美しきオープントップボディだからこそla Nuova Dolce Vita(新しい、甘い生活)に酔いしれる

フェラーリのグランドツアラー「ローマ・スパイダー」の全身に散りばめられた“進化したクラシカル”

フェラーリによれば「ローマ」は往年のGTカー「250GTベルリネッタ ルッソ」や「250GT 2+2」などからインスピレーションを得たという。そのベースがあってのオープンボディも美しさは変わりがない。

LIFESTYLE Aug 29,2025
美しきオープントップボディだからこそla Nuova Dolce Vita(新しい、甘い生活)に酔いしれる

フェラーリが美しくあるための条件

ローマ・スパイダーの画像

オフィスビルの地下駐車場に降りると、「Celeste Trevi(セレステ・トレヴィ)」という外装色を纏った、フェラーリ「ローマ・スパイダー」が佇んでいた。薄暗さがローマ・スパイダーの妖艶さをより際立たせていた。

フロントエンジン、リアドライブのFRレイアウト、つまりミッドシップではない、FRレイアウトのフェラーリの美しさと独特のエレガンスがどんどん自己を主張してくる。おまけに目の前にあるのはソフトトップモデルである。フェラーリに限らずエレガントさで言えば、やはりソフトトップに敵うものはない。

2019年にローマがローンチされた際、フェラーリのFRモデルの美しさを再認識したが、スパイダーは、その思いをさらに強くさせてくれた。ロングノーズ・ショートデッキの伸びやかなFRボディに、ソフトトップの組み合わせは“カッコ良さの黄金比”を完璧に具現化しているかのように感じたのだ。なんでもFRのフェラーリにソフトトップが採用されたのは1969年の「365 GTS4」以来、実に54年ぶりのことだ。乗り込む前から「la Nuova Dolce Vita(新しい、甘い生活)」を予感させてくれたのだ。ちなみにフェデリコ・フェリーニ監督のイタリア映画「甘い生活」にも由来するこの言葉は「ローマの発表イベント」でサブタイトルとなっていた。

フェラーリ伝統の格子グリルをモチーフにしたフロントマスクの画像
フェラーリ伝統の格子グリルをモチーフにしたフロントマスク。表情を和らげると同時にエレガンスを強く感じる表情になっている。

なだらかに延びたボンネットフードの内側に収まるV型8気筒3.9Lツインターボエンジンに火を入れる。最高出力620psにふさわしい咆吼が容赦なく車内にも入ってきた。白状すれば、この時だけは“ローマ・スパイダーには似合わない”とも思った。一方でフェラーリと言えば“まずはエンジン”だから、これも致し方ないか、とも……。

ドレスを纏ったF1マシンなどとも言われるローマのコクピットの画像
ドレスを纏ったF1マシンなどとも言われるローマのコクピットには、フェラーリの走りを直感させる仕上げになっている。車両の操作は、ほとんどステアリングホイールで行えるようになっている。
マニュアルモデルのシフトゲートを想起させるシフトの操作部の画像
マニュアルモデルのシフトゲートを想起させるシフトの操作部。シンプルで操作性も良いがマニュアルモードでのシフトチェンジは、ステアリング奥にある大きなレバーで行う。

ドライブにシフトして駐車場のスロープをユルユルと上り、地上へと向かった。そしてフロントスクリーンに外光が差し込むと、そこには真夏の六本木が待っていたが、クローズドのままのローマのキャビンはエアコンも効いて快適そのもの。熱風が吹き、熱が充満する酷暑とフェラーリ。一昔前なら考えられない組み合わせだと考えたとき、過去のあるシーンを思い出した。

1980年代後半のことだったが、自動車評論家の故・徳大寺有恒さん(以下、徳さん)と、真夏の都内を「ランチア・テーマ8.32」に乗って走っているときのことだった。今ほどでは無いにしろ、都市部のヒートアイランド化はかなり進み、灼熱状態だったと思う。そこにフェラーリ308クワトロバルボーレに搭載されていたV型8気筒DOHC32バルブエンジンをデチューンしてFF(前論駆動)のテーマという、ごく普通のセダンに搭載したクルマで乗り出したのだ。

すると途中でエンジンがパーコレーションのような不調さを見せた。まずはエアコンを切り、何とか頑張って走ってはみたものの、あっけなく真夏の路上(ギリギリ木陰に滑り込んだ)で停車。徳さんと、汗だくになりながら、行き交うクルマを見ながらボンネット開けて気休めのクールダウンとなった。どんどん機嫌が悪くなる徳さんをなだめながら、「フェラーリの雰囲気を味わえるファミリーカーとしてありですかね?」と聞いた。

「確かにフェラーリのエンジンは魅力的だが、それだけのためにコイツを買うことは、僕はないな」という。そして「フェラーリはエンジンとメカニズム、スタイル、インテリア、排気音、そして加速などの走りのすべてが一体となってこそ、美しいものだよ。ランチア・テーマというサルーンは魅力的だが、別にフェラーリのエンジンを積む必要はない」ときっぱり。機嫌の悪さもあっただろうが、それでも冷静に分析する徳さんに感心しているうちに、少し状況が改善。なんとか再スタートして徳さんを定宿のホテルまで送り届けた。この時以来、フェラーリに必要とされる“高度な美しさとはなにか?”と意識するようになった。

走ることを強制されない、心穏やかなフェラーリだが……。

もちろん現在のフェラーリは、そこまでの用心は必要ないし、30℃超えの都内を走っていてもローマ・スパイダーは軽快に走り抜けている。気が付くとミッドシップモデルを凌ぐようなフィット感を全身で感じながらドライブしていた。

