明日の朝まで頼む。君なら出来るだろう?」
デザイナーはこのCEOの無理難題を引き受けた。自らをホテルに”軟禁”して、見事、一夜で斬新的なデザインを完成させた。そのラフスケッチにはケースとブレスレットが一体化した斬新なデザインが描かれ、8角形のベゼルには8個のビスが留められていた。人を喜ばせるためなら少しくらいの我慢は仕方がないと思わせるのが人たらしの所以だ。ゴレイはジェンタの才能を見抜き、時間をかけて論理的にデザイン案を考えるのではなく、短時間で直感的に考えたほうが良いものができると感じていたのかもしれない。その後、その時計はロイヤル オークと名付けられた。
ロイヤル オークという名称の考案者は、当時オーデマ ピゲのイタリア市場を担当していた代理人カルロ・デ・マルキだった。他にも「サファリ」とか「グランプリ」とか「キリマンジャロ」とか名前は上がっていたのだが、「ロイヤル オーク」が採用されたのは、英国海軍の戦艦ロイヤル オークを連想させ、頑健そうで男らしいイメージと、当時一般的なケース径が35mm~36mmだというのに、これから誕生する新時計は39mmと大型でしかも武骨であったことが、選ばれた理由なのだろう。
そもそもロイヤル オークとは何か。それには1642年に始まったイングランド、スコットランド、アイルランドの清教徒革命までさかのぼる必要がある。革命の末、1649年に国王チャールズ1世の処刑にまで至った。そのとき、皇太子のチャールズ2世はオランダに亡命していたが、革命に反対するスコットランドがチャールズ2世皇太子を王として推輓(すいばん)したのに呼応してスコットランドに上陸し、1651年1月1日に戴冠式が行われた。だが王位についたのはスコットランドのみで、イングランド史上ではチャールズ2世は依然、皇太子であった。その後イングランドに潜入したが、オリバー・クロムウェル率いる議会派軍に敗北し、逃亡を余技なくされる。その追手が迫ってきたとき、チャールズ2世と側近は鬱蒼と茂るオークの木の枝のなかに一晩隠れ、議会軍から運良く逃げられた。そのオークの木が後日「ロイヤル オーク」と言われるようになったのである。それ以降、イギリス国内はもとより、アメリカ合衆国、カナダ、アイルランドなどの多くの土地でロイヤル オークという名が地名となっている。またイギリス海軍には歴代8隻の軍艦にもその名が与えられている。こうしてロイヤル オークは由緒正しく、力強さを象徴するパワーワードだったわけである。
今年で50周年を迎えるロイヤル オークは、いまや市場に出すとすぐ売れてしまう完売状態が続いているという。今、まさしく“真夏日”を迎えている。現在では誰もが知る時計であるが、1977年まではそれほど人気は高くなかったという記録も残っている。それは真夏日に向かってのウォーミングアップ中だったのである。シマジ格言でいうところの「今日の異端は明日の正統である」を文字通り、ロイヤル オークは見事に実現を果たしたのである。
ラグジュアリースポーツウォッチの金字塔として50周年を迎えるロイヤル オーク。そのアニバーサリーモデルには、8角ベゼルのスタイルはそのままに、1972年当時のクラウド50と呼ばれるナイトブルーのダイヤルカラーを採用し、再現性を高めた。ブランドロゴはプリントからゴールドのアプライドに変更。自動巻きローターは50周年ロゴを象った特別仕様となっている。自動巻き。SSケース。ケース径37mm。280万5000円。
大学卒業後、集英社に入社。「週刊プレイボーイ」編集部に配属され、1982年には同誌の編集長に就任し、100万部の雑誌へと育て上げた。その後「PLAYBOY」「Bart」の編集長を務める。柴田錬三郎、今東光、開高健、瀬戸内寂聴、塩野七生をはじめとした錚々たる作家たちと仕事を重ねてきた。「お洒落極道」「お洒落極道 最終編」(小学館)など著書多数。現在は西麻布にあるサロン・ド・シマジにて、バーカウンターの前に立つ。
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