豪雨から復興へ。『囁きの河』に出演した宮崎美子が伝えたい熊本の魅力と今。後編

俳優
宮崎 美子

令和2年7月の熊本豪雨からの復興を描いた『囁きの河』。豪雨直前まで人吉に滞在していた出演者の宮崎美子は、熊本県出身としても知られている。月に一度は故郷で過ごしているという、熊本の魅力や九州人の気質、復興の現実を、そして母親役から愛らしいおばあちゃん役まで演じるようになり、常に笑顔で前向きでトライアルし続ける秘訣を伺いました。

LIFESTYLE Jul 21,2025
豪雨から復興へ。『囁きの河』に出演した宮崎美子が伝えたい熊本の魅力と今。後編

熊本豪雨直前まで現地に滞在。宮崎美子が復興への想いを巡らす映画『囁きの河』 前編はこちらから

大人が静かに元通りの暮らしを取り戻そうとしている様子を見て育った若い人たちが、より力強く、その場所で生きていく

──宮崎さんが今、東京にいるからこそわかる、熊本の魅力はどんなところでしょうか。

「いい意味で、とっても大きな田舎だと感じるようになりました。田舎っていろんなイメージがあると思うんですけど、力強いんです。地面や川、海、山、そこからエネルギーを直接、もらえているような逞しさがあります。地域の繋がりや土地ならではの美味しいものもたくさんあります。何があっても、簡単にはガラガラと崩れ去らない。立ち直れる力を持っていますよっていう心意気。それはやっぱり、偉大な田舎だからのような気がしています」

──熊本城も修復中です。

「あと、20、30年はかかるみたいですね。面白いのは、復旧している様子を見せるための通路をわざわざ作っているところです。考え方によっては、今まで絶対に見ることができなかった角度からお城を見ることができるようになりました。私がすごくいいなと思ったのは、全国から石工や建築の方など、エキスパートを集めて、大人が頑張って元通りにしようとしている姿を子どもたちが見て育つこと。すごくいい下地を作っているなと思うんですよね。人吉もそうです。大人が静かにまた元通りの暮らしを取り戻そうとしている様子を見て育った若い人たちが、よりもっと力強く、その場所で生きていくことができたらいいなと思っています」

──肥後もっこすという言葉がありますが、住んでいる方々はどうでしょうか。

「九州男児って、男尊女卑みたいなイメージがあるじゃないですか。でも偉そうな顔をしている相手を『そうだね』って煽てて、働かせて、牛耳っているのが女性。それこそが九州男児の正しい形です(笑)。頑張り者のお母さん、女性たちが家庭をドーンと守っているのが円満な九州の家庭だと思います」

『囁きの河』の画像
映画制作のきっかけは絵本「川があふれた!まちが沈んだ日 生きる力をくれたキジ馬くん」。
©Misty Film

“ああ、楽しかった。明日も元気に生きていけそうだな”って思っていただけるような作品、役が私は好き

──お仕事は熊本を優先されているそうですが、役者のお仕事ではどんな作品を重視しているなど、モットーはありますか。

「作品を選べるような、そんな立場にはないのですけれど、見た方が“ああ、楽しかった。明日も元気に生きていけそうだな”って思っていただけるような作品、役が私は好きです。特にテレビは家の中に入ってくる物ですから、私自身もまた、励まされたり、ほっとしたり、温かい気持ちになれるようなものが好きですし、そんな作品の一員になれたらという気持ちが大きいです。今回の映画の役柄も、そばにいてくれている伴侶がいて、友だちや地域の人たちの助けもいっぱいあって、その中で安心して、自分の日々を大切に生きていく。幸せな人だと思って、演じていました」

──最近の宮崎さんは母親役を演じられることが多いですが、「おむすび」ではおばあちゃん役だったので、驚きました。

「実は私もそうなんです。もちろん同級生の中にはリアルにおばあちゃんはいるんですけど、それでもまだ孫は幼いんです。最初にお母さん役をいただいた時も“ああ、きたか”と思ったんですよね。その時の子どもは赤ちゃんだったんですけど、だんだんと大きくなり、今や『おむすび』の時には息子の聖人(北村有起哉)が最終的には60歳を過ぎていましたから。それはちょっと、どう受け止めていいのか、いまだによくわかっていないです(笑)」

──いつも若々しく、年齢を感じさせません。どのように過ごしていらっしゃるのでしょうか。どんなことがモチベーションになっていますか。

「いろんな仕事場、現場に行って、いろんな年代の方にお会いできるのがエネルギーになっているのかなと思います。身近に子供がいないからというのもあるのですが、子役の子に『今、何が流行っているの?』『どんなアニメを見ているの?』といった話を聞いたりして、今の子はそんな風に考えるんだと刺激を受けたりしています。いろんなことに好奇心を持っていられるのが元気の素だったり、あるいは若いと言っていただけるのなら、その素なのかなと思います(笑)」