「よし、海を見にいこう」。首都高速に滑り込むとフェラーリにふさわしい加速感とエンジンサウンドを心地よく響かせながら一気に流れに乗る。ここまでの一連の動きをこそフェラーリを名乗るに相応しいパフォーマンスを披露しているのだ。地下駐車場では少しばかり気になっていたエンジンサウンドは、ありきたりだが最高のBGMとしてキャビンに流れてくる。オートクルーズをセットするのもローマ・スパイダーとの相性は不思議なほどマッチしている。フェラーリだからといって四六時中熱くなる必要なはい。そんな諭しを受けているような気分でクルージングが続いた。

もはや定番とも言えるV8エンジンの画像
もはや定番とも言えるV8エンジン。ポルトフィーノらから受け継がれたこのユニットは、4年連続でインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを獲得した名機。

もちろん炎天下にオープンにするほど好き者ではないので、ずっとクローズドだ。耐候性も良く暑さが伝わることもないし、風切り音などはほぼ感じない。クーペモデルならではの快適性もしっかりと保たれている。

「こんな状況で今日はルーフを開けられるだろうか?」

そんな不安はすぐに解消された。高速を降り、伊豆半島を南下する国道135号線に入る。左手に真っ青な相模湾が拡がり、風にも涼やかさが感じられるようになった。車速が60km/h以下なら走行中でも開閉操作できるというソフトトップを開け放った。エアコンの吹き出しからは冷風が吹き出しているので、照らされて暑いが不快ではなかった。渋滞を避けて途中のワインディングへと逃げ込んで、心地よくワインディングを駆け抜ける。ガチガチの硬さはなく、程よい緩さがむしろローマ・スパイダーならではの“緩やかな速さ”をたっぷりと味わうことが出来る。

ソフトトップを開け放つとリアセクションのグラマラス感がさらに強調される様子の画像
ソフトトップを開け放つとリアセクションのグラマラス感がさらに強調される。美しさと肉感的な造形が絶妙に溶け合っている。
フェラーリのDNAが息づいている星形のアロイホイールの画像
フェラーリのDNAが星形のアロイホイールにも息づいている。

海沿いのパーキングスペースに滑り込み、ソフトトップを閉じてみた。「オープンカーはソフトトップこそエレガントだし、ルーフを閉じているときのスタイルが最も重要なのだ」

これも徳さんの言葉だが、確かにオープンカーはクローズドで走ることがほとんどであり、そのスタイルが酷ければルーフを開け放っても楽しさは半減するわけだ。もちろんローマ・スパイダーの佇まいは開けても閉めても“美しい”のだ。これなら確実に「甘い生活」は手にできるはずだ。

電動ソフトトップを閉めた画像
13.5秒で開閉が可能な電動ソフトトップを閉めても、エレガントさは損なわれない。オープンにはソフトトップが似合うという徳大寺さんの意見がよく分かる。

先日、日本でもフェラーリ「アマルフィ」が登場した。人は「ローマの後継車」として見るかもしれないが、すっかり印象が変わった。ローマ・スパイダーと共に過ごしてみると継承してきたクラシカルな味わいの中に、しっかりと現在でも通用する進化をふんだんに採り入れてあり、FRフェラーリならではの大切なエレガンスを表現している。それだけでもローマとローマ・スパイダーは完全に独立したモデルであり、後継車はまた別の存在になるのだ。言わば歴代のフェラーリの各モデルは、フェラーリ家に生まれながら一代君主のような存在として、それぞれが輝いているような気がする。

おまけに+2シーターであり、条件によっては4人まで乗れるエレガントな佇まいのローマ・スパイダー。これなら“ファミリーカーとしても使えるフェラーリ”として通用すると思いますが、徳さん、どう思いますか?

ドライバーズシートとパッセンジャーシートとが独立した空間としてデザインされた“デュアル・コクピット・コンセプト”の画像
ドライバーズシートとパッセンジャーシートとが独立した空間としてデザインされた“デュアル・コクピット・コンセプト”。2+2として合法的に4人乗車は可能だが、当然かなりタイトである。
主要諸元Ferrari Roma Spider
エンジン3,855cc V型8気筒DOHCターボ
最高出力620PS(456kW)/5,750-7,500rpm
最大トルク760N・m(77.5kgf・m)/3,000-5,750rpm
全長×全幅×全高4,656×1,974×1,306㎜
車両重量1,556kg
駆動方式FR
車両本体価格3,436万円(税込)~
お問い合わせ先
フェラーリ ジャパン
https://www.ferrari.com/ja-JP/auto/ferrari-roma-spider

SHARE

AdvancedClub 会員登録ご案内

『AdvancedTime』は、自由でしなやかに生きるハイエンドな大人達におくる、スペシャルイシュー満載のメディア。

 

高感度なファッション、カルチャーに溺愛、未知の幅広い教養を求め、今までの人生で積んだ経験、知見を余裕をもって楽しみながら、進化するソーシャルに寄り添いたい。

何かに縛られていた時間から解き放たれつつある世代のライフスタイルを豊かに彩る『AdvancedTime』が発信する情報をさらに充実し、より速やかに、活用できる「AdvancedClub」会員組織を設けました。

 

「AdvancedClub」会員に登録すると、プレゼント応募情報の一覧、プレミアムな会員限定イベント、ブランドのエクスクルーシブアイテムの紹介など、特別なコンテンツ情報をメールマガジンでお届け致します。更に『AdvancedTime』のタブロイドマガジンのご案内もあり、送付手数料のみをご負担いただくことでお手元で『AdvancedTime』をお楽しみいただけます。

登録は無料です。

 

一緒に『AdvancedTime』を楽しみましょう!