ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィーD300

すべてのクルマには、ふさわしき「風情」がある

オフロードの王者とも言われ、高い悪路走破性能を有していたランドローバーを「高級サルーンのようにも使えないか」という、実にシンプルだが画期的な発想から誕生したレンジローバー。1970年に登場以来、半世紀を超えて世界を席巻してきた最上級SUVの5世代目がデビュー。時代に即した数多くのアップデートが施され、見た目も、その内側に潜む最先端技術も、注目すべき話題に溢れているという。その仕上がりを確かめるため、軽井沢へと向かった。

LIFESTYLE Sep 12,2022
ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィーD300

レンジローバーに抱き続けてきた、ある思い

まだ上信越自動車道が全線開通するずっと以前のこと、旧軽井沢に別荘を持つ知人から「遊びに来ないか」というお誘いを受けた。東京の夏は今と変わらず、まとわりつくような熱気に包まれ、いささか嫌気がさしていたため、クルマに乗り込むと飛ぶようにして軽井沢へと向かった。横川から軽井沢への峠越えは、バイパスで入山峠をあっけなく越えるより、風情のある坂本宿を抜け、中山道を駆け上がる碓氷峠越えが好み。なにより、細かなカーブが連続するそのルートは、当時の愛車、ミニクーパーSマークⅢを走らせるには、恰好の舞台だったのだ。

碓氷峠を過ぎ、当時まだ運行していた信越本線が左手に見えてくれば、もう軽井沢である。全開にした窓から、冷たさを含んだ高原の空気が鳥のさえずりを連れて、一気に車内へと入り込んでくる。あの騒然としたアウトレットができるのは、まだまだ先のことであった。当時の観光客のお目当てといえば、旧中山道沿いにある軽井沢銀座。そんな人々でごった返す軽井沢本通りから三笠通り、さらに途中から折れて水車の道へと入り、軽井沢聖パウロカトリック教会の前を過ぎれば、すぐに知人の別荘である。

鬱蒼とした木々に囲まれ、木漏れ日しか差しかまないような脇道は、慣れないとミニでも少し気を遣うような小道。その脇に彼が、幼い頃から夏になると過ごしていたという、小ぶりながらも、瀟洒な洋館が遠慮がちに姿を現した。苔むした庭は、ほどよく手が入れられた木々に囲まれ、観光地の喧噪とは無縁だった。

こうして始まった数日間の旧軽生活。別にどこへ行くでもなく、ただ時間に捕らわれず過ごすだけ。幼い頃からの別荘族である彼にとれば、観光客が殺到するベーカリーやカフェに敢えて出向くなど、考えられないこと。こちらをどこかへと誘うことすらなかった。「好きなように過ごして」という言葉が、なんとも心地いい距離感を保ちながら過ごせた。

そんなある日の昼下がり、ぼんやりと庭に並んだ2台のクルマを眺めていた。アーモンドグリーンのボディに、オールドイングリッシュホワイトのルーフを乗せたミニクーパーSは、もちろん我が愛車である。そしてもう1台は、彼が旧軽の別荘地の小道を、こじるように乗り入れてきた真っ白な初代レンジローバー、今風に言えばレンジローバー・クラシックである。我がミニも、まんざらではないと思いつつ、全身に白いペイントをまとった、スクエアでシンプルなボディラインのレンジローバーの、そのキマりようには脱帽するしかなかった。以来、軽井沢に似合うクルマの筆頭に「白いレンジ」が、つねに在り続けてきた。

強烈な存在感に潜むエレガンスを目の当たりにする

レンジローバーの画像
深い森の中をゆく5代目のレンジローバー。逆光が故に、シンプルなフォルムの存在感がより際だって見える。

深い緑の中で見る真っ白なレンジローバー。それはまさに、光の濃淡だけで空気感をシンプルに表現するモノクローム写真のようであった。だからだろうか、余計に見るものの心にまっすぐに伝わり、強烈な印象を際立たせていた。いい景色だなぁ…。しばらく見つめているうちに不思議と心が安らぎ、いっそう軽井沢が、いや厳密に言えば旧軽井沢の凜とした静寂が好きになっていく。

そして今夏、手元に届いたインヴィーテーションには「軽井沢を新型レンジローバーで走る」という試乗プランが記されていた。あの夏のように、いや、さらに過酷さを増した東京の夏から抜け出す、恰好の口実ができた。

