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――精神と体、魂のバランスが整い、完全、無限を意味する原始の形(輪)にご自身が戻り、新しいコレクションを作り始めたと伺いました。以前から、ブランドの代名詞、フープピアスも美しい輪で私たちを魅了してくださっており、輪は特別な形なのだと思いますが、そこに違いはあるのでしょうか?
コロナになって、NEW YORKのウオールストリートの近くに住んでいましたが、アップタウンのレイクサイドへ引っ越しました。小さい頃から親 戚の家があったので、その場所へはよく行ってたんだけど、本格的に自然に囲まれて過ごすことで、自然への回帰をリマインドさせられたんだ。その美しさに感謝する心を思い出したんだ。
毎日そこにいると自分の気分が落ち着いてくるのを感じたんだ。パンデミックの中で作り出した、最初のコレクションは「Flow」。自分の中のリズムとエナジーが回っていくFlowな感じ、流れているようだと感じました。
毎朝、湖に日の出が反射して、湖面の水蒸気がうわーっと煙立ち、登っていった時に、水蒸気に光が反射して、さまざまな色が見えたんだ。白い煙のグラデーション、淡いピンクやブルーとか、この上なくビューティフル。その色たちが後々自分がコレクションのためにピックアップした石の色、ピンクスピネルだったと気がづいたんだ。毎日ガーデンで見ていた色、ラピスラズリやラディマー(ドミニカリパブリック共和国でしか取れない石。サイモンのルーツ。)、シフォンのようなブルーグリーンを、後になって選んでいたんだ。自然に見てきた色を、石にリフレクションしていたんだ。
その時気がついたんだ。自然に還るということは今、大事なことだと。そしてこれは世界も必要としていることなのではないか、と思ったんだ。
「Flow」で自然の中で落ち着きを取り戻し、次に必要だと感じたのはエクスパンド(拡張)。新世紀へ自分達を導いてくれる地図がほしいと感じ始めたんだ。その地図は自分たちにとって、かけがえの無いもの…それは大地、水、空気、火で作られている地図だ。4つのエレメントが「New Genesis」コレクションに使われていて、火はルビー、大地は濃いブルーサファイア、水はアクアマリン、空気はアマゾナイト(ブルーグリーン)を象徴している。
これを見た時、自分も地球の一員、この世界の一部なんだと感じてくれるはずだ。まだこれから何が起こるかわからないけれど、新世紀のマップの中に自分が存在し、確認するためのコレクションさ。
こうして、外からのいろんなエレメントの影響で自分自身を確認したら、内なる自分から、自分の存在を発する、輝かせるという、「Delight(光から)」コレクションへと繋がっていったよ。「New Genesis」では、エレメントの象徴として、いろんな色があった。「Delight」もそう続くのかと思っていたら、色味はまったく必要なかった…そう、光だけがそこにあったんだ。象徴する形もなく、流れ星の形のピアスだったり、目の形だったり、ポーラスパワー、無限を表す形や螺旋であったり…そう、内なる光を経験することになったんだ。
光は自分の目でも見ることができる。でも、光そのものがそこに無くてもいいんだ。自分がとても幸せであれば、自分の目を通して、誰かの目を見ると、その人の中の光を見いだせるんだ。
メキシコのユカタン半島にあるトゥルムへ行ったんだけれど、そこはジャングルとオーシャンのみ。樹木と砂以外はない無彩色な場所さ。光だけがその空間を変えていくんだ。太陽が昇ったり、沈んだりする方向を見ると、影の色味が徐々に変化していったり、海に光が射したりと、光(と影)だけが色を作っていたんだ。無彩色なんだけれどもテクスチャーがある。こうして光とシャドーが見え隠れするコレクションになったんだ。
その時、ひとつだけ石を選んだんだんだけど、それはテラヘルツ。普通はジュエリーに使わない石だね。見た瞬間、凄く引き寄せられた。パッと見た時は、色が無いんだけど、光があたると、マザーオブパールのような、ピンクのような、ブルーのような、何ともいえない色味を帯びる。なんとなくフューチャリスティックな感じなんだけれども、とってもグラマラス。
こうして、「Flow」で地について、「New genesis」で外からの気づきがあって、「Delight」で自分の中の光に辿り着いたんだ。
光が自分の中に入ってきた時、ウィービングで作っているものには色味がないんだけれど、よく見ると作品の内側であったり、すき間からキラッと見える。そういう隠喩的な感じでフィーリングが落とし込まれているんだけど、出来上がった時、後から「Delight」コレクションとしてまとまっているような感じなんだ。
ジュエリーのクリエイションに、プリミティブやフューチャリスティックがトゥーマッチでないのは、何故かって? 言葉通りではなく、それらはすべてエッセンス。 エッセンスとしてクリエイトしているからジュエリーがいつもタイムレスなんでしょう。時代を超えて愛され、飽きないコレクションになっている。 全て手仕事で作っているからね。とにかく手仕事に関してはずっと、古代の人がやってきたことなので、そういうテクニックをジュエリーに入れていることでタイムレスな魅力が宿るんだよ。常によりキレイに、よりパーフェクトにと何度も何度も向かって追求している。たぶん。言葉にしなくても、みんなどこかで考えたり感じていることが、ジュエリーに表れているんだ。何かを感じる、コネクションするとこころがあるんだと思う。
日本人はいろんなものをとても丁寧に扱う。感謝の気持ちを込めて、何かをしたりします。それを見る度に、すごく豊かだなと感じる。そういう気持ちを表現しているんだ。まさに「美は単に宿るものではなく行いだったのだ」というトニー・モリソンの言葉が浮かんだんだ。
