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バーボンウイスキー界のロマネ・コンティ――そう例えられるラグジュアリーなバーボンウイスキーがあることをご存知だろうか。アメリカ最古の蒸留所のひとつ、バッファロー・トレース蒸留所で造られている『パピー ヴァン ウィンクル』だ。アメリカでも入手困難で、オークションを賑わせている。そんなプレミアムバーボンの銘柄を数多く擁するバッファロー・トレース蒸留所が250周年を迎えるのを記念して、バーボンウイスキーに精通したバーテンダーの解説を聞きながら、バッファロー・トレース蒸留所のプレミアムバーボン6種類を飲み比べる、至高のテイスティング会が開催された。オークションアイテムを飲む――それこそが、究極の贅沢なのではないだろうか。
日本では、バーボンウイスキーというと武骨でワイルドなイメージをいだく方が多いかもしれない。しかし、バーボンウイスキー発祥の地・アメリカでは、1990年前後から、5年以上の長期熟成品や、原料と製法にこだわった少量生産のバーボンウイスキーが登場し、そのエレガントで洗練されたフレーバーからプレミアムバーボンとして人気になっていく。
1996年には、アメリカで、スピリッツのテレビCMの自粛が解禁。アメリカのバーシーンでスピリッツを使用したカクテルが存在感を増していく。独創的なカクテルを作りだす“ミクソロジスト”として脚光を浴びるバーテンダーも登場。それに呼応するかのように、スムースで華やかなフレーバーのバーボンウイスキーが増え、プレミアムバーボンとして浸透していった。
2010年頃には、世界でも、カクテルでバーボンウイスキーを愉しむトレンドが定着する。『DRINKS INTERNATIONAL』(英国の飲料業界誌)が毎年発表している「The World’s 50 Best Classic Cocktail」(世界でもっとも売れたクラシックカクテル)TOP50のランキングでは、2021年まで、7年連続1位が、バーボンウイスキーベースのオールドファッションドだった。
原料と製法にこだわった少量生産のプレミアムバーボンには、世界中のコレクターも夢中になっている。今回のテイスティング会の目玉である『ダブル イーグル ベリー レア』は、2022年のサザビーズのオークションで16,250米ドル(当時の為替レートで約222万円)で落札。2020年4月から2024年9月の間に、サザビーズで米ドルで落札された『ダブル イーグル ベリー レア』は9本で、8,125米ドルから16,250米ドルと金額に幅はあれど、一次流通価格を上回っており、コレクター垂涎のアイテムであることがうかがえる。
また、2023年のサザビーズのスピリッツ部門の銘柄別の落札金額では、『マッカラン』や『山崎』に続き、第5位にバッファロー・トレース蒸留所で造られている『パピー ヴァン ウィンクル』がランクインしている。
世界では、プレミアムバーボンは、ラグジュアリープロダクトとして存在感を示しているのだ。
2日間に分けて開催されたテイスティング会には、バッファロー・トレース ディスティラリー マスターを務める松山謙氏と石田卓生氏がそれぞれ登壇。松山氏は「2010年頃から、アメリカでプレミアムバーボンブームが起きているのを肌で感じた」と言う。松山氏は2005年にバーボンウイスキーに特化したバーを開業。以降、毎年、ケンタッキー州の蒸留所を訪れてきた。2010年頃から、バーボンウイスキーの価格が1年で倍になるという勢いに驚かされたという。バッファロー・トレース蒸留所のプレミアムバーボンは徐々に入手困難になり、現在では、蒸留所併設のショップのオープンに合わせ、全米から人が押し寄せてくるほどの過熱ぶりだ。
2021年にはネットフリックスで、バッファロー・トレース蒸留所が舞台となった事件のドキュメンタリーが配信。プレミアムバーボンブームは、一部の愛好家だけでなく、世界で社会現象になっているのだ。
松山氏がオーナーバーテンダーを務める京橋にある『Ken’s bar』では、アメリカや韓国から、貴重なプレミアムバーボンを飲むために来日するお客様が目立つ。石田氏がオーナーバーテンダーを務める愛知県豊橋市にある『GEMOR』は、お客様の約30%が海外からの訪日客だという。
プレミアムバーボンの銘柄を数多く擁するバッファロー・トレース蒸留所の起源は1775年に遡る。幾度かオーナーが変わり蒸留所の名称も変更されてきたが、1920年から1933年まで施行されていた禁酒法の時代も、薬用としてウイスキーの製造を認められていた4つの蒸留所の1つとして、ウイスキーを造り続けてきた。1992年にサゼラック社がオーナーとなり、1999年にバッファロー・トレース蒸留所に名称を変更した。
バッファロー・トレース蒸留所は、ケンタッキー州北部の、東京ドーム34個分に匹敵する広大な敷地に建つ。敷地の西側はケンタッキー川が流れており、かつては野生のバッファローが季節ごとに移動する際のルートになっていたことから、バッファロー・トレース(バッファローの通り道)という蒸留所名になった。バッファローはアメリカ人にとってノスタルジーを感じる存在でもあり、蒸留所の歴史を感じさせるネーミングだ。蒸留所は、アメリカ合衆国国定歴史建造物に指定されている。
バーボンウイスキーは、原料の穀物のうち、トウモロコシを51%以上用いることが法律で義務づけられている。他、ライ麦や小麦、大麦麦芽を混合し、その混合比率をマッシュビルという。バッファロー・トレース蒸留所では、ライ麦の変わりに小麦を用いたタイプ、ライ麦比率の低いタイプ、ライ麦比率の高いタイプ、ライ麦を51%以上用いたタイプ(ライウイスキーに分類される)の4種類のマッシュビルでフレーバーを造り分け、約250年という長い歴史のなかで受け継がれてきた20以上のブランドを展開している。
AUTHOR
慶應義塾大学を卒業後、アパレルのラグジュアリーブランドに総合職として入社。『東京カレンダーweb』にてライター・デビュー。エッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦氏に師事し、ウイスキーに魅了される。蒸留所の立ち上げに参画した経験と、ウイスキープロフェッショナルの資格を活かし、業界専門誌などに執筆する他、日本で唯一の蒸留酒の品評会・東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の審査員も務める。
STAFF
Writer: Arisa Magoshi
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自分を消すのは得意だからどこにいても、誰にも気づかれません(笑)