上信越自動車道の碓氷軽井沢インターで下り、松井田軽井沢線のワインディングを駆け上れば、あっと言う間に、どこのアウトレットでも見られる雑踏が待っている。時間を買うための効率化とは理解しつつも、やはりこの道程は少々味気がない。なにより横川で買う釜飯も玉屋の力餅も、めがね橋もなく、風情もない。多分、そんな嘆きなどは「ノスタルジーが過ぎる」と、一笑に付されるかもしれない。それも時代の移ろいである。

気が付けばこの日も、案の定、国道18号線に出るまで少々の渋滞が発生。人様の別荘や人工スキー場に通ったお陰で、少しばかり軽井沢とは付き合いが長いと自負しているだけに、いくつかの抜け道も知っている。試乗会場のある中軽井沢方面へと通じる裏道に入り、発地(ほっち)まで来ると、目の前に雄大な浅間山が現れた。その麓には高原ののどかな農村の風景が、変わらずに広がっている。

ナビを見れば西軽井沢とある。本来ならば軽井沢には西も東も北も南もないのでは、と思う。たとえば軽井沢の西隣にある中軽井沢は旧称の沓掛(くつかけ)こそ似合い、その西に追分、そして今日の試乗会場、長野県・御代田町へと続いて欲しい。なんでも「軽井沢ブランド頼り」というのも風情がないものだ。

そんな、まるで言い掛かりのような思いを抱きながら到着したのは「土管のゲストハウス」という施設。途中にクルマを預けて少し進むと、アカマツが生い茂る林が、すっと開けた。約3000坪の敷地には木々の間を縫うようにして小川が流れている、強烈な存在感を放つ白い建築物が建っていた。最初の印象を恐れずに言えば、まさに異物であった。しかし、なぜか違和感はない。何なのだろうか、この不思議にして、説明が付けようのない世界観は……。

保管庫兼ゲストハウスの画像
長野県御代田町の赤松林の中に建つ保管庫兼ゲストハウス。そのプランは家具やプロダクト、アート作品などをアーカイブするための保管庫。

手掛けたのは、パンデミックの下で行われた東京オリンピックの、聖火台をデザインしたことでも知られる「佐藤オオキ」氏。1977年にカナダのトロントに生まれ、2002年に早稲田大学大学院修了後、同年にデザインオフィス「nendo(ねんど)」を設立。東京とミラノに拠点を持ち、建築、インテリア、プロダクト、グラフィックと幅広く各種デザインを手掛ける、日本を代表するデザイナーである。

現在は、パリ・オリンピックを開催する2024年に向け、フランス高速鉄道、TGVの新型車両デザインや、翌25年の「大阪・関西万博」では、日本政府館の総合プロデューサー・総合デザイナーとしても多忙である。Newsweek誌の「世界が尊敬する日本人 100人」、イタリアでは「 Designer of the Year」などに選出されるなど、世界的なデザイン賞も数多く受賞している。

レンジローバーと「土管のゲストハウス」の画像
機能を優先した構想からスタートしたという「土管のゲストハウス」。オフローダーで都会も走りたい、というシンプルな発想から誕生したレンジローバーとの共通性を見いだせる。
次のページ
シンプルだからこそ見えてくるもの

SHARE

AdvancedClub 会員登録ご案内

『AdvancedTime』は、自由でしなやかに生きるハイエンドな大人達におくる、スペシャルイシュー満載のメディア。

 

高感度なファッション、カルチャーに好奇心を持ち続け、今までの人生で積んだ経験、知見を余裕をもって楽しみながら、さらなる幅広い教養を求め、進化するソーシャルに寄り添いたい。

何かに縛られていた時間から解き放たれつつある世代のライフスタイルを豊かに彩る『AdvancedTime』が発信する情報をさらに充実し、より速やかに、活用できる「AdvancedClub」会員組織を設けました。

 

「AdvancedClub」会員に登録すると、プレゼント応募情報の一覧、プレミアムな会員限定イベント、ブランドのエクスクルーシブアイテムの紹介など、特別なコンテンツ情報をメールマガジンでお届け致します。更に『AdvancedTime』のタブロイドマガジンのご案内もあり、送付手数料のみをご負担いただくことでお手元で『AdvancedTime』をお楽しみいただけます。

登録は無料です。

 

一緒に『AdvancedTime』を楽しみましょう!