定番モデルの新作から見る、今年のトレンド その1

スイス高級腕時計の新作レポートvol.6

新作時計は、新しいデザインや画期的な機構に耳目が集まりがちだ。しかし定番モデルの新作こそトレンドの兆しは現れる。ブランドの屋台骨を支える定番モデルだからこそ、常に注目されるように新しい要素を巧みに織り交ぜられている。そんな新作の定番モデルを2回にわたって見ていこう。

FASHION Jul 13,2023
定番モデルの新作から見る、今年のトレンド その1
時計を見ている画像

今年はブランドの顔である定番モデルにリニューアルが相次いだ。またリニューアルとまではいかないが、バリエーションを追加して新機軸を打つ出すブランドも目立つ。定番モデルの新作はブランドからの新たなメッセージだ。すでにユーザーに受け入れられている世界観を大切にしながら、安定感のある定番モデルのわずかな変化や進化こそ、今の時代の空気感や新しいブランドの方針が盛り込まれているからだ。そんな定番モデルの変化に注目しながら新作を見ていこう。

まずはドレスウォッチの大定番を、大胆なスポーティなデザインにアレンジしたパテック フィリップからだ。

PATEK PHILIPPE

PATEK PHILIPPE「カラトラバ 6007」の画像
「カラトラバ 6007」。自動巻き。18KWGケース。ケースサイズ40mm。¥5,093,000。

1932年に登場したパテック フィリップのカラトラバは、ラウンドウォッチの規範となる腕時計として知られる。ケースと一体化した流麗なラグやフラットなベゼルなど、王道中の王道のドレスウォッチだ。そのカラトラバにスポーティな要素をプラスした「カラトラバ 6007」が発表された。

これはパテック フィリップがジュネーブのプラン・レ・ワットに建設した本社工場の落成記念に発売された限定モデルを踏襲したもの。生産本数からの観点からみると今やゴールド製よりも希少なステンレススティール製ケースだった。今作ではケースをホワイトゴールドにして、エボニーブラックダイヤルでレギュラーモデルとしてリリースされた。

まず感じるのはかつてないほどのカジュアルな印象だ。

ダイヤル中央に《カーボン》エンボスパターンを施し、二重のミニッツトラックを備えるデザインはレーシーでスポーティなデザインに仕上がっている。秒針やミニッツトラックのアワーマーカーや分目盛りに配されるカラーはレッド、イエロー、スカイブルーのカラーバリエーションが同時に用意されるのも新鮮だ。さらにストラップはカーボンエンボスパターンのカーフスキンでピンバックル仕様。これまでのドレスウォッチとは一線を画し、カジュアルに楽しめる“デイリー・カラトラバ”といえる。

180年を超える歴史を持つパテック フィリップは膨大なデザインや技術の蓄積を持つ。しかし最近では定番モデルでも過去のデザインにとらわれない傾向となっていて、年齢が偏らない幅広い層から支持されるコレクション形成を目指している。このカラトラバ6007もカジュアル化のトレンドを意識したこれまでとは違った魅力を備えた、パテック フィリップの新たな一手といえる。

そして次はケース&ブレスレット一体型のスタイル、ベゼルのビス、チタン素材などのトレンドを盛り込み、定番モデルをリニューアルしたIWCだ。

IWC

IWC「インヂュニア・オートマティック 40」の画像
「インヂュニア・オートマティック 40」。10気圧防水。自動巻き。チタンケース。ケースサイズ40mm。¥2,035,000。
IWC「インヂュニア・オートマティック SL」の画像
1976年に発表された、ジェラルド・ジェンタデザインの「インヂュニア・オートマティック SL」、通称「ジャンボ」だ。

IWCは6つのピラーコレクションのうち、ひとつにフォーカスして新作を発表していくのが恒例となっている。

今年は天才時計デザイナーのジェラルド・ジェンタの人物にもフォーカスしながら、「インヂュニア」コレクションにスポットライトがあたった。

初代のインヂュニアは1955年に軟鉄製インナーケースを備えることで8万A/mの耐磁性能に特徴を持つ時計だ。モデル名はドイツ語で“エンジニア”で電気機器を扱う技術者向けのモデルだった。

現在までに何度かリニューアルされているが、今作のモチーフとなったのが第2世代にあたるジェラルド・ジェンタがデザインを手がけた1976年発表の「インヂュニアSL」。ジェンタがラグジュアリースポーツウォッチのデザインを他社でもいくつもの名作を生み出していた時代のひとつだ。今回の新作発表に際して、IWCはジェラルド・ジェンタの直筆によるデザイン画も見つかったと公表している。

