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去る2月23日、三重県の鈴鹿サーキットが全国から集まった猛牛(ランボルギーニ)によって埋め尽くされた。1963年にイタリアのサンタガータで創設されたアウトモビリ・ランボルギーニ創立60周年記念イベントは多くのファン達が集合して開催。総勢251台のパレードランでは、ギネス認定記録まで達成し、この日本でも記念すべき年を祝った。
ちょっとしたきっかけで、久し振りに大好きな映画『ティファニーで朝食を』を、ゆっくりと観ることが出来た。1961年の公開当時、オードリー・ヘップバーンの清純派からの脱皮作などと色々な評価を受けながらも、映画の中でも彼女の愛らしさは、相も変わらず光り輝いていた。そして個人的に好きなシーンのひとつ、窓辺でギターをつま弾きながら彼女が歌うヘンリー・マンシーニの名作「ムーンリバー」を聞くたびに、なぜかいつも涙が出てくる。
1961年、この映画が公開されたその瞬間、ニューヨーク5番街にある高級宝飾店、ティファニーは一躍、誰もが知る存在となった。本来の客だけでなく、この店でいつか宝石を身につけたい、買いたいと思う人、さらにはほとんど縁がないだろうと思われる少年少女に至るまで「ティファニー」の名は浸透し、嫌な言い方をすれば観光名所のひとつになったわけだ。もちろん、ティファニーの店内では朝食など取ることは出来なかったし、タイトルに込められた意味も、そんな単純なところにはなかった。それでも2017年11月、ティファニー本店4階に完全予約制のカフェ&レストラン「The Blue Box Cafe」がオープンさせ、話題となったが、これもやはり映画の影響があったればこそだと思う。
現在、ティファニーを傘下に置くLVMHのベルナール・アルノー会長がイーロン・マスク氏を抜いて世界一の金持ちになったニュースを耳にしても、ティファニーのブランドイメージには、良くも悪くもいささかの影響も与えていない、と思う。
なによりもティファニーというブランドが、どうやってここまでの愛着、いや憧れを醸成できてきたのだろうか? 少々厳しく言えば宝飾品は無駄の最右翼にあるもの。一方でその無駄に内包される“ゆとり”こそが、高級感を生む素地であり、そんな無駄にお金を支払えることに対して、ある種の憧れを抱くのである。当然ながら実用的であればあるほど、無駄とは遠い存在となる。どちらが良いということではない。無駄と実用がほどよく調和することで、世の中の多様性のバランスは取れているはずだ。
クルマの世界も同じである。たとえば世の中にハイブリッドカーやマルチパーパスばかりでは憧れは生まれてこない。無駄の極みとも言われるスポーツカーの頂点、スーパーカー的存在があり、そのブランドだけが持つ独特の無駄の中に、所有することの心地よさを見つけ徹底追求することで、憧れが醸成されてきたのだ。
そんな中で今年、ブランド創立60周年を迎えたイタリアのアウトモビリ・ランボルギーニは、やはり一種独特の輝きを放っている。イタリアの名門と言われるアルファロメオやフェラーリではなく、60年前に新参者とまで言われたランボルギーニが、いまや「無駄を代表する憧れ」にまで成長している。そんな思いを確認するかのように2月23日、三重県の鈴鹿サーキットにてランボルギーニ創立60周年を記念したイベント「ランボルギーニ・デイ2023」が開催された。
この鈴鹿サーキットでの記念イベントには現行モデルからクラシックモデル、さらには限定モデルなど280台以上のランボルギーニが集結した。そしてこの場で行われたパレードランには、名車「ミウラ」から限定車である「カウンタック LPI 800-4」までの250台以上が参加し、「ランボルギーニ車の最大のパレード(The largest parade of Lamborghini cars)」としてギネス世界記録に認定されたという。一度にもっとも多くのランボルギーニモデルが251台走行したという記録になるそうだ。当然のようにイベントを盛り上げるトピックとなったわけで、参加者のモチベーションも自然と高くなったことは疑う余地はない。
すっかり日本に定着し、メーカーも「優良生息地」として認める日本で、ランボルギーニがその歴史を彩り、憧れとして存在するようになったのはいつのことだろうか? それは1975年から1979年にかけて「週刊少年ジャンプ」で連載されたスーパーカーを題材とした漫画『サーキットの狼』にあることに異論を差し挟む人は少ないはず。あの熱狂的なスーパーカーブームの中心にはいつもランボルギー・ニカウンタックが燦然と輝いていたし、それこそがランボルギーニを多くの人が知るきっかけとなった。そしてここから憧れの醸成が始まったのだと思う。中には名門フェラーリをはじめとしたエキゾチックカーに対する創業者、フェルッチオ・ランボルギーニフ氏の反骨から生まれたといった伝説により、反体制の象徴のような存在として捉えられることもあった。
後に作者の池沢早人師先生がランボルギーニ夫人に直接お会いして「あのフェラーリに対して改善点を進言したが門前払いされた逸話は本当ですか?」と確認したそうだ。だが、門前払いもなければ、ケンカもなく、実に平和裏に大人の対応が行われ、そのうえでフェルッチオ氏がスーパーカーの将来的な可能性に気付いてメーカーを立ち上げたという証言を得た池沢先生から聞いている。我々にしてみれば“反逆の象徴”であって欲しい気持ちは依然としてあるが、それでも十分に憧れを支えるだけのストーリーに溢れていることに変わりはない。
アウトモビリ・ランボルギーニの日本代表、ダビデ・スフレコラ氏は「2023年は、ランボルギーニのルーツをさらに未来につなげる記念の年です。我々は、オーナーがこの国の素晴らしさを発見しながら、ランボルギーニに乗る喜びと楽しさを体験するこれらのエキサイティングな機会を作成することに取り組んでいます」とイベントを総括した。
映画や漫画と言ったエンターテイメントがひとつのきっかけとなり、憧れが生まれ、そして受け継がれ、未来へと繋がる。ティファニーと同じように、現在ランボルギーニも現ドイツのフォルクスワーゲン・グループに属している。それでもランボルギーニが醸成してきた“無駄に対する憧れ”は色あせることはないはずである。
そして我々が何より恐れるべきは、実利ばかりを優先し、無駄というゆとりを不要と思うことである。日本の宗教観で言えば「還暦を迎え、暦も一巡。新しい歴史に向かって走り出した」ということにもなるランボルギーニ。やはりこの先も無駄の象徴として永遠である事を願っている。
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
STAFF
Text: Atsushi Sato
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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