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フェラーリによれば「ローマ」は往年のGTカー「250GTベルリネッタ ルッソ」や「250GT 2+2」などからインスピレーションを得たという。そのベースがあってのオープンボディも美しさは変わりがない。
オフィスビルの地下駐車場に降りると、「Celeste Trevi(セレステ・トレヴィ)」という外装色を纏った、フェラーリ「ローマ・スパイダー」が佇んでいた。薄暗さがローマ・スパイダーの妖艶さをより際立たせていた。
フロントエンジン、リアドライブのFRレイアウト、つまりミッドシップではない、FRレイアウトのフェラーリの美しさと独特のエレガンスがどんどん自己を主張してくる。おまけに目の前にあるのはソフトトップモデルである。フェラーリに限らずエレガントさで言えば、やはりソフトトップに敵うものはない。
2019年にローマがローンチされた際、フェラーリのFRモデルの美しさを再認識したが、スパイダーは、その思いをさらに強くさせてくれた。ロングノーズ・ショートデッキの伸びやかなFRボディに、ソフトトップの組み合わせは“カッコ良さの黄金比”を完璧に具現化しているかのように感じたのだ。なんでもFRのフェラーリにソフトトップが採用されたのは1969年の「365 GTS4」以来、実に54年ぶりのことだ。乗り込む前から「la Nuova Dolce Vita(新しい、甘い生活)」を予感させてくれたのだ。ちなみにフェデリコ・フェリーニ監督のイタリア映画「甘い生活」にも由来するこの言葉は「ローマの発表イベント」でサブタイトルとなっていた。
なだらかに延びたボンネットフードの内側に収まるV型8気筒3.9Lツインターボエンジンに火を入れる。最高出力620psにふさわしい咆吼が容赦なく車内にも入ってきた。白状すれば、この時だけは“ローマ・スパイダーには似合わない”とも思った。一方でフェラーリと言えば“まずはエンジン”だから、これも致し方ないか、とも……。
ドライブにシフトして駐車場のスロープをユルユルと上り、地上へと向かった。そしてフロントスクリーンに外光が差し込むと、そこには真夏の六本木が待っていたが、クローズドのままのローマのキャビンはエアコンも効いて快適そのもの。熱風が吹き、熱が充満する酷暑とフェラーリ。一昔前なら考えられない組み合わせだと考えたとき、過去のあるシーンを思い出した。
1980年代後半のことだったが、自動車評論家の故・徳大寺有恒さん(以下、徳さん)と、真夏の都内を「ランチア・テーマ8.32」に乗って走っているときのことだった。今ほどでは無いにしろ、都市部のヒートアイランド化はかなり進み、灼熱状態だったと思う。そこにフェラーリ308クワトロバルボーレに搭載されていたV型8気筒DOHC32バルブエンジンをデチューンしてFF(前論駆動)のテーマという、ごく普通のセダンに搭載したクルマで乗り出したのだ。
すると途中でエンジンがパーコレーションのような不調さを見せた。まずはエアコンを切り、何とか頑張って走ってはみたものの、あっけなく真夏の路上(ギリギリ木陰に滑り込んだ)で停車。徳さんと、汗だくになりながら、行き交うクルマを見ながらボンネット開けて気休めのクールダウンとなった。どんどん機嫌が悪くなる徳さんをなだめながら、「フェラーリの雰囲気を味わえるファミリーカーとしてありですかね?」と聞いた。
「確かにフェラーリのエンジンは魅力的だが、それだけのためにコイツを買うことは、僕はないな」という。そして「フェラーリはエンジンとメカニズム、スタイル、インテリア、排気音、そして加速などの走りのすべてが一体となってこそ、美しいものだよ。ランチア・テーマというサルーンは魅力的だが、別にフェラーリのエンジンを積む必要はない」ときっぱり。機嫌の悪さもあっただろうが、それでも冷静に分析する徳さんに感心しているうちに、少し状況が改善。なんとか再スタートして徳さんを定宿のホテルまで送り届けた。この時以来、フェラーリに必要とされる“高度な美しさとはなにか?”と意識するようになった。