しかし、新型インヂュニアは単なるリメイクではなく、現代のテクノロジーを駆使して一から設計し直している。かつてはベゼルをねじ込むための窪んだ5つの穴の位置は、個体ごとにバラバラであったが、ベゼルの穴の位置を固定した。ケースと一体型ブレスレットのH型リンクは、新たにポリッシュ仕上げが施され、サテン仕上げとのコンビネーションでメリハリを利かせている。ダイヤルのグリードパターンもモダンな印象だ。そして約4万4000A/mの耐磁性能を備えながらケース厚は10.8mmに抑えられているので、装着感が快適になったのもポイントだ。

IWCは1980年からチタンケースモデルを発表してきており、チタンケースの先駆け的な存在でもある。グレード5チタンを採用したこのモデルは、新作はチタンモデルが多い中で、今年を象徴するモデルといえる。

原点に立ち返り、ヴィンテージテイストを推し進めるのがパネライだ。

PANERAI

PANERAI「ラジオミールオットジョルニ」の画像
「ラジオミールオットジョルニ」。手巻き。eスティールケース。ケースサイズ45mm。¥1,293,600。

ここ数年はコレクションを独立したサブマーシブルやルミノールの新作が多かったパネライだが、今年はブランドの原点にして大定番のラジオミールの新作がお目見え。ヴィンテージ感たっぷりの新しい仕上げのケースに注目が集まった。

パネライの創業者の孫であるグイド・パネライはイタリア海軍向けに精密機器を納品していたが、視認性を高めるためにラジウムを使用した粉末を開発して計器や照準器のダイヤルに塗布した。それが「ラジオミール」の始まりだ。暗闇でも明るく光る視認性で多くの特許を取得した。そしてその技術をイタリア海軍の特殊部隊に潜水用腕時計として開発したのが1935年だった。

そんなパネライの原点でもあるラジオミールは、ケースの仕上げをポリッシュにすることが多かった。新作の「ラジオミール オットジョルニ」は、PVDで薄膜を施したのち数年使い込んだ際にできるような傷をブルニト(Brunito)研磨で再現し、ケースに通常のサテン仕上げよりもハードな印象の独特な風合いを表現。ダイヤルはザラザラした質感に、外側に向かって色が濃くなるグラーデーションで仕上げた。しかも、ケース素材はリサイクルスティールを95%使用したeスティールだ。新品でありながら、長年使い込まれたようなヴィンテージ感のあるスタイルに仕上げた。

オットとは数字の「8」、ジョルニは「デイズ」を意味し、8日間のロングパワーリザーブ仕様なので実用性も高い。3時位置の「8 GIORNI BREVETTATO(8日間の特許取得)」は1956年製造のエジツィアーノモデルに最初に刻印されたもので、8日間パワーリザーブのこだわりを示している。

TUDOR

TUDOR「ブラックベイ」の画像
「ブラックベイ」。200m防水。自動巻き。ステンレススティールケース。ケースサイズ41mm。¥558,800(3列ブレス)、¥572,000(5列ブレス)、¥531,300(ラバーストラップ)。

チューダーの定番モデルあるブラックベイに、マスタークロノメーター認定ムーブメントを搭載する第2弾モデルが登場。「マスタークロノメーター」とは、スイス連邦計量・認定局(METAS)が制定する認定制度で、日常的な時計の精度ともに身の回りに1万5000ガウスの磁場にされられた場合でも時計が正常に動くことを保証するもの。多くの電子機器に囲まれた生活を送る今日では頼もしい品質認証制度だ。

このブラックベイは、チューダーのコーポレートカラーであるバーガンディのベゼルを纏っているのがポイント。2012年にブラックベイが初登場した時にもバーガンディベゼルが採用されていた。ブラックベイの歴史は2012年から2016年まで汎用ムーブメントを使用していた第一世代、2016年から現在までの自社製ムーブメントを搭載する第2世代、そしてマスタークロノメーター認定ムーブメントを搭載する新作のブラックベイからは第3世代ということができる。つまりこのバーガンディカラーのベゼルは新時代の始まりを示しているのだ。

ケースサイズは初代ブラックベイと同じケース径41mmで、ダイヤルカラーも同じくブラック。ブレスレットはこれまでの3列ブレスのほかに5列ブレスレットとラバーストラップが追加され、選択肢の幅が広がった。

またチューダーは新作時計とともに、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2023の開催に合わせて、新設した工場の稼働も発表。これによってマスタークロノメーター認定ムーブメントなど、よりハイクオリティなムーブメントの製造が増えていきそうだ。

お問い合わせ先
パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
03-3255-8109
IWC
0120-05-1868
オフィチーネ パネライ
0120-18-7110
日本ロレックス / チューダー
0120-929-570

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