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オフロードの王者とも言われ、高い悪路走破性能を有していたランドローバーを「高級サルーンのようにも使えないか」という、実にシンプルだが画期的な発想から誕生したレンジローバー。1970年に登場以来、半世紀を超えて世界を席巻してきた最上級SUVの5世代目がデビュー。時代に即した数多くのアップデートが施され、見た目も、その内側に潜む最先端技術も、注目すべき話題に溢れているという。その仕上がりを確かめるため、軽井沢へと向かった。
まだ上信越自動車道が全線開通するずっと以前のこと、旧軽井沢に別荘を持つ知人から「遊びに来ないか」というお誘いを受けた。東京の夏は今と変わらず、まとわりつくような熱気に包まれ、いささか嫌気がさしていたため、クルマに乗り込むと飛ぶようにして軽井沢へと向かった。横川から軽井沢への峠越えは、バイパスで入山峠をあっけなく越えるより、風情のある坂本宿を抜け、中山道を駆け上がる碓氷峠越えが好み。なにより、細かなカーブが連続するそのルートは、当時の愛車、ミニクーパーSマークⅢを走らせるには、恰好の舞台だったのだ。
碓氷峠を過ぎ、当時まだ運行していた信越本線が左手に見えてくれば、もう軽井沢である。全開にした窓から、冷たさを含んだ高原の空気が鳥のさえずりを連れて、一気に車内へと入り込んでくる。あの騒然としたアウトレットができるのは、まだまだ先のことであった。当時の観光客のお目当てといえば、旧中山道沿いにある軽井沢銀座。そんな人々でごった返す軽井沢本通りから三笠通り、さらに途中から折れて水車の道へと入り、軽井沢聖パウロカトリック教会の前を過ぎれば、すぐに知人の別荘である。
鬱蒼とした木々に囲まれ、木漏れ日しか差しかまないような脇道は、慣れないとミニでも少し気を遣うような小道。その脇に彼が、幼い頃から夏になると過ごしていたという、小ぶりながらも、瀟洒な洋館が遠慮がちに姿を現した。苔むした庭は、ほどよく手が入れられた木々に囲まれ、観光地の喧噪とは無縁だった。
こうして始まった数日間の旧軽生活。別にどこへ行くでもなく、ただ時間に捕らわれず過ごすだけ。幼い頃からの別荘族である彼にとれば、観光客が殺到するベーカリーやカフェに敢えて出向くなど、考えられないこと。こちらをどこかへと誘うことすらなかった。「好きなように過ごして」という言葉が、なんとも心地いい距離感を保ちながら過ごせた。
そんなある日の昼下がり、ぼんやりと庭に並んだ2台のクルマを眺めていた。アーモンドグリーンのボディに、オールドイングリッシュホワイトのルーフを乗せたミニクーパーSは、もちろん我が愛車である。そしてもう1台は、彼が旧軽の別荘地の小道を、こじるように乗り入れてきた真っ白な初代レンジローバー、今風に言えばレンジローバー・クラシックである。我がミニも、まんざらではないと思いつつ、全身に白いペイントをまとった、スクエアでシンプルなボディラインのレンジローバーの、そのキマりようには脱帽するしかなかった。以来、軽井沢に似合うクルマの筆頭に「白いレンジ」が、つねに在り続けてきた。
深い緑の中で見る真っ白なレンジローバー。それはまさに、光の濃淡だけで空気感をシンプルに表現するモノクローム写真のようであった。だからだろうか、余計に見るものの心にまっすぐに伝わり、強烈な印象を際立たせていた。いい景色だなぁ…。しばらく見つめているうちに不思議と心が安らぎ、いっそう軽井沢が、いや厳密に言えば旧軽井沢の凜とした静寂が好きになっていく。
そして今夏、手元に届いたインヴィーテーションには「軽井沢を新型レンジローバーで走る」という試乗プランが記されていた。あの夏のように、いや、さらに過酷さを増した東京の夏から抜け出す、恰好の口実ができた。
上信越自動車道の碓氷軽井沢インターで下り、松井田軽井沢線のワインディングを駆け上れば、あっと言う間に、どこのアウトレットでも見られる雑踏が待っている。時間を買うための効率化とは理解しつつも、やはりこの道程は少々味気がない。なにより横川で買う釜飯も玉屋の力餅も、めがね橋もなく、風情もない。多分、そんな嘆きなどは「ノスタルジーが過ぎる」と、一笑に付されるかもしれない。それも時代の移ろいである。
気が付けばこの日も、案の定、国道18号線に出るまで少々の渋滞が発生。人様の別荘や人工スキー場に通ったお陰で、少しばかり軽井沢とは付き合いが長いと自負しているだけに、いくつかの抜け道も知っている。試乗会場のある中軽井沢方面へと通じる裏道に入り、発地(ほっち)まで来ると、目の前に雄大な浅間山が現れた。その麓には高原ののどかな農村の風景が、変わらずに広がっている。
ナビを見れば西軽井沢とある。本来ならば軽井沢には西も東も北も南もないのでは、と思う。たとえば軽井沢の西隣にある中軽井沢は旧称の沓掛(くつかけ)こそ似合い、その西に追分、そして今日の試乗会場、長野県・御代田町へと続いて欲しい。なんでも「軽井沢ブランド頼り」というのも風情がないものだ。
そんな、まるで言い掛かりのような思いを抱きながら到着したのは「土管のゲストハウス」という施設。途中にクルマを預けて少し進むと、アカマツが生い茂る林が、すっと開けた。約3000坪の敷地には木々の間を縫うようにして小川が流れている、強烈な存在感を放つ白い建築物が建っていた。最初の印象を恐れずに言えば、まさに異物であった。しかし、なぜか違和感はない。何なのだろうか、この不思議にして、説明が付けようのない世界観は……。
手掛けたのは、パンデミックの下で行われた東京オリンピックの、聖火台をデザインしたことでも知られる「佐藤オオキ」氏。1977年にカナダのトロントに生まれ、2002年に早稲田大学大学院修了後、同年にデザインオフィス「nendo(ねんど)」を設立。東京とミラノに拠点を持ち、建築、インテリア、プロダクト、グラフィックと幅広く各種デザインを手掛ける、日本を代表するデザイナーである。
現在は、パリ・オリンピックを開催する2024年に向け、フランス高速鉄道、TGVの新型車両デザインや、翌25年の「大阪・関西万博」では、日本政府館の総合プロデューサー・総合デザイナーとしても多忙である。Newsweek誌の「世界が尊敬する日本人 100人」、イタリアでは「 Designer of the Year」などに選出されるなど、世界的なデザイン賞も数多く受賞している。
AUTHOR
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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