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週刊プレイボーイの元編集長であり、現在はエッセイスト&オーナーバーマンの島地 勝彦が語る『お洒落極道』。第4回はオメガの超絶ダイバーズウォッチを語る。
わたしは時計の原稿を書くとき、必ず実物を腕に着けて十分に体感してから筆を執ることにしている。今回はオメガのハイスペックダイバーズ「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」を手に取った。腕に着けて思ったことは「ずっしりとして重く、厚みがある」ということだった。この時計ならば、いまも3600メートルの深海に眠る、わたしの大好きなタイタニック号に一緒に行けるのではなかろうか。
タイタニック号は1912年4月11日にイギリスのサザンプトン港からニューヨーク港に向けて出発した豪華客船のことだ。出発から4日目の4月14日23時40分、ニューファンドランド島の沖合で不気味に光る氷山がタイタニック号の右舷をすり抜けたとき、鋭いナイフで切られたような亀裂が船底に走った。それからタイタニック号が沈没するまでの2時間40分間、壮絶な人間ドラマが繰り広げられた。2207名のうち救助されたのは704名だったが、生存者はまったく脚光浴びず、タイタニック号と共に命を絶った犠牲者たちに光が当てられた。
なかでも悲劇の英雄はエドワード・J・スミス船長であった。乗客の数より少ない救命ボートが海面に下ろされるたびに大混乱が起こった。スミス船長は毅然と穏やかな声で「まずは婦女子から乗せたまえ」と宣言した。夫を置き去りにして自分だけ救命ボートに乗ることを拒み、夫と共に死を選んだ健気な夫人もいた。
スミス船長は当然タイタニック号と死を共にすべき男だった。スミス船長が無線室を最後に訪れたのは、タイタニック号が沈む15分前のことだ。まだSOSの信号を打電している無線士たちに言い放つ。
「諸君は十分に任務を果たした。もうなす術はない。さあ、ここを立ち退いて自分の身を守り給え。いまここで君たちを解雇する」
それからスミス船長は船長室に入りピストルで自殺を図ったとされているが、実際は「みんな元気を出すんだぞ!」と最後まで鼓舞するスミス船長の野太い声が暗黒の海のなかで響いていたという。抜き手で暗闇の海を泳いでいる白髪の男こそスミス船長であった。オールを差し出されても決して救命ボートに乗ろうとしなかった。そしてくるりと背中を向けて闇の海のなかに消えて行った。まさにダンディズムの死に様であった。
こうしてタイタニック号は海底へと沈んでいったが、1985年9月1日に冷戦中の極秘ミッションの途中、アメリカ海軍によって3600メートルの海底で船の残骸が発見された。それ以来、多くの有人・無人の潜水艇が海底に沈んだタイタニック号を訪れている。2018年には科学者やパイロットなどで構成されるチームに、一般人も参加できる大規模調査が行われた。一般の参加費用は約1000万円で、必要な訓練をおこなったあと、水深4000メートルまで潜ることができる有人潜水艦「Cyclops 2」で潜水艦整備のアシスタントとして調査に参加するものだった。調査によると、タイタニック号は深海の海流と塩水および、金属を食べるバクテリアで船体の腐食が進んでいるということがわかった。中でも大きな影響を及ぼしたのは、タイタニック号にちなんで「ハロモナス・ティタニカエ」と名付けられた、鉄や硫黄を好むバクテリアだったという。すでに船の上部が崩れだしており、2030年までにはすべて消滅する可能性があるとされている。
タイタニック号が好きなわたしとしては、チャンスがあれば潜水艇に乗って、3600メートルの海底まで行き、タイタニック号を間近で見てみたいと思っている。そのときに必要なのダイバーズウォッチは何かないかと考えていたところ、オメガの「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」を見てこれだ!と思ったわけである。なにしろ2019年の試作モデルでは水深1万935メートルの潜水記録を打ち立てている。市販モデルとして発表された今作は、6000メートルの防水性能というが、実際には25%のマージンを加えた7500mまで耐えられるという。また海底6000メートルでかかる7.5トンの水圧も耐えうる堅牢な作りとなっている。その割に18.12mmのケースの厚みで抑えられているのは、「O-MEGAスティール」という素材をケースに採用しているからだ。ニッケルを取り除き、窒素とマンガンを加えたオメガ独自の合金で、通常のステンレススティールよりも強度・硬度が40~50%も高くなり耐食性にも優れるという。もしわたしがタイタニック号を訪れて船内にこのウルトラディープを置き忘れて帰ったとしても、100年後も鉄喰いバクテリアに侵食されることなく、残っているだろう。そしてリューズを巻き上げれば、すぐにでも動き出すはずだ。
タイタニック号が朽ち果てるまで訪れることができるかどうかわからないが、心強い相棒は見つけた。
ケースの直径が45.5mmにケースの厚みが18.12mmで分厚いサファイアクリスタルガラスを備えるダイバーズウォッチだが、6000mの防水性と水圧に耐えうる頑強さを備えていると考えれば、小型サイズに収まっている。オメガ独自のO-MEGAスティールで頑強さもプラスし、ホワイトの色合いが強いのも特徴だ。ダイバーズウォッチ規格のISO6425には2段階の承認があり、当然、上位の認証を受けている。その際、飽和潜水の装備が求められるが、風防やケースなどの密閉性を高め、ヘリウムの膨張にも耐えられることができる新設計で、通常必要なエスケープバルブが不要となっている。ムーブメントには高精度、高耐磁性能を保証するマスタークロノメーター認定のCal.8912を搭載する。これだけのハイスペックながら、レギュラー生産なのがうれしい。自動巻き。ケース径45.5㎜。6000m防水。ステンレススティールケース&ブレスレット。1,474,000円(7月29日以降は1,584,000円)。
中央にはオメガを象徴するシーホースと、その周囲にソナーパターンがレーザーエングレービングで刻印される。
ダイヤルにはダイバーズ規格のISO6425に準拠した、暗闇でも視認性を確保できる夜光塗料が塗布される。インデックスと、時針・秒針はブルーに発光するホワイトスーパールミノヴァ、分針はグリーンに発光するホワイトスーパールミノヴァが塗布されている。
大学卒業後、集英社に入社。「週刊プレイボーイ」編集部に配属され、1982年には同誌の編集長に就任し、100万部の雑誌へと育て上げた。その後「PLAYBOY」「Bart」の編集長を務める。柴田錬三郎、今東光、開高健、瀬戸内寂聴、塩野七生をはじめとした錚々たる作家たちと仕事を重ねてきた。「お洒落極道」「お洒落極道 最終編」(小学館)など著書多数。現在は西麻布にあるサロン・ド・シマジにて、バーカウンターの前に立つ。
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