もちろん現在のフェラーリは、そこまでの用心は必要ないし、30℃超えの都内を走っていてもローマ・スパイダーは軽快に走り抜けている。気が付くとミッドシップモデルを凌ぐようなフィット感を全身で感じながらドライブしていた。
「よし、海を見にいこう」。首都高速に滑り込むとフェラーリにふさわしい加速感とエンジンサウンドを心地よく響かせながら一気に流れに乗る。ここまでの一連の動きをこそフェラーリを名乗るに相応しいパフォーマンスを披露しているのだ。地下駐車場では少しばかり気になっていたエンジンサウンドは、ありきたりだが最高のBGMとしてキャビンに流れてくる。オートクルーズをセットするのもローマ・スパイダーとの相性は不思議なほどマッチしている。フェラーリだからといって四六時中熱くなる必要なはい。そんな諭しを受けているような気分でクルージングが続いた。
もちろん炎天下にオープンにするほど好き者ではないので、ずっとクローズドだ。耐候性も良く暑さが伝わることもないし、風切り音などはほぼ感じない。クーペモデルならではの快適性もしっかりと保たれている。
「こんな状況で今日はルーフを開けられるだろうか?」
そんな不安はすぐに解消された。高速を降り、伊豆半島を南下する国道135号線に入る。左手に真っ青な相模湾が拡がり、風にも涼やかさが感じられるようになった。車速が60km/h以下なら走行中でも開閉操作できるというソフトトップを開け放った。エアコンの吹き出しからは冷風が吹き出しているので、照らされて暑いが不快ではなかった。渋滞を避けて途中のワインディングへと逃げ込んで、心地よくワインディングを駆け抜ける。ガチガチの硬さはなく、程よい緩さがむしろローマ・スパイダーならではの“緩やかな速さ”をたっぷりと味わうことが出来る。
海沿いのパーキングスペースに滑り込み、ソフトトップを閉じてみた。「オープンカーはソフトトップこそエレガントだし、ルーフを閉じているときのスタイルが最も重要なのだ」
これも徳さんの言葉だが、確かにオープンカーはクローズドで走ることがほとんどであり、そのスタイルが酷ければルーフを開け放っても楽しさは半減するわけだ。もちろんローマ・スパイダーの佇まいは開けても閉めても“美しい”のだ。これなら確実に「甘い生活」は手にできるはずだ。
先日、日本でもフェラーリ「アマルフィ」が登場した。人は「ローマの後継車」として見るかもしれないが、すっかり印象が変わった。ローマ・スパイダーと共に過ごしてみると継承してきたクラシカルな味わいの中に、しっかりと現在でも通用する進化をふんだんに採り入れてあり、FRフェラーリならではの大切なエレガンスを表現している。それだけでもローマとローマ・スパイダーは完全に独立したモデルであり、後継車はまた別の存在になるのだ。言わば歴代のフェラーリの各モデルは、フェラーリ家に生まれながら一代君主のような存在として、それぞれが輝いているような気がする。
おまけに+2シーターであり、条件によっては4人まで乗れるエレガントな佇まいのローマ・スパイダー。これなら“ファミリーカーとしても使えるフェラーリ”として通用すると思いますが、徳さん、どう思いますか?
主要諸元 | Ferrari Roma Spider |
エンジン | 3,855cc V型8気筒DOHCターボ |
最高出力 | 620PS(456kW)/5,750-7,500rpm |
最大トルク | 760N・m(77.5kgf・m)/3,000-5,750rpm |
全長×全幅×全高 | 4,656×1,974×1,306㎜ |
車両重量 | 1,556kg |
駆動方式 | FR |
車両本体価格 | 3,436万円(税込)~ |
AUTHOR
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
STAFF
Writer: Atsushi Sato
Photos: Yuichiro Ogura
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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