『囁きの河』の画像
元は高校教師だったさとみさんが年齢を経て、出会った伴侶が直彦さん。
©Misty Film

誰もが少しずつ緩やかに、優しくなれていけたら、お互い、生きやすくなるのかな

──たくさん、趣味もお持ちですよね。

「どれも中途半端になっているんですけど、別にもう、これから先、何かを極めたいとは思っていないから、ちょこちょこ楽しめたらいいかなって勝手ながら思っているんです。YouTubeを続けているんですけれども、最初のきっかけは“ボルダリングというものをやってみたい”ってことだったんです。自分1人ではなかなか行く勇気がなかったけれど、撮影だというノリでやってみると、垣根が少しだけ低くなる。ここのところはちょっとサボり気味ですけれど、やってみてよかったと思っています。子どもの頃に面白そうだな、やってみたいなと思っていたけれど、やりそびれていたこと、できないでいたことを真似っこだけでもいいから味わってみよう、と。年齢は重ねてしまいましたけど、気持ちに余裕が生まれたんですね。小さな畑の野菜作りもそうです。見よう見まねですけど、やってみると、苦労や楽しさなどがわかってきます。『野菜が高い』と言ってしまうのは簡単だけれど、“こんな気候の中で大変な作業だもの”と理解できるようになりました」

──脳だけでなく、体も動かすのがきっと良いんですね。

「運動神経はあんまり良くないし、スポーツもできない方なんですけど、それでも楽しめることはあるんです。今から、大会を目指すわけではないですから、別に焦る必要もない。そんな風に割り切れるようになったのは、歳をとっていいことのひとつだと思います。誰かと競わなくていいんです。若く見えるかどうかもまた、競わなくていいことです。無理しすぎずに楽しんでいられたら。そういう気持ちになってきています」

──今後、していきたい活動などはありますか。

「今、熊本の子どもの図書館(こども本の森 熊本)の名誉館長をやっているんです。安藤忠雄さんが大きな震災の被災地に建物を寄贈してくださっていて、大阪の中之島、神戸、遠野に続き、熊本はその4番目、九州初になります。子どもたちのための絵本が中心の図書館ですけれど、ささやかながらお手伝いしているのが、現在の楽しみのひとつです。そこでまた子どもたちと出会い、新鮮な刺激を受けて、活動していけたらと思っています。ますます故郷に行く機会が増えていくかもしれないですね」

──素敵な歳の重ね方ですね。

「誰と競争するとか、あるいは若い頃の自分と張り合うことも必要ないことだと思うんです。若くいなきゃいけないってこともありません。かといって、全部諦めるかって手綱を緩めてしまうのでもなく、ちょこっとだけ、これだけは頑張るぐらいで。自分も許せて、他人も許せると、楽になるような気がします。誰もが少しずつ緩やかに、優しくなれていけたら、お互い、生きやすくなるのかなと思ったりします。大事なことはしっかり持っていなきゃダメですけど、大事なことって実は一握りぐらいで、捨ててもいいことがいっぱいあります。無駄に疲れちゃうことはもう無くしちゃっていいかな。年を重ねると、体力的にもだんだん無理はできなくなるし、役柄もおばあちゃんになってきていますから(笑)。でも、子どもって、おばあちゃんのことが大好きですよね。だから、このポジションもあり。歳をとることを自然に受け入れられるようになってきたのかもしれません」

『囁きの河』の画像
監督・脚本は「おしん」の大木一史。
©Misty Film

『囁きの河』

池袋シネマ・ロサ、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開中
出演:中原丈雄 清水美砂 三浦浩一
渡辺裕太 篠崎彩奈 カジ 輝有子
寺田路恵 不破万作 宮崎美子
監督・脚本:大木一史
配給:渋谷プロダクション

PROFILE
俳優 宮崎 美子
俳優
宮崎 美子

宮崎美子 みやざきよしこ/熊本県出身。1980年に「週刊朝日」の表紙モデルに起用された後、ミノルタカメラのCMに出演。同年ドラマ「元気です!」(TBS)の主演で俳優デビュー。以降、映画、ドラマ、舞台、クイズ番組などで広く活動する。映画『雨あがる』(00)で日本アカデミー優秀主演女優賞、ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。近年の主な出演作に、連続テレビ小説「おむすび」(NHK)「介護スナックベルサイユ」(東海テレビ)「しあわせは食べて寝て待て」(NHK)など。「くりぃむクイズ ミラクル9」(テレビ朝日)、故郷の熊本では「週刊山崎くん」(RKK熊本放送)にレギュラー出演中。


MOVIE WRITER
髙山亜紀

フリーライター。現在は、ELLE digital、花人日和、JBPPRESSにて映画レビュー、映画コラムを連載中。単館からシネコン系まで幅広いジャンルの映画、日本、アジアのドラマをカバー。別名「日本橋の母」。

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