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およそ100年の歴史をほこるジャパニーズウイスキー。2025年3月現在、日本国内には約100カ所のウイスキーの蒸留所がある。その中でも、世界から注目されているのが新潟亀田蒸溜所だ。樽で熟成する前のスピリッツが世界的なウイスキーのコンペティションで世界最高賞に輝き、3年の熟成を経たジャパニーズウイスキーのリリースが心待ちにされていた。2025年3月15日には、新潟亀田蒸留所・初となるシングルモルトのジャパニーズウイスキー『OHTANI WHISKY 新潟亀田 zodiac sign series「Pisces」』がリリース。一般見学は行っていない蒸溜所を特別に見学させてもらうと、100年前に日本に伝わった伝統的なスコッチウイスキーの製法を踏襲しながらも、新潟のテロワールを感じさせる工夫が随所に見てとれた。
「はんこ屋さんのウイスキーがおいしい」──2023年あたりからウイスキー好きの間で、驚きと興奮をもって交わされてきた話題だ。そう、新潟亀田蒸溜所は印章業界最大手の株式会社 大谷が運営している蒸留所なのだ。
株式会社 大谷の役員を務める堂田浩之氏は、大学生の頃からのウイスキー好き。晩酌にウイスキーを飲むのが日課だったが、ジャパニーズウイスキーが世界的に人気になり、価格が高騰。2016年のある晩、「原酒不足で僕の好きなウイスキーが飲めなくなる。値段も高くなる。ウイスキーは僕の手の届かないものになるな」と、奥様にため息交じりに伝えた。すると、奥様は「だったら造ればいいじゃない、自分の飲みたいウイスキーを自分で造ればいいじゃない」と返したのだ。これが、『OHTANI WHISKY』の始まりとなった。
そこからは、“ウイスキーが好き”という気持ちが、堂田氏を突き動かす。自らスコットランドの蒸留所を30カ所視察。国内の蒸留所には1か月泊まり込みで製造研修を受けた。
2021年2月に新潟亀田蒸溜所が稼働。堂田氏は新潟亀田蒸溜所の社長も務めるようになる。稼働当時は、堂田氏と2名の製造スタッフが中心となり製造していたため、機械の配線トラブルにも堂田氏自らが対処できるという。現在は、酒類製造の経験者2名も加わり、切磋琢磨しながら、製造方法をブラッシュアップさせている。
新潟亀田蒸溜所は、新潟駅から南に車で10分ほどの亀田工業団地に構える株式会社 大谷の敷地の一角にある。工業団地ではあるが、周囲は水田に囲まれ、水源に恵まれた土地であることを感じさせる。
ところ狭しとウイスキーの製造設備がひしめく中、全国でも数カ所しか導入されていない製麦機が目を引く。ウイスキーには、海外から輸入された大麦麦芽を用いることがほとんどだが、「いずれ、すべて新潟県産の原料でウイスキーを造ってみたい」という堂田氏のビジョンのもと、新潟県産の大麦を大麦麦芽に加工するために製麦機を導入した。農研機構上越研究拠点の協力を得て、新潟県の環境に適し、ウイスキー造りに活用できる『ゆきはな六条』という大麦の品種を開発。2025年3月現在、仕込みの約30%は新潟県産の大麦麦芽だ。
粉砕した大麦麦芽はマッシュタンに投入され、温められた仕込み水が注がれていく。大麦麦芽の糖分が溶け出した麦汁を抽出するのだが、「蒸留所の立ち上げ時は、澄みわたった麦汁を抽出するのに苦労した」と堂田氏。香味成分の多い酒質を目指すには、濁った麦汁ではなく、澄みわたった麦汁が適しているといわれている。大麦麦芽の粉砕具合や仕込み水の温度など、試行錯誤した記録は詳細に記され、蒸留所の壁に貼られていた。
麦汁に酵母を添加し、麦汁内の糖分をアルコールに変える発酵を行っていく。稼働当初はステンレスの発酵槽と木桶の発酵槽を使い分けていたが、木桶の方がフルーティーで芳醇なフレーバーが生成されていると感じ、全て木桶の発酵槽に切り替えたという。発酵時間は96時間を目安に、職人が発酵状況を見極め、調整している。
こうしてアルコール度数7%ほどの醪ができあがる。それを丸ごと、銅製のポットスチル(蒸留器)に投入し、2回蒸留を行いアルコール度数を高め、更にフレーバーを生成していく。新潟亀田蒸溜所が目指すのは、“新潟淡麗”と謳われる新潟県の日本酒のように、あっさりとしながらも香り高く飲みごたえのあるウイスキー。そのために、ポットスチルの形状も設計した。
初留器は、胴体とネック部分にくびれがあるランタン型。重い成分が含まれた蒸気は上がって来れず、淡麗なスピリッツが回収される。それを再留器で更に蒸留。再留器は、ボールのような膨らみがあるバルジ型。銅と蒸気の接触面積が多いため、不快な成分は取り除かれ、豊かな香味成分が生成されるのだ。ポットスチルの上部・ラインアームは、飲みごたえのある酒質を狙うために、下向きに折れ曲がっている。
再留器から出てきたスピリッツは、無色透明でアルコールの刺激臭が目立つ。これを木樽で熟成すると琥珀色になり、芳醇な香りをまとうのだ。
熟成樽は、バーボンウイスキーやシェリー酒の熟成に使われていた樽を輸入するのがほとんどだが、「いずれ自社で樽も製造したい」と、帯鉄締め機を導入。熟成樽は、釘を1本も使わずに木材を組み立てており、帯鉄で締められている。帯鉄締め機のサポートで、樽の円盤部分のみ本桜に変更した樽を作製し、熟成を試みている。
2023年3月に完成した蒸留所併設の熟成庫は1,000樽が貯蔵可能。壁に断熱素材を用い温度変化を抑えるだけでなく、空調で温度調整できるようになっていて、30℃以下に保たれた部屋、15℃以下に保たれた部屋の2つに分かれている。これにより、熟成中のウイスキーが蒸発するエンジェルズシェアは3%ほどに抑えられ、長期間の熟成が可能になるという。
バーボン樽が60個ほど入るコンパクトなコンテナで数か月だけ貯蔵し熟成を促進させるといった、独自の取り組みも行っている。また、蒸留所の南西にある弥彦村には、伝統的なダンネージ式の熟成庫を構えている。新潟県内の様々な環境で熟成を行うことで、多様なフレーバーが生み出されるのだ。
AUTHOR
慶應義塾大学を卒業後、ラグジュアリーブランドに総合職として入社。『東京カレンダーWEB』にてライター・デビュー。エッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦氏に師事し、ウイスキーに魅了され、蒸留所の立ち上げに参画。ウイスキープロフェッショナルを保有し、酒類コンペティションの審査員も務める。公社)日本観光振興協会 日本酒蔵ツーリズム推進協議会 会員。
STAFF
Photos: Ami Kuroishi
Writer: Arisa Magoshi
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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