シンプルさとは、簡単なようで、すごく難しい。自分がバレエダンサーの時に同じような経験した。凄くいっぱい練習して、背景にはいろんなことがあるんだけれども、舞台に立った時、それらは何もなかったのように、結果だけがオーディエンスの前にでる。シンプルな動きの中に込められた、背景にある事が凄く重要なんだ。一番大切なのは、ムダな動きを一切しないこと。ちょっとでもムダなうごきがあると全然キレイではなくなってしまうから、ムダを全部止める。それで美しい動きが完成する。それを表現したかった。
そこでシンプルなサークル(輪)に戻って、フォーカスしたんだ。シンプルに見えるかもしれないけれども、よく見ると、もの凄い手仕事がかけられているよ。見てもらえればわかってもらえるんじゃないかな。
スタイルの美しさ、ハーモニー、優美さや美しいリズムというのは、シンプルさにかかっている。シンプルとは正確さ、厳格さ、不要なモノを明らかにすることさ。これから私たちはどの方向へ、どうやって動いていけば良いかを示すコレクションだよ。
ジュエリーデザイナーはスケッチとかしたりするけれど、しないんだ。頭の中にあるものを自分でもわからないまま、自分の心がおもむくままに石を選んだりするので、後で意味に気づく。自分の中でもちょっと理解できないけれども、自分が突き進む方向にいって、持ってくるって感覚。その解釈は後から、分かってくるんだ。
例えば、自分がルビーとかを選んでいる時は無意識なんだ。出来上がった時に、そうだったんだと自分の答え合わせを後でする感じ。デザインスケッチをしないのは自分の絵に思考がどんどん制限されていくと思う。言葉もそう。言葉は思考を制限する場合がある。
瞑想メディテーションをずっと昔からやっているんだ。瞑想は言葉を失うことに近いんです。無になるっていうことだから、言葉では表現できない空気や目にするもの、感じるもの。言葉にできないことは凄く重要です。この時代だからこそ、そう感じます。アートやジュエリーにトランスレーションするということをしているので、そういうことに敏感な人達が反応してくれているんでしょう。
インタラクティブアートに近いのかもしれないね。一方的に表現するアート、作るものではなくて、よりオーディエンスが参加することで膨らみが出てくるコレクション。だから身につける人のものになるんです。
手で編むことを貫くことで、そこで生まれる表情は技術面に加えて、人の温もりや愛情、その作品が創造され生まれるまでのストーリーが伝わってくるんだと思うよ。ファッションや時計の分野でも、職人の技術が明らかに製品の細部の作りを極め、価値を上げている。
個人に向かって作っているものではないのだけれど、人間の根幹や、今のエナジー、ムードを感じとって作っているのだから、どこかいフィットするところがあって、エナジーを読み、合うものが選べるのでしょう。
――来日時には、直接お客様へアドバイスをしていただける夢のような機会を与えてくださいます。主に骨格、スキンカラー、印象、年齢と、人間の特徴は様々ですが、主にどういうポイントでその人に似合うものをセレクトされるのでしょうか?
身につけるその人その人のエナジーを凄く大切にしたいと思っているので、理想像や特定のイメージはもたないようにしているんだ。ファッションでは理想の女性像やミューズを打ち出すことが多いんだろうけど。こんな素敵な人のようになりたいけれど、自分はそうでないと実は感じている。そんなには美しくないかもしれない、何か違うなと感じてしまう。そういったことに興味がないんだ。まず、それを気がついた人が次ぎの人にどんどんインフルエンスを与えていく。自分の大切さに気がついて欲しい。それが大事なことなんだ。
ジュエリーをレコメンドする際に、骨格やスキンカラーに合うモノをもちろん見るけれど、一番はその人のもっているエナジーです。”エナジーを読む”と言っています。お客さんが自分では通常選ばないジュエリーを、エナジーを読んでジュエリーを選んであげます。お客さんが着けた時、ふわーっとちょっと驚く。マッチして驚いた瞬間がとても嬉しい。マジックが起こったみたいなステキな瞬間です。
自分にとって嬉しい瞬間は、アニバーサリーではなくて、お客さんが喜んでくれることだから、自分の誕生日だってお祝いをしない人間なんだ。笑。でも、もしかしたら、20周年をお祝いするかもしれないね。
今回のコレクションで初めてアート・インスタレーションをしたんだ。ウエービングを17個作ったけれど、20個作るかもしれないね。自分が一番興味があることは、みなさんをインスパイアーすることさ。絶対にこれは続けていきたいと思っているんだ!
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Simon Alcantara /ジュエリーデザイナー・アーチスト。NY生まれ。ルーツはドミニカ共和国。錚々たるバレエ団を経て、サザンバレーシアターでソリスト、プリンシバルとして活躍。その後、ジュエリーデザイナーとなり、『SATC』『プラダを着た悪魔』で人気を博し、『オスカー・デ・ラ・レンタ』『バルマン』オートクチュールのショージュエリーで、さらなる注目を集める。美の本質を共有できる顧客と接点をもつことを望み、ハイエンドなショップ、年に数回行われるトランクショーで直接販売をしている。日本では、The Salonのみでエクスクルーシブで展開している。
STAFF
Photo:Christopher Miranda (Simon Alcantara)
Interview & Edit: Kyoko Seko
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