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腕に覚えのあるウォッチメーカーが持てる技術を結集して作るロマンある複雑ウォッチに出合えるのも見本市の見どころ。精緻なメカニズムで複雑機構を生み出す超絶タイムピースのハイライトをお届けしよう。
ウォッチズ&ワンダーズは商業的な展示会であると同時に、新しい技術や機構の発表の場でもある。斬新な時計が別のウォッチメーカーにインスピレーションを与え、また新しいアイデアを生み出すことにも繋がっている。今年はトゥールビヨン、オートマタの複雑機構をはじめ、63の機構を備える世界で最も複雑な時計まで飛び出した。人類の叡智が詰まった超絶複雑機構は見応えも十分。博物館クラスもちらほら。普段は決して見ることができない、ウォッチズ&ワンダーズだから見れる超絶ウォッチをチョイスした。
ヴァシュロン・コンスタンタンは創業260周年にあたる2015年に57機能を有する世界で最も複雑なRef.57260を発表。今年はそれを上回る63機能を有した「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」を発表し、自身で打ち立てた世界一の複雑時計の記録を更新した。もちろん腕時計ではなく、懐中時計だ。
ウォッチ&ワンダーズの会場で展示されていたのをみたが、オーラというかその巨大さに圧倒される。直径98mm、厚さ50.55mmの特大サイズで、このなかに2877個の部品、245石のルビー、31本の指針、9枚のディスクで構成される。触れることはできなったからわからないが、980gと重量もヘビー級である。
搭載される複雑機能は、スプリットセコンドクロノグラフ、グレゴリオ暦&中国暦のパーペチュアルカレンダー、3軸トゥールビヨン、天文表示、アラーム機能、グラン・ソヌリをはじめとするアラーム機能などだ。この「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」の核心部分は、前作「Ref.57260」のユダヤ暦パーペチュアルカレンダーの代わりに世界初の中国暦パーペチュアルカレンダーを採用したことだ。太陰太陽暦(月を太陰暦、年を太陽暦で数える)をベースにした中国暦は一年が通常年で353日、354日、355日、閏年が383日、384日、385日と変わり、さらに60年周期の十干十二支や二十四節気の農暦も備える。
このオーナーは、前作のRef.57260と同じ人物。中国人とか思いきや、アメリカ人だという。まだ見たこともない時計がほしいという希望から中国暦のパーペチュアルカレンダーを組み込むことを注文したという志の高い稀代のコレクターだ。
ジャガー・ルクルトのデュオメトル機構は、時刻表示の動力と複雑機構の動力を別々に設けて安定した精度を追求したもの。この「デュオメトル・へリオトゥールビヨン・パーペチュアル」で、3軸のトゥールビヨンと、永久カレンダー&時刻表示を別々の2つの香箱から動力を供給させる超絶機構を実現させた。
搭載されるトゥールビヨンは、3つの軸上で回転する新機構を開発。単一の軸上で回転するよりも、より重力の影響を分散してくれる仕組みだ。シリンダー型のヒゲゼンマイを備えるへリオトゥールビヨンは、90度と40度に傾斜した軸で30秒に1回転する2つのケージと60秒で1回転するケージを備え、高精度を追求。その回転する様子は9時位置の開口部から鑑賞できるようになっている。
一方、文字盤の右半分には計時とビッグデイト表示を備えたパーペチュアルカレンダー機構を搭載。一般的なパーペチュアルカレンダーは、時刻を戻す調整をするとカレンダー機構が損傷する場合があるが、カレンダーは前にしか進まないので時刻を戻しても問題はない。
トゥールビヨンという重力に影響されるわずかな誤差を補正する機構と、2100年まで補正の必要のないパーペチュアルカレンダー機構を搭載することで、瞬間と永遠が同居するロマンあふれる超絶複雑ウォッチだ。
マドモアゼル シャネルがアトリエでクチュールを制作するシーンをオートマタで表現した複雑ウォッチ。オートマタとは、機械仕掛けで人物や動植物のパーツが動いて生き生きと表現される機構のこと。8時位置のボタンを押すと、マドモワゼル、ハサミ、トルソーが約10秒間にわたって動き、アトリエでの仕事風景を生き生きと再現した。
この動きを実現するために、スイスの自社工房でシャネル初となるオートマタ用ムーブメントのキャリバー 6を新開発。355個のムーブメントのパーツが文字盤上の動きと連動する。それをバゲットカットダイヤモンドがベゼルにセッティングされたJ12のマットブラックセミラック製ケースに収めた。文字盤は針や動くパーツがお互いにぶつからないように5層で緻密に配置され、マドモアゼルの動きを表現している。
最初にセンターにトゥールビヨンを配置したのは、創業100周年に合わせて1995年に発表したオメガだった。特許も取得しているが2015年に失効して、腕に自信のあるブランドからはちらほら見かけるようになっていた。トゥールビヨンのさまざまな表現にチャレンジするロジェ・デュブイも2022年に「ナイツ オブ ザ ラウンドテーブル モノトゥールビヨン」で初のセンタートゥールビヨンを発表。今年の「オルビス イン マキナ」はそれを発展させたモデルだ。
ロジェ・デュブイのトゥールビヨンは通常7時位置に配置される。他のブランドの大部分が6時位置に配置することが多いので、ひと目でロジェ・デュブイとわかるようにあえて7時位置に配置しているのだ。それほどトゥールビヨンへ思い入れは強い。
「オルビス イン マキナ」はトゥールビヨン機構の近くに遊星歯車を採用したことがポイント。センターにトゥールビヨンを配置すると、エネルギーを供給する香箱からトゥールビヨンのキャリッジまでの距離が短いため、いくつもの歯車を介して減速できないのが難しいところ。そこで遊星歯車を組み込むことでトルク伝達のロスを軽減した。文字盤は時と分の3Dのディスクをセットし、トゥールビヨンから広がる同心円状のデザインにして、秒針はロジェ・デュブイのフライングトゥールビヨンのシグニチャーであるケルト十字の上に備わっている。2時位置のプッシュボタンでは巻き上げと時刻合わせの切り替えができるようになっている。
文字盤や針を持たず、キャリバー自体が回転しながら、時刻を示すフリークの最新作が「フリーク S ノマド」。前衛的なメカニズムに伝統的な装飾が加わった1本だ。
フリークは、キャリバーそのものが1時間で1周し、分針の役割を備えるカルーセル機構を採用したもの。そのキャリバーに20度に傾斜したふたつのオシレーターを備え、シリコン製テンプやダイヤモンドシル製の脱進機を備えたフリックの最新バージョンがフリーク Sだ。一般的なリューズによる巻き上げではなく、ケース裏のベゼルを回転させて巻き上げるグラインダー自動巻きで、2倍の巻き上げ効率を誇る。
こうしたアバンギャルドなスタイルに、脱進機の下に手彫りギョーシェ装飾を組み合わせたのが最新作だ。この下の部分は、12時間で1周するアワーディスクとなっており、時針と同義。この模様はダイヤモンド・ギョーシェ・アワーディスクと呼ばれ、熟練の職人が18世紀のローズエンジン旋盤を用いて、240回も同じ作業を行い、3時間もかけて仕上げている。
STAFF
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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